プロローグ・クッキー

卯野ましろ

プロローグ・クッキー

 小学生のときの校外学習の帰り、みんなはバスの中でクッキーを食べていた。見学したお菓子屋さんがくれた、お土産だった。バニラ味とチョコ味の二種類。みんなは、どちらか一つをもらった。


「ちょーだい」


 隣の席の子が、私の袋を勝手にゴソゴソ。ガツガツ。


「私のなのに……」


 その一言が口から出せなかった私がしょんぼりしていると……。


「ほらっ」

「へっ?」


 隣の子が私の目の前に、自分が持っているクッキーの袋を突き出した。


「食べなよ」

「あ、ありがと……」

「もっと取りなって」


 遠慮がちな私を見て、その子は優しい言葉をくれた。

 そのとき、人生で初めて胸がキュンとした。




「そんなこと、あったっけ?」

「あったよー! イケメン過ぎて、あのとき本っ当にドキドキしたんだからー!」

「ふーん、よかったね」

「まあ……それをやってくれたのが男子だったら、もっとよかったのにね」

「……え?」

「でもね! それがきっかけで、あなたと仲良くなれて嬉しい! 今では、一番の親友同士だもんっ!」

「……ありがとう」




「……男だったら、よかったな」


 独りぼっちの自宅に着いて、あたしはわんわん泣いた。もうとっくの昔に失恋しているというのに。

 きっと今、あたしが好きなあの子は愛するダーリンと、一つ屋根の下で今日の出来事を楽しそうに話しているのだろう。

 改めて、お幸せに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

プロローグ・クッキー 卯野ましろ @unm46

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説