ーー 10 ーー
「今回の依頼」
少し食べようとスパゲッティを巻いていると、傘杭が訊いてきた。
「俺に依頼しなかったのはなんでだ?」
「なんでって」
「いや、別に怒ってるわけじゃない。責めてるわけでもない。むしろナイス判断だと褒めたい気分だ」
褒める。傘杭の口から出ると不思議な気分だが、お子様な僕はそういわれただけで気分がよくなる。相手が神様だから、余計にそう思うのだろうか。
「直感、ていうのが、一番正しいだろうな」
諦目さんの話を聞いて、誰に頼もうか考えたとき、頭に浮かんだのが兎時さんとこいつだった。不思議通りの四人だったらだれでも対処はできるだろうが、できないはずがないのだが、その後のやりとりを含めるとなるとこの二人のどちらかだと思った。
傘杭か兎時さん。どちらも一長一短のような気がしたが、あまり長くは考えなかったと思う。
最後の決めては、なんてことない。ただの勘だった。
あの日、不思議通りで僕はまっすぐ兎時さんの店に入ったが、もしかしたら傘杭に頼むことだって十分にありえた。傘杭の店の前を通ったとき、少しでも足を止めていたら、こいつに声をかけられていたら、もしかしたらそのまま依頼の話になっていたかもしれない。
だが。
「ただ、なんとなく、兎時さんのほうがいい気がした。相手が死神ってことを考えると、なにかを生み出すお前より、時間を支配する向こうのほうが、やりようと言うか、抜け道があるような気がした」
「やりよう、抜け道。まあ、うまいことやるなら向こうのほうが簡単だな」
「…………」
珍しいと思った。
こいつが、ほかの三人のことを認めるようなことを言うなんて。
いつも張り合い、競い、出し抜こうとしているのを目の当たりにしてる僕から見れば、気持ち悪いことこの上ない。なにかよからぬことを考えているんじゃないかと疑ってしまいそうだ。
それか、こいつ、ひょっとして偽物か?
「今、失礼なことを考えてないか?」
「まさか」
「言っとくが、俺に頼んだとしてもなんとかしてやったさ。これは嘘じゃない。それはわかんだろ?」
首肯。
「さっき言った通り、死神ごとき相手じゃない。俺はなんでも作る。造って、創る。だから、向こうがいつく命を刈り取ろうとも、魂も創造できる俺は死なないし、殺すこともできない。そもそも触れることもできないだろうけどな。その前に、俺が食らいつくす」
「だろうな」
その光景は想像に難くない。
こいつなら向かってくる敵全てを飲みこむだろう。笑顔で、なんら躊躇なく食らいつくすだろう。死神だろうがなんだろうが、こいつの前では食糧でしかないのだから。
「だが、そうすると、死神たちとの全面戦争は避けられないからな。あんまりしたくない。最悪、というか、全面戦争に発展した時点で最悪は免れないけど、地球を壊すことになりかねない」
「……ん?」
「話し合いがそもそも成立しないって言ったろ? 俺ができることは向かってくる奴を片っ端から食らうだけ。死神に刈られないんだから死なない、それにその生きたいっていう期間の三日、俺は食料に困らないわけだ。向こうから死神が列を成してやってくるんだからな。俺が大口を開けて待っていればいい。この時点で、俺と依頼者はWinWinの関係なんだが、そううまくはいかなんだよな。死神側にとって得はなんにもないから、意地でも刈りにくるだろうし、そうなると俺もムキにならざるおえない。結果、死神と俺との抗争になるわけだ」
死神と神様の争い。想像したくもない。
「俺より下とは言え、俺が創造主とは言え、向こうも神のわけだから、神々で争えば確実に影響が出る。地球が壊れてもおかしくない」
「おかしくないってそんな気楽に言われてもな」
「あの四人の中で、争いを起こさず穏便にことを済ませる術を持ってるのは、あのばあさんだけだ」
「……じゃあ、兎時さんに頼んだ僕は、結果的に世界を救ったってわけか」
「まだわかんねえよ。交渉に失敗して、向こうが怒るかもしれない。この場合、正しいことをしてるんだから逆切れではないな」
まだ予断を許さないってわけだが、前進したことに変わりないだろう。
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