第五話 デート訓練!

 「被告人、天上直人は前に出るように…」


 違う…僕じゃないんだよ…。僕はやってない…。


 「これより、被告人に判決を言い渡す…」


 僕じゃない!聞いてくれ、やったのは僕じゃないんだ!信じてくれ!


 「僕じゃ、僕じゃないんだよ!」


 「――嘘つけ。君は僕じゃないか」


 違う、やったのは“悪魔”なんだ!!


 …


 ……


 ………


 ………………


 「…オト…ト…ナオト…ナオト君、ナオト君!」


 「――うっ!」


 いけない、またボーっとしてた…。


 「ねえ、大丈夫?もう信号青だよ?」


 「すみません先生。ちょっと考え事してて…」


 「ほんと?そうには見えなかったんだけど…」


 「まあ、とりあえず遊びましょう!」


 先生は戸惑いながらも、乗り気の様だ。良かった…しかし、以後また“フラッシュバック”しないように何とか対策しないとな…。


 「ねえ、遊ぶって…何するの?」


 ん~、特に考えてなかったなぁ…でもデートって一緒に歩いたりとかそーゆ―ことしてれば成り立つんじゃないの?分からないけど…。


 「聞いちゃいますけど…先生彼氏とかいました?」


 「えっ?そ、それはもちろんいたわよぉ…」


 と言いつつ目を逸らす。やはり、いなかったんだな。

 (まあ僕もだけど…)


 「…ほ、ほんとよ?」


 「流石…先生です」


 (と、返したものの、なんて返すのが正解なんだよ…)


 「ねえ、ナオト君って好きな人とかいるの?」


 きゅ、急過ぎる…ジェットコースターでももっと緩やかだぞ。


 「好きな人ですか…今は特に」


 「へぇ…そうなんだあ」


 いないって言ったけど…流石に“先生のことが”なんて言う訳にもいかないしなぁ。


 「さ、寒いわね…」


 話が途切れるのが怖いのはよぉく分かるけど、リカバリ早すぎないか?しかも寒いわねって…どうつなげればいいんだ。

 …そうだ、ここは一つ“悪戯”をさせてもらおう。


 「そうですね…でもこうすると暖かいですよ」


 僕はそう言って、右腕で先生を抱き寄せる。


 「きゃっ!」


 コート越しに、先生のぬくもりが伝わってくる。嗚呼、これが人の暖かさか…湯たんぽに丁度いいかも。

 (あったけえ)


 「…」


 先生は顔を真っ赤にしたまま、俯いている。

 (ちょっとやり過ぎたかな…?)


 「すみません、嫌でした?」


 「そっそんなことないわ…こ、これも練習しなきゃだからね…」


 こういう強がってるところに非常にキュンとする。百点!花丸を授けたい!


 「そうですよ。彼氏ができたらこれくらいのことはしますからね~」


 「は…はずかしぃ…」


 「え、なんか言いました?」


 「いいいや、何も言ってないわ!…ちょっと疲れたかな~ってあはは」


 (違う事言ってたような気がするけど…)

 疲れたのか…それじゃあどこかで一休みするか。とは言っても、どこがいいんだろうか…カップルってどこで休憩するんだろ。

  

 「それじゃあそろそろデパート行きましょう」


 「で、デパートに?」


 「ええ、あそこに落ち着くカフェがあるんですよ」


 学校から少し離れたスクランブル交差点の傍にあるデパート。ここの最上階に、ちょっとだけオシャレなカフェがあるのを覚えてる。確か…前は宿題をやりに来てたんだよな。


 「そうなんだ…ナオト君に任せるよ」


 「お任せください」


 僕は先生を連れてデパートへ入る。

 そして、エスカレーターを経由して最上階に向かう。エスカレーターを降りて目と鼻の先ににあるこのカフェが、例の“お洒落だと思われる”カフェだ。

 

 「こ、ここ?」

 

 「そうです。入りましょう」


 「ちょ、ちょっとオシャレ過ぎない?」


 せ、先生。小学生じゃないんだから大丈夫ですよ…。


 「オシャレな先生に似合ってると思いますが」


 「そ、そうかなぁ…」

  

 安直なフォローに、先生は顔を赤くして照れ臭そうにする。ほんっとに分かりやすい先生。

 (お金は…沢山あるから大丈夫かな?)


 お財布の心配は後回しに、僕たちは店に入った。

 店内は落ち着いたウッド調のインテリアだ。…混雑してない、丁度いい時間に来れたみたいだ。

 

 「いらっしゃいませ。二名様で、よろしいですか?」


 「はい」


 「かしこまりました。それではこちらの席に…」


 偶然とは恐ろしい…。案内された席は、窓際の見晴らしのいい“特等席”だった。

 もちろん最悪な席もある。壁際だ。


 「いい席ですね」


 「え、ええ。そうね…」


 すっかり休憩モードに入った僕とは対照的に、先生は何だか落ち着かない様子だ。


 「こういうお店。初めてですか?」


 「そ、そんなこと。…は、初めてかなぁ」


 「それじゃあこのお店紹介出来て良かったです。本番も是非ここに来てくださいよ」


 (ぜんっぜん来たことないけど)


 「あ、ありがと…私こういうお店とかレストランとかに疎くて…」


 「まあ心配することないですよ。大体男側で決めてくれますから」


 少なくとも…僕の場合はだけどね。

 はっきり言って他の人がどうかは知らない。


 「ね、ねえナオト君?」


 「何ですか?」


 「ナオト君って…“歳”とか気になっちゃうタイプ?」


 「…と言うと?」


 「ほ、ホラ!つ、つき合ったりとか好きになったりする相手の人の歳とか気になるタイプ?」


 やっぱり気にしちゃうか。まああれ位のフォローだけじゃ足りないよな。


 「そうですね…気にならない。…と言ったらウソになりますね」


 「って事は…やっぱり気になっちゃうのかぁ」


 先生はあからさまに肩を落とす。が、落ち込むのは早いぞ先生。


 「だって“八十歳”とか“六十歳”の人とは…付き合いたくないですからね」


 「そ、そっか!そうだよね…」


 さっきの落ち込みが嘘みたいに、パッと明るくなる。まるで信号機みたいだ。


 「じゃ、じゃあどのくらいの差なら許せるの?」


 ここでちょっと仕掛けよう。


 「うーん。考えたことなかったですが…先生なら大歓迎ですかね」


 「ほんと?」


 (な、なんだこのがっつき具合は…)


 「ホントですよ。と言っても、先生とは全然年齢差ないですけどね…」


 と、歳離れてないアピール…流石に安直過ぎたかな。


 「よ、よかったぁ…」


 「?…何がですか?」


 「あ、え?いや、な、何でもない!」

 

 「そ、そうですか…じゃあ何か頼みますか…」


 


 


 

 


  



 


 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕は今日も消臭剤を吹きかける~昨日寝た女の香りは消しましょう~ あがしおんのざき @samplename

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