3. 光に導かれて

 境内から出て、階段を降りようとした二人の目に飛び込んできたのは、街を包む無数の灯りだった。夏祭り会場の提灯、神社の階段から夏祭り会場へと続く道路の脇に設置されたぼんぼりの灯りで、街全体が優しくきらめいているようだった。


「きれい。こんなふうに見えるんだ。」


 仁美の言葉に三恵もうなずく。夏祭りには毎年二人とも行っているが、街全体の様子を上から見るのは初めてだった。提灯やぼんぼりの設置は毎年当日までかかるので、夏祭り当日の明日になるとより多くの光で街が包まれることだろう。


 初めて見る街の姿に見とれ二人はしばらく佇んでいたが、やがて異変に気付いた。


「ねえ、みっちゃん、さっきより灯りの数減ってない?」


 気のせいじゃない?と言いかけて三恵は言葉に詰まる。確かに町を包む光は少なくなっている。そして、三恵が言いよどんでいる間にもぽつぽつと灯りは消えているのだ。


「毎年、前日は灯りをつけたままにしておくよね。」


 仁美の言うとおり、夏祭りの前日は提灯やぼんぼりの灯りで夜でも町全体が明るい。こんなふうに順番に消していくことなどないはずだ。

 こうしている間にも光は消え続けている。まるで街全体が暗闇にゆっくりと飲み込まれていくようだ。


「みっちゃん、とにかく急いで帰ろ!」


 怖くなった三恵は仁美の手をしっかりと握りながら、神社の階段をかけ降りた。階段のふもとに止めてある自転車に飛び乗り、急いで家の方へと向かう。

 しかし、二人は自転車を漕いでいくうちに大変なことに気付いた。提灯やぼんぼりの灯りどころか、家の灯りもぽつぽつと消えているのだ。

 気がつくと、辺りはすでに真っ暗である。二人とも何度も通っている道のはずなのに、全く知らない街に迷い込んだようである。


「みっちゃん、ここ、どこだろう…」


 二人は自転車を止め、辺りを見渡した。見知った街はもうすでになく、ただただ暗闇が広がっているだけだった。自分たちの立っている場所が道なのかさえ分からない。




こわい。




 二人は言いようのない恐怖を感じた。


「ひーちゃん、何か聞こえない?」


 耳を澄ますと何か動物の鳴き声のような音が聞こえる。そして、その音が次第に近づいてくるのが分かった。


「キツネだよ、みっちゃん!」


 三恵はキツネの鳴き声をよく聞いたことはなかったが、言われてみればそんな感じがする。キツネの鳴き声はどんどん近づいてくる。そして、二人のすぐ側まで来たかと思うと突然聞こえなくなった。


「あっ!」


 二人は思わず同時に叫んだ。二人の目の前に白い光の玉が現れたのだ。そして、最初一つだった光の玉はだんだんと増えてき一列に並んだ。二人は顔を見合わせた。


「これって…」


「おばあちゃんに聞いた話と同じ。」


 目の前で起きていることは信じられないが、二人とも三恵の祖母の話は信じることができた。


「みっちゃん、この列に沿って進んでみようよ。」



 三恵は戸惑う。



 祖母の話では光に沿って進んだ商人はハッピーエンドを迎えた。でも、私達までそうなるとは限らない。それに、全く知らない場所で光の玉だけを頼りに進むのが怖い。


「ここで立ち止まってても何も変わらないし、それなら進んでみようよ。」


 仁美のこういう性格はうらやましさを超えて尊敬できる。一方の自分は…といつものように自分に嫌気がさしたが、今はそんな感傷に浸っている場合ではない。三恵は仁美の手をぎゅっと握った。二人は光の玉に沿って進んでいった。

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