ーー 11 ーー

「……これはもしもの話だが」


「なんだ?」


「もし、お前に、諦目さんの命を造ってくれってお願いしたら、かなえてくれたか?」


 傘杭はなんでも作れる。命だって作れる。


 当たり前に。当然のように。


 兎時さんと迷ったのは、そのあたりにある。


 命を造れるなら、疑似的に寿命を延ばすことはできるんじゃないか。


 そう考えた。


「かなえただろうが、つくれただろうが、寿命が延びたように見えただろうが、それで依頼が達成したとは考えにくい結果になっていただろうな」


「…………」


「死神が魂を持ってった時点で、諦目ってやつの寿命はそこで終わりだ。そこで命は尽きる。俺は作るだけだから、伸ばすわけじゃない。尽きたものを伸ばすことはできない。死神のやってることはさながら、おもちゃのロボットの電池を無理やり引っこ抜く感じだな。いくら電池の残量があろうが抜かれたら終わりだ。俺がするのは、その開いた穴に別の電池を入れるだけ。電池をいれるんだから動くだろうさ。でも、それが諦目である保証はない」


 スワイプマン、と傘杭は言った。


「今それについて議論する気はないが、それに近いだろうな。お前らは魂で人を見るんだろ? その魂が抜かれ、別の魂が入った。同じなのは諦目の体だけだ。入れ物だけだ。そいつが同じ思考を持ってるかなんて俺は知らない。そいつが生きて、三日後なにをするかは知らんが、その目的を達成することに意味があるのかしらない」


「多分、意味はないんだろうな」


 別の電池が入ったから別人とはそう安易に考えられないが、同一人物とみなすこともできないだろう。やっぱりそれはできないのだ。


 ズル。


 ズルなのだろう。


「質問は以上だな。俺は食うぜ」


「あいよ」


 これ以上質問を続けても、収穫はないだろう。あとは兎時さんと話して詰めるしかない。方法は知らないが、地球に影響が出ることは避けないといけない。向こうはわかっているだろうか。それとも影響がでたら出たで、あとでなんとかすればいいと思っているだろうか。


「……やめやめ。僕も食べよう」


 今はとりあえず腹に入れよう。こいつに全て食われてしまう。


 傘杭の胃は無限だ。


 いや、有限であることに確かなのだが、あまりに広すぎて無限に等しいのだ。


 聞けば、いままで傘杭は、満腹になったことがないのだと言う。


 冗談ではない。きっと本当に、こいつは満腹を知らない。


 なにを食べても腹が満たされない病気もあるが、こいつに限って病気でした、ですむはずがない。


 本当に満たされない。常に空腹で、飢えている。


 こいつの胃には今、『ものすごい質量を持った世界』と『永遠に増殖し続ける世界』が入っているのだという。それらを少しずつ消化しながら飢えに耐えている状態ということだ。それが無くなったら、またなにかを食うのだろう。


 死神だろうと、こいつは食料にしか見えない。


「ああ、そうだ、最後に」


 食べ始めてからだいぶたったころ、唐突にこいつが口を開いた。


「お前がわざと話さなかったことを聞いていいか?」


「どうぞ」


「なんで、三日生きたいんだ?」


「…………」


「その三日後、なにがある?」


 もう料理はあらかた食べつくし、もはや店員さえこいつの食べっぷりを爽快に思えていることだろう。そして、次からの来店はお断りされるに違いない。だが、そのほとんどと食べても満腹にならないようで、これ以上バクついても意味がないと判断したのか、ずっと下げていた視線を僕に向けた。


「三日後ね」


「俺が聞いて、納得できることか?」


「いや」


 だから、あえて話さなかった。


「きっと、理解できないよ」



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