ーー 9 ーー


「死期を告げる死神ね。そんなことしてなんにも得にはならないが、だからと言ってしない理由にはならないな」


「普通の奴はそんなことしないもんなのか? やっぱり」


「たぶんおそらくでもやっぱうーん、って感じかな」


「なんだそれ」


「死神とは会ったことあるし、そいつらのことも知ってはいるが、死神に会った人間ってのは知らないからな。あいつらも俺と人間の前じゃ態度も対応も変えるだろうから、ひょっとしたら知らないだけで遊び半分でそんなことしてる奴らもいるかもしれんな」


 遊び半分で死期を告げられちゃあたまったもんじゃないが。


「まあ、そんなことしないってのが普通だろうな。だって防ごうとされちまうだろ? お前みたいに」


「……フォークで人を指すのは行儀が悪いな」


「さて」


 いつの間にか三皿食べ終えた傘杭は次の料理を取りに席を立つ。僕も話を終え、少し冷めたコーヒーを口に含んだ。次に傘杭が戻ってくるまで料理を食べ、戻ってきた途端にまた話始める。


 ちなみに、今度は五皿だった。気が付いたらテーブルにあったので、どうやって持ってきたかわからない。手でも生やしていたのかもしれない。


「今回、お前に相談したいのは、死神がどんなやつか知りたいからだ」


「どんなやつって言われてもな」と腕を組む。


 確かに。これが一人や唯一無二の存在だったらいいのだが、傘杭の話を聞く限り複数。人間がどんなやつと訊かれても答えられない僕のように、傘杭も答えにくいだろう。


「もし僕が諦目さんを匿って、死神の邪魔をしたら、死神はどうする?」


「怒るだろうな。そんで、なんとしてでも仕事を遂行しようとするんじゃないか?」


「怒った場合、僕を殺したり、もしくはこの町を壊したりすることはあるか?」


 傘杭は少し黙った。


「お前を殺すことはない。その諦目ってやつ以外を殺すことはない。そこでお前の寿命が尽きるってなら話は別だが、それ以外で死神が刈ることはしない」


「絶対にか?」


「絶対にだ」


 言い切られる。僕は死神に関してなにも知らないが、そういうものなのだろうか。

 

 そういうこと、なのだろう。


「そこはルールだから、考えるだけ無駄だ。そういう『決まり』になってる。そういう『設定』になってる」


「お前が作ったのか?」


「そう促しただけだ。全てじゃない」


 この地球の全てを作った神様は言う。


「死神にとって、それはもう生きる本能みたいなものだ。決められた奴以外刈らない。殺さない。そうできたときから、生まれたときから魂に刻まれてる。それを壊すことは死のルールを破壊することになりかねないから、間違って、勢い余って一緒にお前を殺すことはなかろうよ」


「そうか……」


 だから、と傘杭は言葉をつづけた。


「諦目ってやつを見逃すこともあり得ないと思うな」


 それが答えかと思う。


 結局、僕がなにを考えても無駄ということだろう。となれば、あとは兎時さんに頼むしかない。任せるのほうが言葉的に正しいだろうか。僕は仲介人だけで、あとはなにもしないのだから。

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