ーー 5 ーー

 次の日。


 仕事がなかった僕は昼に起きた。


 寝すぎて、逆に眠い。このまま目を閉じれば一日寝ていられそうだ。だが、そんなことも言ってられない。無理やり体を起こし、日課になっている身体測定を行った。


 身体測定と言っても、身長と体重を測るだけだ。今はデジタルなので値は正確。しかもパソコンに取り込め、日々の結果がグラフとして見れる優れものだ。まあ、値はSDカードに記録される上、測定後いちいちパソコンに挿し直さなければいけな買ったので、買った当初こと毎日データを取り込んでいたが、めんどくさくなった今では挿しっぱなしのままだ。値を確認するだけなら、目ですればいい。どうせ前日と比較するだけにしか使わない。これを買い替えるはアナログだったのだが、一人で測るとブレが大きく、大変だったのだ。。


「さて今日は、身長……164センチ、体重……70キロ?」


 ちなみに昨日は170センチ65キロだった。これはひどい。ノンアルとはいえ、ビールを口にした影響だろうか。ここまでのブレは久しぶりだ。もう二度とアルコールは口にするまい。 


 あまりの驚きですっかり目が覚めてしまった。体も起きたようで、そのせいか、少し空腹を感じる。


 空腹を紛らわすために、パソコンを立ち上げ、メールをチェックすると諦目さんから返信が来ていた。返信時間からすると、朝一で返事をくれたらしい。そこには感謝の言葉と、来週に三重に来るという内容が書かれていた。


 兎時さん曰く、日時の指定は向こうでいいということだったので、いつ来るかは諦目さんに全部お任せしてある。メールに記載されている日時も、兎時さんに確認は取っていないが、問題ないだろう。彼女に時間はあってないようなものだ。僕含め三人の中で一番忙しいのは諦目さんなので、彼に合わせたほうがいいだろう。問題ないことを返信する。メールには他に依頼料のことが書かれていたが、そこは次あったときに話すことにした。まだそこまで、兎時さんと話をつけていない。


 ほかに、メールを見ると、『便利屋』としての依頼が数件入っていた。どれも一般的な仕事内容で、いわゆるファンタジー方面の内容はない。依頼内容を見ても、諦目さんの仕事に支障をきたすことはないと判断し、受けると返信する。あとは内容を煮詰めれば終わりだ。早くて来週からの仕事になるだろう。急ぎの要件はない。


 時計を見る。そろそろお昼だ。


「やば、間に合うかな」


 急いで着替え、自転車に飛び乗る。行先は不思議通りだ。




「よ。ちょっといいか」


 平田町駅前のおでん横丁と書かれた看板の下。出てくる青年を待って声をかけた。


 傘杭 火万(かさぐい かばん)。不思議通りの一軒、複製屋『もいっこ』の店長だ。容姿から考えると今の僕と同い年くらいなのだろう。だが、向こうのほうが背が高く、顔が整っている。


「おや、なんだなんだ、そっちから声をかけてくれるとは珍しい」


 いきなり会った僕に驚いたような傘杭だが、すぐになにか察してくれたらしい。


「昼飯、まだなんだ。これからなんだけど」


「僕もまだだが、だからと言って、奢るは言わないぞ。質問にちゃんと答えてくれたらだ」


 じゃないと、食べるだけ食べて終わりということだってあり得る。それに、こいつの胃袋に付き合ってたら、お金がいくらあっても足りない。比喩的な意味じゃなく、本当に足りない。


「それはひどいな。でもまあ、ひとりの昼食にも飽きてきたところだし、誘ってあげるとするか」


「それはどうも」


「じゃあ、今日は二人か。なら、ちょっと行ってみたい店があるんだ」


「高い店はやだぞ」


「そんなことない。普通のバイキングさ」


 これにはかなり驚いた。


「この町にはお前がいるのに、そんな無謀なことをする店があるのか?」


「この前オープンしたばっかなんだ。なかなか評判のいいお店なんだけど、ひとりじゃ行き辛くてね」


「可哀そうに。このあたりになんで食べ放題の店がないか知らないんだな。……てか、お前ひとりで飯なんかよく行くじゃんか。なにが行きづらいだよ」


「店内の料理全部食べつくすとさ」


 冗談のように思えるが、それくらい平然とする奴だ。


「白い目をされるじゃんか。ひとりだとそれが嫌でね。ふたりだと分散される」


「あんま変わんないと思うぞ。それ」


「ま、いいじゃん。食べ放題、久し振りでしょ」


 勝手に歩き出す傘杭。店の場所を知らない僕にしてみれば、後についていくしかない。


「久し振りっていっても、僕はあんま量はいけないんだけどな」

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