第3話 ギフト
ルファ・メーリングは大テーブルの両側に座っている
「では続いて、皆様には所有されている『ギフト』をご確認頂きます」
ルファの言葉に
「ステータスオープンとでも言うのかな?」
「いいえ、何か掛け声をかける必要はございません。ご自身のギフトを見たいと念じてください。そうすると目の前に透明のパネルが現れて、所有されているギフトが表示されます」
蔵之介は半信半疑で念じてみた。
すると眼前に文字の書かれている透明なパネルが現れる。
息を呑む伊勢蔵之介の正面から声が上がった。
「うわっ! 出た、本当に透明なパネルが出たぞ!」
「え? どこに?」
「何を言ってんだ、お前?」
颯斗と
「ギフトパネルは本人にしか見えません。ご自身でどのようなギフトが表示されているのかご確認ください」
ルファの声に蔵之介たちは無言で反応した。
男子高校生三人の目が大きく見開かれ、喜びと興奮の色が露わとなる。
ルファはおもむろに立ち上がり、蔵之介に声をかける。
「では、イセ様からボードにあるギフト名をお願いいたします」
広間の壁際に立っていた神官たちが蔵之介たちの側まで移動していた。
神官たちの視線が蔵之介に集まる。
居心地の悪さを感じながらも立ち上がってギフトパネルに表示されていたギフト名を告げた。
「融合魔法」
ルファが笑みを絶やさず、手元の書類にペンを走らせる。だが、取り囲む神官の何人かは落胆の表情を浮かべていた。
名前から想像はしていたがハズレギフトなのだと納得して、次のギフトを告げる。
「紋章魔法」
落胆を隠そうともしない神官が増えた。
「最後が収納魔法です」
周囲の神官たちからの落胆の視線は度を増した。
ルファのペンが止まり、考え込むような表情で蔵之介を見上げる。
「収納魔法は有用なギフトです! 遺跡の探索には必須と言ってもよいでしょう」
周囲の神官たちがざわめく。
ざわめきのなかに『収納魔法ですか……荷物運びくらいにはなりますな』『全てのギフトがハズレとは……』『何れも上位互換のあるギフトばかりとは……』といった声が交じる。
「ギフトの詳細をここでご説明しても混乱されるだけでしょう。後程、詳細を記した紙をお渡しいたします。ご用意した個室でご確認ください」
そう言ってルファは蔵之介の所有するギフト名を書いた用紙を若い神官に手渡した。
「もういいだろ、おっさん。次は俺だ」
一条一樹が口元に笑みを浮かべて立ち上がった。
自信に満ちた表情に周囲の神官が期待の眼差しを向ける。
ルファの視線が蔵之介と一樹の間を往復した。
彼女が初めて見せる戸惑いに蔵之介が『問題ありません』と告げて腰を下ろす。
安堵の表情をみせたルファが一樹に微笑みかける。
「イチジョウ様、お願いいたします」
「カズキだ。カズキと呼んでくれ、ルファさん」
一樹の雰囲気が変わった。
蔵之介は彼がギフトを持っているだけで強くなったと勘違いしたのではないか、と
その視線を誤解したのか、一樹が椅子に座った蔵之介を怒鳴った。
「何だよ、文句でもあるのか!」
「イチジョウ様、勇者様に大きな声をだされては兵士が怯えましょう。もちろん、私も恐怖で脚がすくんでしまいます」
「分かったよ。それと、カズキだ、ルファさん」
一樹が大人しくなったのを見届けたルファが
「イセ様、私の配慮不足で混乱を招き申し訳ございませんでした」
蔵之介に頭を下げ、一樹にギフト名をうながす。
「では、カズキ様、ギフト名をお教えください」
「一番目に表示されているのは火魔法」
ルファは蔵之介のときと同じように手元に置いた紙にペンでギフト名を書き込む。
「二番目が氷魔法」
再び神官たちがざわめく。思わずペンを止めたルファが驚きの視線を向けるなか、一樹が最後のギフトを口にした。
「三番目が雷魔法だ」
神官たちがどよめいた。蔵之介が所有しているギフトを告げたときとは正反対で神官たちや兵士たちの表情に歓喜の色が浮かんでいる。
ルファをはじめとした神官たちの興奮が冷めない。
