番外編 二丁目に行ったときの話 その3

 こんにちは、nnsです。

 お前めっちゃ二丁目行くやん……! って思った方もいるでしょうが、そんなことはないです。

 多分、5〜6回ですね。10回は絶対行ってないです。


 一人でイベントに参加することを諦めた、というか自分には必要のない集まりだと理解した私は普通に生活を送っていました。前にもちらっと書きましたが、バンドをやってるので結構忙しいし、それなりに出会いもあるんですよね。別にそういう目的じゃないですけど。何が言いたいって、あんなしんどい思いする必要は全然ないってことです。

 セッションとかは一人で全然行けるんですけどね、あの手のイベントは無理です。何故ならば、セッションは楽器を演奏するという目的があるので。中には色んな人と交流しながら、楽器も触りたいって方もいるでしょうが。私はそういうタイプではなく、好きな曲を演奏できればいいや派です。で、音を合わせたら少し話もしますし。セッションのあとって打ち上げがほぼ100%ありますし。なんとなーくやってても知り合いって結構増えます。あと、私は女性ドラマーなので、結構構ってもらいやすいってこともあるかもしれませんね。ちょっとだけ珍しいので。

 まぁそんな感じで二丁目に行く、という田舎者レズノルマ(ブラック企業のノルマより辛いな)をこなして、平和に過ごしていたんですね。

 確かmixiでバンド関係かコミュか何か繋がった子だと思うのですが、その子にまたイベントに誘われました。「nnsって都内在住だよね!? 一緒にイベント行かない!?」みたいな。ノリで生きてる人種なので、二つ返事でオッケーしました。あ、パートナーがいる人はもう少し考えて行動した方がいいですよ。当たり前ですけど。そのときは私も友達も相手がいなかったので大分身軽でしたね。



 待ち合わせは当然の如く24時とか24時半とか。時間は忘れましたが、終電に近い時間の新宿行きに乗ったのは覚えてます。

 イベント自体は確か夜の9時とかからやってるので、友達は前乗りしてました。私は仕事の関係で合流時間が遅くなっちゃってたんですね。

「中にいるねー」とメッセージが来ていたので、階段を降りて手の甲にスタンプを押してもらいます。なんか再入場に必要な、ブラックライト当てたら光るやつ。


 で、中に入ると、人がめっちゃ多くて大変でした。ステージの方ではストリッパーがえっちじゃないポールダンスをしてました。なんか卑猥なやつあるじゃないですか、そっちじゃなくて、健全なやつ。かっこいいー! ってなる感じの。

 私は踊っている人を見ると、「同じ人類で同じ女なのに、この人はこんなにも俊敏……それに比べて自分は……」と悲しい気持ちになるので、あんまりちゃんとは見てません。

 一通り見て回ったけど、そこに友人は居ませんでした。まさか踊ってる!? と思ってダンサーを見に行ったけど、やっぱり違いました。いや踊ってたら怖いわ。

 適当なところに寄って、煙草に火を点けると「どこにいるの?」とメールをしました。そんな広くないところだったんですが、奥で結構な人数でわいわいやってる人達がいたので。そこに混ぜてもらってる可能性なども考慮したんですね。でも「やっほー! 楽しんでるー!? ○○ちゃんいるー!? いないー!? オッケーシーユー!」とかちょっとヤバい人じゃないですか。なので先に文明の利器で確認したんですね。

 返事はすぐに来ました。


「コンビニ!」


 いやおかしいじゃん。なまら探したわ。

 私は煙草を吸い終わってから向かいのコンビニにいきました。っていうか入れないんですよね。コンビニの前にたまるのってヤンキーだけじゃなかったんだ……レズもたまるんだ……(?) みたいなことを考えました。

 ホントにめっちゃいたんですよ、20〜30人くらい。開場前のライブハウスか? って感じで。入口塞いでるもん、完全に。友達が中にいるかもしれないし、煙草の予備も欲しかったから中に入ろうとしたら、レズ向けイケメンみたいな女が「こっち」って言って邪魔になってる女の肩を抱いたの。今でも覚えてる。だって、「いやお前【私は分別がついてるから通行人の邪魔にならないように振る舞えます】みたいな顔してるけど、こんなところに突っ立ってたむろしてる時点で同類だからな」って思ったから。何スカした顔でカッコつけとんねん。これだから美形はよ、けっ。ラーメン頼んで「私のだけチャーシュー小さい……」ってなれ。ボケがよ。

 結局友人はそのたむろしてる集団の中にいました。ひと際「っっっっっっるせぇな」って思っていたグループの一員になっていました。


 友達の友達が居たらしいですね。8〜10人くらい居たんじゃないかと思います。私も軽く挨拶を済ませて輪に入れてもらいました。挨拶を除いた私の第一声は多分「なんでここにこんなに人いるの……?」だったと思います。

