第9話

 Aランク冒険者でもあるフレイヤさんお勧めの武器屋や防具屋を教えて欲しいとお願いしたら、両方扱っている腕のいい鍛冶職がいるらしく、紹介してくれることに。

 紹介状のようなものを書いてくれたので、そのうち何かお礼しないとなと思いながらギルドを後にした。


 本日のすべきこと第2弾は、服を買うこと。


 女神も服の予備ぐらい付けてくれても良かったんじゃ、と思う。

 まあ、そう思うのは、ワークパンツがスライム君のせいで破れているから。今は、バンダナみたいなのを破れてるとこに巻いてごまかしてる状態。


 商店街みたいな所は、昨日買っておいた街区内案内図でばっちりなはずなので、取り敢えず向かってみる。


 途中、屋台や露天商の商品を見ながらゆっくり歩いた。


 いい街だな。そう実感する。


 スウェーガルニはアリステリア王国の公爵が治める公爵領に属している。

 アリステリア王国は、ヒト種の平等と奴隷制度撤廃を謳った人族、獣人族、エルフ族の有志が集まって建国された国だという。

 建国時の理念がずっと尊重され続けていて、それを守る為の他国との戦争も過去にはあったらしい。


 なので、スウェーガルニには奴隷は居ない。必要悪だという考えは建国時に否定されているので、その問題解決を意図した制度が早くから充実しているのが特徴。だから、他国と比べて税金は決して安くはないんだと。


 女神由来の常識知識によれば、アリステリア王国は出生率が他国よりも高く、また異種族間の混血の割合も高い。そして食料自給率もこの大陸内ではトップレベル。


 内政がしっかりしてるんだろうな。


 さて、服は、同じようなデザインのワークパンツ、シャツや下着なども少し多めに購入。部屋履きとして使えそうなサンダルもあったので、それも。


 破れているワークパンツは、店の人が言うには「結構いい品ですよね」

 修繕することを勧められてお願いすることにした。修繕そのものは外部委託だから、1週間後ぐらいには職人の都合や仕上がりの予定がはっきりするだろうと。


 宿の名前を言って、言付けしてもらうよう頼んだ。まだ双頭龍の宿にはお世話になるつもりなので、今日にでも滞在延長しておこう。


 そして本日の予定第3弾は、門番さんの所というか衛兵の事務所を訪ねてギルドカードを提示すること。脱、短期滞在者。



 予定していたことを一応済ませて昼飯は屋台で買い食いして済ませたけど、満足。この街は食べ物が美味しいと思う。他の街については何も知らないんだけどね。


 さて、まだ時間もあるのでフレイヤさんお勧めの鍛冶師がやっている武器防具店へ突撃してみよう。こちらからは反対側だけどギルドの近くなので、ギルドの前を通っていくことにする。


 そう考えたところでふと思いついた。

 フレイヤさんは副ギルドマスターでもあり、話した感じからもギルドの要職のせいか政治的なことでも公平な印象を持った。


 ゴブリンから回収した剣については、フレイヤさんに相談してもいいかも。


 我ながらそれはいい考えだと思えてきたので、早速、一旦宿に戻り剣を収納から取り出してギルドに向かう。


 昼食時を少し過ぎたギルド内は、まだ飲食スペースに屯している冒険者の姿が多かった。カウンターを見るとフレイヤさんが座っていたので、ちょっと相談したいことがあると言うと、ニッコリ微笑みながらカウンターから出てきて相談室? 会議室みたいな部屋に案内された。


「で? 早速お姉さんに頼ろうという、その内容を聞かせなさい」

 とフレイヤさんがそう言って笑う。


「すみません。登録したばかりの新人の癖に、もう少し空気読めよと言われそうな気もしたんですけど、フレイヤさんに相談するしかないと思い立ったら、もう早い方がいいだろうと来ちゃいました」


 俺は薄手の毛布で包んだ中から剣を取り出す。それを見たフレイヤさんは、途端に真面目な顔つきに変わって剣を見つめる。


「シュン君…。それは」


「昨日この街に着く直前にゴブリン4匹と遭遇しました。そのうちの1匹が持っていた剣がこれです。どう見ても安物の剣じゃないですし、それに俺にはどこのものか判らないんですけど、紋章のようなものも刻印されてます」


「……」

 フレイヤさんは俺から剣を受け取ると、無言で鞘から抜いた。


 しばらく剣を見つめていたが、ため息を吐いて

「シュン君はこれをどうしたいと思ってるの? さっきの話の流れだとゴブリンは退治したんだよね。そうして手に入れた物ならば、これはシュン君の剣よ。紋章の扱いだけは慎重にしないと駄目だけど」


「その理屈は俺も理解してます。けれど、これって女性用の剣ですよね」


「うん。間違いないでしょうね。そして、おそらくかなり高貴な方に因んだ物よ」


「高貴な方とかは俺はどうでもいいです。ただ、何か無念さを感じるというか、悔しいというのか、この剣を見た時にそう思ってしまったんです」


「うん…」


「だからなのか、この剣は返さなきゃいけない。家に帰りたがってるんじゃないかと…」


 気を取り直して、努めて明るい声を意識して俺は話を続ける。

「それでですね。まず、この剣を綺麗にしてあげたいということ。次は、この剣を本来の居場所に返してあげるための方法の相談なんです」


「シュン君、もしかして鍛冶屋を紹介してもらいたがったのは…」


「うん、そうなんですよ。腕のいい人の手で磨いてもらいたいなと、そう思ってたので」


 ぐっと身を乗り出して俺を見つめたフレイヤさんは

「解ったわ。全面的に協力する。鍛冶屋はさっきのとこで問題ないと思うけど、返却は…、そうね…」


 おっと忘れてた。この前提は言っとかないと。

「あ、相手から謝礼なんか絶対受け取りませんからね。鍛冶屋への支払いも俺が出します。そうするって決めたんです」


「え? そういう訳にはいかないんじゃないかしら。相手にもメンツってものがあるんだよ?」



 結局、ギルドが仲介してくれる形で先方に連絡を取ることに。フレイヤさんは紋章が意味する相手が誰なのか既に判ってるみたい。

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