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新装開店と書かれた幟。店内も綺麗で、繁盛しているらしく店の前では待っている人もいる。バイキングには2時間の時間制限があるらしく、しかも14時で終わってしまうらしい。だが、入ってしまえば、2時間は食べられるということだった。現在時刻は12時を少し回ったくらい。普通に考えれば今考えればちょうどいいのだが、傘杭がいることを考えるとできるだけ遅く入りたい。理想は13時59分だ。それならほかの客に迷惑をかけることなく傘杭は全ての料理を食べつくすことができる。
「ちょっと時間を潰すか?」
僕が言うと、特に反論せずに頷く。向こうも自分が食べつくすとどうなるかぐらいわかっているのだ。
「ぶらぶら歩きながら、ちょっと話すよ」
「ついでになにか奢ってくれるとありがたいけどね」
馬鹿言うな。
店の前から離れ、駅とは逆に向かう。その先にショッピングモールがあり、一応はそこまで行くつもりだ。もちろんなにも買うつもりもなく、そこまで行って、折り返すつもりだった。
「どこまで知ってる?」
唐突な問いだったが、傘杭は平然と答えた。
「なにも。あの人になにかお願いしたことぐらいしか知らないよ」
本当か? と思ったが、傘杭はそうなのだろう。序質(じょしつ)と樫津(かしつ)の二人ならこの時すでに依頼内容から依頼人のことまで知っているはずだ。兎時さんなら、僕が不思議通りに入ってきた時点でそれをすでに知っている状態だ。情報戦に関して言えば常に最下位にいる傘杭だが、そんなことどうでもいいのだろう。
「依頼したのは知ってるんだな」
「昨日、あの店に入っていく姿が見えたからね。すぐに出て行ったようだし、買い物袋も持っていなかった。だとすれば、なにか買ったわけじゃないだろう。とすれば、あとはひとつしかないさ」
「簡単な推理だったかな」
「推理でもなんでもないけどね。そもそも俺は証拠を集めて真犯人がどうこうっていうのは苦手なんだ。なんでもサクサク進めたい。ゆっくりのったりは嫌いだよ」
「昨日、依頼があるって言っただけで、実際内容はなにも話してないんだ。まあ、向こうは兎時さんだから、すべてわかってると思うけど」
「わかっててもどうにもならない時があるんだよ」
言い捨てる。なにやら楽しそうだ。失敗を望んでいるのかもしれない。
「……なにか知ってるのか?」
「なにかって、なんだ? 俺は本当になにもしらないよ。ただ、あんたがこうやって俺になにか言いに来たってことは、あの人だけじゃ物足りないからなんだろうなって思って、気分がいいだけ」
「物足りなくは……ないけどな」
小声になる。このあたりの会話も、きっと兎時さんは知っているのだろう。聞いていなくとも、その場にいなくとも、わかているのだろう。それがあの人だ。訂正しとかないと、なにか言っておかないと、次会った時何言われるかわからない。
「不安があるのは確かだけどな。このまま僕は全て投げ渡していいのか、気がかりでもある」
「かかわったからって最後まで面倒みる必要は全くないけどね」
「今回、相手が死神なんだ」
顔色を窺いながら言う。なにか反応するかと思ったが、傘杭は全く表情を変えなかった。
「ん? どうしたの? 相手が死神。それで?」
「いや……」
「もしかして、俺がなにか反応すると思った? だとすれば、それは大きな間違いだよ。俺にとってそんな奴ら大した障害じゃないし、束になってかかってきたとしても、触れることすらできないよ」
「でも、神様だぞ?」
「神ごとき、なんだっていうんだ」
嘲笑。
「俺は、傘杭 火万だよ?」
「…………」
「そんなもの、興味のかけらすらないね」
傘杭 火万がなにものなのか。そう問われたとして、僕はそれに正確に答えることができない。そもそも、何『者』なのかも怪しい。彼は人間じゃないのかもしれない。
見た目は人だ。
形は人だ。
姿形は間違いなく人だ。
だから彼は人間だ、と言いきれればいいのだが、実際そうじゃないのだろう。
僕が彼をそう認識しているだけで、彼がそう見せているだけで、実際の姿はもっと違っているのかもしれない。
それか、『人間の方が、傘杭 火万を真似ている』のかもしれない。
……いや、それはやめておこう。それを口にした時点で、不思議通りの他の三人が一斉に怒りをあらわにする可能性がある。一応、地球にいるということで人の姿をしてはくれているらしいが、そんなこと言った途端どんな姿をするかわかったもんじゃない。
そこで終わってくれるならまだいい。
最悪は、他の三人が結託して傘杭に襲い掛かることだ。今のところその可能性は限りなく低いが、ゼロ出ない限り避けておきたい。お互いがお互いを敵対しているからこそ今の状況があるのだ。それが崩れるのはまずい。
傘杭の方もそう簡単にはやられないだろうが、抵抗したら抵抗したで、本当に世界が滅亡する可能性だってある。地球がなくなる可能性だってある。
地球、というか銀河系を創造した、万物を作り出した、僕がこうして生きている状況の全てを創造した彼なら、消すことだって簡単にできるだろう。また作ればいいくらいに思っているかもしれない。実際、世界をいくつも作っている彼ならできるだろう。
死神を神様と呼んだが、本当に神様と呼ぶべき人物は傘杭のほうだったりする。
創造主。
全てを作ったと豪語する彼なら、死神も恐れることはないだろう。
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