第11話

 辺境の村の小さな宿、壁に手を着きよろよろと階段を降りてくるミーナにデュロイが手を貸して食堂の椅子に座らせる。


「はぁ、きつ…… 頭はガンガンするし、全身筋肉痛だし、最悪だわ」

「例の薬か」

「ええ、ルナ・エーテルの一気飲みなんてするもんじゃないわね。 ……助けてくれてありがと」


 だらりとテーブルに身を預けたまま頭だけ起こし、デュロイの顔を見て笑顔を見せる。


「助けられたのは私だ。礼を言う」

「あれから記憶が飛んじゃってるのよね」

「奴を倒した後、気を失った君をモフパカに乗せてここまで運んできた」

「意識がない私に変な事してないでしょうねぇ」


 暫しの沈黙。


「……私からは何もしていない」

「何よ、その間は。言い回しもなんか引っかかるし」

「気のせいだ。それよりも……」


 傍らに置いた背嚢から袋を取り出し、テーブルに伏せるミーナの目の前に広げる。


「奴の牙と爪、それに魔晶。戦利品だ」

「あはは。良い感じね」


 金属のように鈍い光沢を放つ親指程の大きさの牙、血の沁み込んだような緋色の爪、怪しげな輝きを放つ結晶の欠片かけらを前に、ミーナの目に生気が戻ってくる。


「現金な奴だ」

「当然じゃないの。爪も牙も希少素材だし、魔晶もこれだけの大きさと純度なら結構な額になるわ。取り分は、そうね。三対一で良いかしら?」

「全て君の取り分で良い」

「え、ほんとに良いの!? それじゃ ありがたく…… と言いたいところだけれど、そういうの好きじゃないのよね」

「そうか。それでは、これから君と行動を共にしよう。それなら良いだろう」


 青灰ブルーグレーの瞳で、ミーナの薔薇色ローズの瞳を見つめる。


「どういった風の吹き回しかしら? そんな人じゃないと思っていたけど」

「私には君に果たすべき責任がある」

「はぁ? なにそれ? けど、悪くないかも。一人で冒険するにも限界を感じていたところだし」


 真剣なデュロイの表情にミーナは笑顔で応え、右手を差し出す。


「この先命に代えても君を護ろう」

「もう、そう言うのは良いって。これからは一緒に楽しく冒険しましょ」

「ああ、そうだな」


 デュロイは少し表情を和らげ、握手を返した。


 陽が高くなり辺境の村から伸びる街道、デュロイはミーナが乗るモフパカの手綱を取り、聖都へと向かって行った。

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アナザー・クロニクル・ストーリーズ 調合師ミーナと聖騎士デュロイ 藤屋順一 @TouyaJunichi

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