第2章 最初の街
第6話
スウェーガルニ、その街の名は外壁に囲まれた街区としての範囲とその周辺に点在する外農地や牧場、それに付随するように建ち並ぶ農家など近隣を合わせた総称だ。
魔物の生息域やダンジョンに程よく近い距離。そして複数の物流経路を接続する交通の要衝。スウェーガルニは現在進行形で人口が増え続けているこの地方随一の活気に溢れる街である。
スウェーガルニの壁内。いわゆる街区に入るためには門を通らなければならない。
俺にとっては緊張の瞬間。でも、ぶっちゃけ出たとこ勝負、テンプレよろしくという他力本願だ。
尚、女神仕込みの常識はなかなか仕事してくれないので戦力外である。
門番に、ニホンという遠い東の海に浮かぶ島国から来たこと。身分証明は紛失してしまって無いこと。ここまでは旅人としてやって来たが、この街で落ち着いて働きたいという旨を切々と俺は話した。
「審査に通ればだが、短期滞在証明書発行に銀貨5枚出せるかな? 滞在中に正式な証明が出来れば、それを見せて短期証明書を返却すれば銀貨4枚は戻ってくる。但し、短期証明のままだと10日間が滞在の限度だよ」
なるほど…。その審査というものがどんなものか判らないが、俺としてはとにかく前へ進むしかない訳で、ぶっちゃけどこに行くにしても身分証明は必要だろう。
なので、この門番さんの言うとおりに進めて貰うことにする。
門番達の詰所の一室で行われた審査は、よく解らないうちに終わって合格だと。なんか魔法陣の上に両手を置いただけなんだよね。もちろん簡単な質問はされたけど。
部屋の入り口で待ってくれていた門番さんに銀貨5枚を払うと
「審査通って良かったな。ようこそスウェーガルニへ。シュンの前途に幸多からんことを」
と、ニッコリ微笑まれて握手された。
この人、めちゃくちゃいい人ですよ。
審査は、犯罪歴や納税の状況などを調べる魔道具で行われていたらしい。魔法陣の下には、それを制御する魔道具があったみたい。
俺って魔法に関してはずぶの素人だから、何も感じなかったし解らなかった。ステータス見る限りMPは決して少なくはないとは思ってるんだけど、とにかく異世界初心者で、あるのかも不明なチュートリアルも終わってないし、解らないことだらけである。
でも審査の内容を聞いたら、ちらっと想像してたステータスを他人が見る方法。すなわち脳内スキャンか? というような事をされた気分になってしまった。
でも門番さんいい人で心配して付いてきてくれたからね。失礼な態度はとらないよ。
納税に関しては、農民でなければギルドに所属した方が楽だし面倒な書類も書かなくていいとアドバイスされる。しかも、ギルドに所属すればギルドカードが正式な身分証明書になると。
うん、知ってた(笑)
「冒険者ギルドに入ってみようと思ってます」
と門番さんに言うと、俺の細身の体つきを見て心配げな顔をされた。
「無理だけはしないようにな。冒険者ギルドは、犯罪者以外は来る者拒まずだから登録は出来ると思うが…」
短期滞在証明書が出来上がり受け取る。写真付きですよ。審査している時に別の魔道具で撮られてたっぼい。肖像権という言葉が存在しない世界。
まあ、とにかくその証明書で改めて街区内への入場の手続きをしてもらうことに。
門番さんと彼の同僚達にもお勧め宿を幾つか教えてもらって、少し時間的には遅い気もするので急いで寝床キープのために歩く。地図は街区内案内地図を門のすぐ横の屋台で買った。銅貨7枚。
この街区内地図が安いのには理由があって、かなり廉価な紙とインクで作られているので、普通に使っていると間違いなく3日も経てばボロボロになったりインクが薄れて、見づらくなったりするらしい。
ま、確かにちょっと触っていてもそうなんだろうなと。
宿は2軒目で決めた。部屋が空いてたので即決。中級冒険者や行商人が良く使う宿らしい。
取り敢えず、7泊分の料金を前払いする。基本は1泊2食。夕食と朝食がついて銀貨4枚。昼食が欲しいときは別料金で、朝食時に頼めば確実に昼には作ってくれるとのこと。料理自慢の宿らしく、飲食スペースには外来の客もかなり多く来るらしい。
共同だが風呂があるのもセールスポイント。説明してくれた宿の主人の奥さん、多分奥さんだと思う。その女性から聞いた話。
「うちは若い人が少ないから、シュンさんみたいな人が来てくれて嬉しいです」
そう言われて気が付いたけど、ぱっと見、この宿に泊まるのは分不相応だと思われてるのかも。
街に着いて、自分の姿を全体的に見ることができた。鏡やガラスで。さっき出来たばかりの証明書の写真もじっくり見た。
スライムをやっつけた後に余裕ができて、剣に映したりして自分の顔は見てたんだけどね…。うん、俺って日本人辞めてました。
まず髪の色は銀に近い。部分的に黒い部分があるけど、それは少しだけ。
瞳は茶色。こんな組み合わせってどういう血統なんだろう。
肌は地球で言うところの白人っす。
日本人だった時の面影、顔立ち自体にはほんの少し残ってるのかな。そう思いたい自分が居るだけなのかもしれないけど。
そして年齢17歳というのは、この見かけならば妥当すぎるほど妥当な数字。もしかして、女神から若年化の呪いを受けたのかもしれないと真面目に思ってる。
しかしあの女神のことだから、転移者特典ですとか平気で言いそうな気がするな。いや文句を言いたい訳じゃない。すいすい思い通りに動く身体なんか特に嬉しいんだけどね。まあ、先に教えててよって話。
と、なんだかんだ言ってるけど実は、若くてしかもイケメン過ぎてびっくりしている。そして本音としては嬉しくもある。地球だったらこのルックスだけで食べていけそうなレベルだから。
お袋、こんなこと思ってごめんよ。前の顔や身体に不満があった訳じゃないんだ…。
元の自分と違いが大きいけど、そのうちこれが自分なんだと慣れていけるのかな。そうなりたいな。異世界転移したんだし。
そうだ。もう一つ大事なことがあって、体毛、地球で言うところのムダ毛の類がほとんどない、と思う。多分だけど。
という訳で、その辺の確認も兼ねて夕食後は風呂に入ろうと思う。
異世界初の宿。初めての食事。初めての風呂。初物尽くしスタート。
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