第13話 昼下がりの居間

 屋根裏の掃除が一段落したところで、キャリガン夫人は台所でお茶をれてくれた。


「すみませんけど、坊ちゃん」


 ポットと二客のカップ、それに砂糖とミルクの壺をのせたお盆を、夫人はぼくにさしだした。


「これを旦那さまに持っていってくださいますか。二階の居間にいらっしゃるはずですから。わたくしはお昼の支度をさせてもらいますね」


 食事の支度ならぼくも手伝うと申し出たのだが、夫人は笑ってとりあってくれなかった。いかにも高価たかそうな茶器にびくびくしながら階段を登り、居間をのぞいたところで、ぼくは立ち止まった。


 こじんまりした居間の、大きな窓の側に据えられた長椅子で、先生はうたた寝をしていた。クッションに頭を預け、読みかけの本を胸の上に伏せて。


 それはなんともいえず、穏やかで満ち足りた光景だった。レースカーテン越しの陽光が先生の白い髪に透け、くすんだ赤の絨毯にやわらかな陽だまりをつくっている。居間の真ん中の小さなテーブルにも、そのわきの安楽椅子の上にも、本やら手紙の束やらがいっぱいに積まれていたが、不思議と散らかった印象はなく、むしろその雑然とした雰囲気がこころよかった。


 ぼんやりたたずむぼくの気配を感じたのか、先生はうんと伸びをして目を開けた。その瞬間、ああそうかとぼくは思った。この部屋がこんなにも心地よく見えるのはこの人のせい。この人のまとう「色」のせいなのだと。


「やあ、ルカ君」


 先生は白い髪をかきまわしながら身を起こし、ぼくを手招きした。


「ずいぶん活躍してくれたみたいじゃないか。キャリガン夫人も大助かりだったろう」


 先生はテーブルと安楽椅子を占領していた本を長椅子の上に移し、ぼくが座る場所をつくってくれた。


「部屋は片付いたかい」


 はい、とぼくはうなずき、先生にならってカップに口をつけた。ふちが金色のカップに注がれたお茶は、朝に飲んだものとは味も香りも違っていたが、やはりとても美味しいお茶だった。


「……お訊きしてもいいですか」


 温かなお茶で気持ちを整えて、ぼくは口をひらいた。


「ぼくに、弟子のふりをするだけでいいとおっしゃいましたよね。それはつまり、ぼくに、あの……不思議な術を教えるつもりはないということですか」


 先生はカップをテーブルに置き、組んだひざに頬杖をついた。


「きみは、学びたい?」


 すくいあげるようにぼくを見つめる瞳には、午後の陽射しと同じ色の光が揺蕩たゆたっていた。


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