神官たちはたったいま告げられた一樹のギフトについてささやき合う。
「上位魔法を二つも!」
当事者である一樹は周囲の神官たちのささやきに耳を傾け、聞こえてくる驚きや
だが彼を最も刺激したのはルファの眼差しだ。
「カズキ様。訓練の間、決して無理をなさらないようお願いいたします。本番は訓練を終えてからです。お忘れなきように」
己を気遣うルファに一樹は得意げに答える。
「分かっている」
神官たちのどよめきが続く。
「氷魔法だけでなく雷魔法まで!」
「火魔法もありますから、有事の際は頼りになるでしょう」
神官たちの反応に当事者である一樹だけでなく、颯斗と龍牙も興奮したように目を輝かせた。
ルファが熱を帯びた瞳で一樹を見る。
「カズキ様、どれも素晴らしいギフトです。どのギフトも魔物を討伐し、迷宮を探索する者が夢見るものばかりです」
「そんなに凄いのか?」
「はい。カズキ様なら必ずや攻撃の要となってくださるでしょう」
ルファのセリフに気をよくした一樹がさらに聞く。
「俺たちの前に召喚したヤツラと比べても俺の方が優秀か?」
何とも答えにくい質問をするものだ、と蔵之介と三好が目を見合わせた。
「迷宮探索の優劣はギフトだけで決まるものではございません。皆様それぞれに優れたギフトをお持ちですし、我らにはない異世界の知識もそうです。どちらが優れているかは実際に迷宮探索をされるまでは誰にも判断できません」
ルファのセリフは一樹のライバル心を煽るのに十分だった。
「早いところ迷宮探索をしたいもんだな」
「ああ、俺たちの方がスゲーって見せつけてやろうぜ」
血気に逸る一樹と颯斗にルファが言う。
「
「期待してくれ」
一樹の言葉にルファは静かに首肯した。
◇
一樹の次に立ち上がったのは颯斗。
「ルファさん、次は俺でお願いします」
颯斗は席を立つとルファへと歩み寄る。
「よろしくお願いします。タチバナ様」
「俺も名前で呼んでもらえますか」
「承知いたしました。ハヤト様。では、ギフト名をお願いいたします――――」
高校生三人組のギフトが出揃った。
一条一樹
火魔法
氷魔法
雷魔法
立花颯斗
風魔法
氷魔法
光魔法
大谷龍牙
千里眼
氷魔法
光魔法
それぞれが上位魔法を二つずつ所持していた。
自分たちが召喚した三人の若き勇者たちから告げられた、誰もが羨むほどのギフト。その秘めた力と可能性に大勢の者が歓喜し畏怖する。
神官たちがどよめく。
もはや声を潜めることもなく会話をしていた。それは伝搬し壁際に控えていた兵士たちにまで広がる。
「お二方が光魔法を所持ですか」
「それよりも氷魔法の所有者が三名です。ベルシュタン帝国の勇者パーティーと同じですな」
「勇者様とは本当にすごいものですな。改めて実感しました」
「これは先の勇者様方を凌ぐやもしれません」
ざわめく神官たちをよそに三好が蔵之介に小声で話しかける。
「いま神官さんが話していたベルシュタイン帝国の勇者パーティーというのが、ルファさんの言っていた二つの迷宮を攻略したパーティーのようですね」
「話の流れからして間違いないでしょう」
二つのアーティファクトを持ち帰ったという隣国のパーティーに氷魔法を所持する勇者が三人いる。
そうルファが語っていたのを蔵之介も思い返していた。
「それよりも気になったことがあります。神官の一人が『有事の際は頼りになる』と言っていました」
蔵之介の言葉に清音が反応した。
「それって、戦争、ですか?」
「その解釈で間違いないと思いますよ。もっとも魔物相手の戦争という可能性は残されていますけどね」
そう口にした蔵之介もその可能性は低いと考えていた。
「これは慎重になった方がよさそうですな」
「皆様、お静かに願います」
ざわめく室内に凛とした声が響いた。
ルファだ。
「まだサイオンジ様とミヨシ様が残っていらっしゃいます」
そう言って清音を見た。
――――――――
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