The Whole Day of Alex 4

Merry Christmas!

「これでよしっ」

ローナはすべてのテーブルのセッティングを終えて、満足げに微笑んだ。

ちらりと壁に掛けられた時計に目をやった。

もうすぐ20時を回ろうとしていた。

(こんな日までどこをほっつき歩いているのよ、アレックス!)



同じ頃。

赤いリボンのかかった細長い箱プレゼントを小脇に抱え、アレックスは歩道を走っていた。

人並みに逆らうように、軽やかな足取りで走っていた。

摩天楼のビルから垣間見える電光掲示板にふと目をやった。

「やべっ!ローナにどやされるぞ!」

(でも、ま、思った以上のモンが手に入ったから許してもらうか)

ニヤニヤしながら一目散にミッド・タウンの自宅を目指していた。



テーブルに頬杖をつきローナはぼんやりしていた。

バタン!

大きな音がしてドアが乱暴に開いた。

彼女の顔がぱっと明るくなった。

その音の方向にすぐに顔を向けた。

長い金髪の長身の男が息を切らして立っていた。

「遅い~」

ぷっくりふくれて怒り顔だ。

「すまん。」

さして詫びるふうでもなくアレックスは言った。

ちょっと気を取り直して、ローナは微笑みかけた。

「お帰りなさい」

「おう。」

来ていた黒いコ-トを脱ぎ、ネクタイをさらに弛めた。

そのまま窓のそばまで来ると壁際に背中を向けるようにして立ちながら外に視線を向けた。

「すぐ食事にする?」

「ああ。これを抜いてからな」

胸ポケットから煙草を取り出すと火をつけて、口にくわえた。

持っていた包みを彼女に差し出した。

「?」

受け取ってはみたものの、首を傾げた。

「開けてみな」

ローナは言われるままに開けてみた。

中には大切に大切に赤ワインが1本置かれていた。

瓶についているラベルを見た途端、驚いた声を上げた。

「これ、ペトリュス85じゃない!?どうしたの?」

「どうもこうも、クリスマスだからに決まってるじゃないですか」

「こんなビンテージものを!?」

「たまにはな」

予想通りの反応を楽しんだように、アレックスは笑った。

と、背後からぼそぼそっと声がした。

「単に自分が飲みたいから買ってきたんじゃないのか、アレックス?」

ぎょっとして振り返るとそこにはグレイのスーツを着たアルフレッドが幽霊のように立っていた。

その言葉が図星だったのか、火がついたように大声をあげた。

「! アルフ!てめー、どっから湧いてきやがった!?」

「どこからも何もドアからに決まってるだろう?」

涼しい顔でアレックスの前に歩み出るとローナに花束を差し出した。

当然ながら真っ赤な薔薇の花束だ。

しかもかなり大きい。

「Merry Christmas! And happy birthday! ローナさん。 」

「あ、ありがとう。」

目をパチクリさせながら、それを受け取った。

「それじゃ、失礼を。まだ仕事の途中なもので」

アルフレッドはそそくさとドアに向かった。

そんな意味不明の行動をとる彼にアレックスは少々うんざり気味だ。

「じゃ、いったい何しに来たんだよっ!心臓に悪い出方しやがって」

音も気配もなく、出没する。

いくら人には言えない特技があるとはいえ、こうも簡単にアレックスの背中をとれるのは世界広しといえど彼くらいなものだ。

「当然、お前に嫌がらせをするために決まってるだろう?」

指でちょっと眼鏡を上に押しあげながら笑った。

「アルフ!」

「冗談だよ。とりあえず、あと3分後のプレゼントも楽しみにしてくれよ」

「?」

「3分後ぉ~?」

「じゃな」

そう言い残すとアルフレッドは部屋の外に消えた。

ドアの閉まる音と共にアレックスもローナも顔を見合わせた。

「何だか随分含みのある言い方だったわね」

「また何か企んでやがるな、あいつ」

スパスパと口だけで煙草を吸いながら、不機嫌そうだ。

「前から聞いてみたかったんだけど、どうしてそんなにアルフさんのこと毛嫌いするの?」

「あいつを好きなんていう珍しいやつがいるのかよ?」

売り言葉に買い言葉でハナからケンカ腰だ。

よほど仲が悪いのか、それとも?

「………」

「もういい、ヤツのことは忘れよう。美味い酒がまずくなる」

そう言ってローナの持っていた瓶に再び手をかけて、栓を開けた。

「ん、もう、アレックスったら」

ポンッと心地よい音が響いた途端に部屋の中が真っ暗になった。

「!」

「あ、停電?」

アレックスはピンッときた。

「いや」

ただ平然と2つのワイングラスに赤い宝石を注いでいた。

「ちょっとブレーカー、見てくるね」

「ローナ」

そばから離れようとしていた彼女を呼び止めた。

両手にはグラスワイングラスが握られていた。

「なに?」

不思議そうな顔で聞き返した。

「いいからこっち来て見な」

彼のいる窓際まで近づいてみた。

「3分後の意味がわかったぜ」

(あんの野郎。余計なことを。)

「え?」

「100ドルの夜景を独り占めさ。」

この部屋の明かりだけが消えていた。

表からの光を受けて闇の中に影ができていた。

「正確にはローナとふたり占めだけど」

「わぁ!」

ローナは手を叩いて目の前に広がる色とりどりのイルミネーションを眺めた。

空に向かってそびえ立つ摩天楼がまるでクリスマスツリークリスマスのようだ。

「ほらよ」

片方のグラスワイングラスを差し出した。

彼女はそれを大事そうに受け取ると心もち上に掲げた。

キンッ…

グラスが重ねられた。

彼は耳元でこんな言葉を囁いた。

「Here’s looking at you, kid君の瞳に乾杯.」

赤くなったローナの顔を見ながら、グラスのワインを飲み始めた。

「そんなセリフ。よく出てくるわね?」

彼女も口をつけるが動揺が隠しきれにないように、早口で話し始めた。

「ダメなのかよ?」

「そう言う訳じゃないけど。」

「俺はいつだって正直者だけど?」

「そぉ~?」

「シャンパンじゃないのが残念だけど、そいつは勘弁な」

「私はイルザじゃありませんから」

「俺だってリックじゃないぜ。『そんな昔のことは忘れたよ。』なんていわねぇし」

「あのね…」

「何か?」

「アレックスに言われるとロマンチックなのかそうじゃないのかわかんない」

「だから、アルフあいつが来て小細工していったんだろ?」

(余計な演出して、煮え切らない俺をけしかけようって腹だ。)

「そういうことなの?」

「多分な」

(ヤツの思い通りになるのは癪だが・・・でも、まぁな。今日くらいはいいか)

「………」

さらにローナの顔が真っ赤になっている気がした。

しかし、部屋の暗さでよくわからなかった。

「………」

「アレックス?」

「ん?」

「クリスマスプレゼントっていうか、バースデイプレゼントがほしいなぁ」

うつむいたまま、小さな声で言った。

こんな事を言い出すのには驚いたが、すぐに笑ってこう答えた。

「もちろん。お姫様の仰せのままに」

彼女の華奢な肩に手を掛けながら、アレックスは近づいた。

ふたりの影がひとつに重なった。

12月24日。

クリスマス・イヴの夜のこと。


Merry Christmas!!

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The Whole Day of Alex 砂樹あきら @sakiakira

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