 二丁目初心者だから、「なんか特別なしきたりがあるのか? もしかして」、と思ったんですよね。慣れてるっぽい子が「ここはいつもだから大丈夫だよ」と答えてくれましたが、それ大丈夫じゃねぇよな。

 それから私は、そこにいる何人かと一緒に会場に戻りました。待ち合わせした友達は相変わらずコンビニの前に居ましたけど。でも、そう、一人じゃないんですよ。もうね、なにかを見かけた時に「あの人すごい」とか話せる人がいるだけで楽しさが億倍にもなるんだ。つんつんってされて指差された方を見ると、結構ガチめの喧嘩してたり。んもーーー♥♥んだよー♥♥そんなの教える為につんつんすんじゃねぇよー♥♥んぅ〜〜〜〜kisskisskiss!!!♥♥ って気持ちでしたね。


 この時の事を振り返ってみると、なんて健全に二丁目を楽しんでいるんだろうって思いますね。素敵じゃないですか? 知り合ったばかりの子達とワイワイ他愛もない話をするって。あ、ちなみにこの日は指も怪我してません。血液で他人に迷惑をかける心配はありませんでした。

 その中で過ごす時間は楽しかったんですが、いかんせん冷房が強過ぎたんですよね。友達が来てるからちょっと話をしてきたいんだけど、みんなも来る? って感じで声を掛けられて、私はついていくことにしました。バンバン知り合いを増やしたいという欲求はまるで無かったんですが(前回の失敗を考えれば、誰かとのんびり雑談できてる時点で大成功なんだよ)、寒くて出たかったんですね……。


「うーす! 元気かー!」

「あっ! やっほー♥」


 別に叙述トリック的なことをするつもりは無いですが、うーす! と言ったのがレズの子、仮にAちゃんとしましょう。やっほー♥ と言ったのは男の子でした。まぁ男の子って言っても20代前半とかなので、未成年じゃないですけどね。いわゆるジャニ系のゲイってやつですね。


 えっ、友達って、勝手に女の子だと思ってた〜! とは思いましたが、意外に思っただけで特に抵抗はないので。なんとなく話をしながら近くの公園(なんか二丁目の中に公園があるんだ)に移動しました。ちなみに自己紹介はしてません。なんとなく増えて、いつの間にかいなくなってる魚の群れのようなものをイメージして下さい(?)。


 街灯の下に移動して、公園の中、明るい夜道で雑談をかわします。というか私は携帯灰皿片手にみんなの話を聞いてる時間が長かったかもですね。ゲイ4人とレズ3人(多分みんなそんな深い仲じゃない)という謎のグループでしたが、別に嫌な感じはしなかったです。

 そしてその瞬間は唐突に訪れました。


「じゃ! あたしまた友達に呼ばれたから! みんなで仲良くしといて!」


 そう言って、ケータイ片手にホントにどっか行ってしまうAちゃん。


 あのさ、違うじゃん。Aちゃん。うちらAちゃんだけが知り合いじゃん。


 それは駄目じゃん。


 ジェンガにドッヂボールぶつけるくらい駄目じゃん。


 うちらぷよぷよじゃないからそんなすぐぎゅって仲良くならないんよ。


「あ、よし。打ち解けたな」って判定が雑過ぎるわ。



 瞬時に湧き出た様々な言葉を飲み込んで、私は移動していくAちゃんの背中に声を掛けます。


「またねー!」


 いやまたねじゃないが。

 だけど止めてもアレだしね。


 お気付きでしょうか。私、待ち合わせした友達とほとんど過ごしてないんですよね(笑)多分、コンビニの前で最初の数十分だけ。まぁそれはいいんですけど。まさか名前も知らないメンバー5人と雑談をすることになるとは思わなかったです。


 あんまり詳しくお話するとプライバシーに関わってくると思うので、その時の会話は私の心の声だけで追っていくという特殊なダイジェスト版でお楽しみ下さい。


 え、マジで行っちゃった。あの子頭おかしいな。またねーとか言ったけどあいつ戻って来んやろ。こんなのみんな絶対困惑して……いやもう一人のレズは全然平気そうだわ。なんでだよ。ニコニコ会話してる。強い。対するゲイグループもみんな普通だ……え……? あ、もしかしてみんな知り合いだった……? いや違うな、自己紹介し始めたし。シュンなのかシュウなのか聞き取れんかったヤベェ。


「シュゥ(ン)、よろしくね!」


 めっちゃ誤摩化しちゃった。でも仕方ない。シュゥ(ン)ったら声ちっさいんだもん。

 あ、みんな彼氏の話とかするんだ、面白ーい。すげぇ、自分の過去の恋愛のことナチュラルに恋って言ってるのに、全然鼻につかない。可愛い。あ、この恋バナ一生聞いてられるな。


