第7話

 高級宿ではないんだけど、俺がチェックインした「双頭龍の宿」の部屋は快適そのものである。セミダブルぐらいのベッドに、書き物が出来るように専用の照明まで備えられたデスクと椅子。クローゼットの中には大型の貴重品収納があり、冒険者向けに大きな物まで入る容量の大きさがある。


 部屋の照明や水回りには惜しみなく魔道具が使われていて、これに関しては仕事してくれた女神からの埋め込み知識で、すぐに操作方法などが理解できた。


 このデルネベウムで、人が魔力を何かに向けるという行為は魔法が使えることと決してイコールではない。魔力は全てのヒト種が持っていてある程度は誰でも意識して操作できるもの。それを体外に少し漏らすぐらいなら、魔法を習得していなくとも拳を軽く握る程度の意識加減で、幼い子どもでも出来ることなのだ。


 そしてこのヒト種が放つ魔力には発した者個々で異なるユニークな波長があり、それで個体認証までをも可能としている。更には、その技術を利用した多くの物が実用化されているというのが、現在のデルネベウムの魔法技術レベルを表していると言える。


 貴重品収納にもこの技術が応用されていて、施錠設定時の魔力波長と一致した者でないと開けられない仕様となっている。但し、宿に置かれている収納はそれに有効期限の設定が出来るようになっていて、俺の宿の滞在期限が過ぎるとその施錠設定が解除される仕組み。


 俺はゴブリンから回収した剣をその収納へしまい込んだ。誰にこの剣の返却を託すか、それを決める為の情報が不足している。更には、もっと綺麗な状態にして返してあげたいという気持ちもある。腕の良い武器屋にそういうメンテのようなことを頼みたいと思っているが、そういう情報もまだ何も持っていないのだ。


 そんな訳で、いわくがありそうなこの剣はしばらくはこの収納で休ませておこうと考えた次第。


「夕食の準備整いました~」

 という声で呼ばれ、俺は異世界初めてのまともな食事を堪能した。


 昼は歩きながら乾パンのような物と水だけだった反動もあり、大満足である。ボリュームたっぷりのステーキ、サラダ、白くて柔らかいパンに紅茶。酒は飲まなかった。エールやワインを勧められたけど。

 肉の焼き加減は、ヒト種はウェルダンが一般的で敢えて加減を聞くことはないらしいが、それに関しては俺の好みと同じなので文句はない。


 宿の女将さんはイリヤさんと周囲から呼ばれている。


 そのイリヤさんは、俺のテーブルに配膳してくれた時にニッコリ微笑むと

「シュンさん、お風呂これからでしょう? 夕食後、少しすると空いてますから。ゆっくり入ってください」

 と教えてくれた。


 風呂は思ってたより広く、また想像していたよりも格段に清潔だった。ここでも魔道具が活躍している。

 なんとなくだけど、さっき収納の施錠設定をした頃から魔道具との魔力のやり取りみたいなものか、魔力の流れというのか。そういう微細なものを感じ取れ始めたような気がしている。

 あ、ここら辺に魔力を使った何かがあるな。という程度だけど。


 風呂の脱衣所でネックレスは外した。でも指輪は指から抜けなかった。これも女神の呪いなんじゃないかと思って、女神に悪態をつきたくなる。


「ま、外れないものは仕方ない。お前も一緒に入るか」

 と呟いたら、指輪が微かに震えたような気がした。




 シュン・アヤセ

 レベル 7

 種族 ヒューマン(創造神の加護による転移者)

 性別 男

 年齢 17

 称号 女神の寵愛を受けし者

 所属 なし


 HP …… …… ……

 ・

 ・

 ・


 風呂上がりに、ベッドで寝転んで明日の予定を考える。

 そういえばステータス確認してなかったなと思い立ち、表示させた結果。


 なんか増えてるし…

 なんか変な称号とかもあるし…


 あと、レベル6の状態見てたから判る。レベル7で各数値の上り幅を知ったんだけど。全て1.5倍ぐらいになってるよ。

 レベル6の時でさえ、かなり思い描く通りの戦いが可能だったのに、あれから更に上がってるという意味を考えるとね。


 どうすんの、これ。



 さあ、冷静になって考えてみよう。


 俺は今日転移してきた。

 女神の女神による女神のための「掌の上で踊らされクエスト」は達成できた(と思う)


 レベルアップも出来た。

 18歳の一般成人の平均がレベル14程度だという、女神由来の知識を持っている。

 今の俺の倍のレベルだ。

 そんな半分レベルの俺なのに、身体能力や精神的な強さもかなり上がった。

 スキルを取得できたのもいくつかは自覚している。


 しかし、しかしだ。

 転移者特典なのかな多分。これやり過ぎじゃね。


 日本人辞めてたどころか人間辞めつつあるような危機感を覚える。


(もしもし女神さんや、聞いてたらなんとかしてくださいませ。俺ってどうなるんすかねぇ…こんなので普通に生活できるんでしょうか。偉い人とかに戦う奴隷みたく意志を持たない囲われ者にされたりしませんよね)


 よく解らないスキルまであるので、これ全部精査しようとしたらどれだけの時間を必要とするだろうか。



 悩みながらベッドに寝転がってたら、いつの間にか本格的に眠ってしまった。

 指輪が光を発し始め、次第にその輝きを増して広がり、俺を包み込んでしまったのを俺は知らないまま日本で過ごしていた時の夢を見ていたのだった。

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