「おるるるおるるおるる!!!」


 はい、私の心のダイジェスト(?)ここまで。

 上の台詞は誤字ではありません。真っ赤っ赤になったおっさんが、私達にいきなり怒鳴って来たんです。公園にはいくつか入口があって、まぁ二丁目側じゃない方の入口もあるからね。天下の新宿、しかも金曜の深夜ですよ、酔っぱらいなんていくらでも居る。

 もう絶対になんて言ったのか聞き取れないはずってくらい何言ってるか分かんなかったんですが、なんとゲイグループの一人は半べそをかきました。お前……向こうが何言ってんのかも分からんのに……怒鳴られた的な雰囲気だけで泣くなよ……。

 いきなり怒鳴られたっぽいことにも、たったそれだけのことで泣きそうになる人がいることにも驚いた私は、結構ぽかーんとしてました。もう一人のレズは、「あっち行こ。ね」と誘導してあげてましたね。だけど、ビビり過ぎて4人とも動けなかったんです。あ、4人というのはシュゥ(ン)達ゲイグループが。


 それまで、「ホモって男が好きってだけで、別になよなよしてるワケじゃないでしょ。そういう人もいるんだろうけどさ」って思ってたんですね。レズがみんなサバサバしてるワケじゃないってのと同じ感じっていうか。なんとなーくそういうイメージはあるけど、そんなワケねぇよなって。だから「いや冷静に考えて? 本気で喧嘩したら絶対君らの方が強いよ?」っていうチビガリおやじ相手に、4人が同時にビビるって、ちょっと逆に想定外だったんですよね。

 酔っぱらいは何かを言いながら少しずつ近付いてきます。少しずつというのはアレですね、フラフラしてるから。最初は何言ってるか分からなかった言葉ですが、断片的に意味が分かってきます。


 男のくせに。女のくせに。気持ち悪い。特にホモ野郎ども。きめぇんだ。


 みたいなことを繰り返してたと思います。

 でも他にも何か言ってる気がします。私は、気付けば声を発していました。


「ごめーん、なんつってんのか聞こえないから、もっかい言ってー!?」


 私、声デカいんですよね。あと結構高い。居酒屋とかで重宝する声してます。深夜の公園に自分の声が響いたのが分かりました。普通にしててもデカいのに、この時はおっさんがぼそぼそ喋ってるのをかき消してました。

 その公園はまばらに人が結構いたので、それだけでなんか周辺が変な空気になるのが分かりました。私も酔っぱらいに向かって歩き出します。数歩歩くと、そいつはまたよく分からないことをぶつぶつ言いながら踵を返しました。

 ウケますよね。私は言い返してすらいないのに。まぁ、シュゥ(ン)達と同じで、「おっきい声で反論された雰囲気を感じた」ので逃げたんでしょうね。そんなんで逃げるくらいなら最初から喧嘩売るな。


 酔った人の言うことだから許してあげてって言う人もいるかもしれませんが、私はあんまりそんな気持ちにはなれないんですよね。だって、多分シュゥ(ン)達がガチムチのクソ強そうな熊さんみたいな外見だったら、喧嘩売られてなかったでしょって思うので。可愛くて「え? 女? あぁ男か」ってくらい華奢だから、絡んできたんだと思ってます。許せねぇよ。


 まぁそんなこんなでクソ酔っぱらいが居なくなると、彼らはやっと動けるようになったらしく、ささっと移動を開始しました。いやおかしいから。遅いから。もう移動しなくて良くなったから。どこ行くの。

 そしてその場に取り残されるシュゥ(ン)。めっちゃ泣いてる。号泣してる。涙を拭ったせいで、腕が街頭に照らされてキラキラ光ってる。困った私は彼をベンチに座らせ、自分も隣に座ります。シュゥ(ン)……なんでうちら二人きりでベンチ座ってんだろうね。


「なんで泣いてるの?」

「こわかった……」

「そっかぁ〜……」


 この時軽く怒られました、怖いから口答えみたいなことしないでって。シュゥ(ン)……お前ってやつは……ムカつくホモだな……(本音)。

 まぁ向こうは肩を震わせるほど号泣していたので、基本は慰めてました。ホモを慰めるレズ。

 私も髪が短いので、遠くから見たらホモカップルに見えるんだろうなって思いながら、とりあえず彼の背中を撫でます。


「nnsが男だったら好きになったかも」


 それ普通レズが同性に言われて凹むヤツだから。

 ホモに言われたら別の意味で凹むからやめろ。


 しばらく彼を慰めていると、Aちゃんがすっ飛んできました。顔がね、鬼。表情がR-18Gってくらい怖い。


「なんか変なのに絡まれたんだって!?(ブチギレ)」

「もう居なくなったよ」

「nnsが追い払ってくれたよ」

「ちゃんと殴った!?」

「ちゃんとってなに。暴力を義務付けるのやめて」


 Aちゃん、いい加減なヤツだと思ってたけど、案外友達想いのいい子でした。でもその場には居なくて良かったなぁとも思いました。この子がいたら多分もっとデカいトラブルになってたと思う。っていうか殴ってたと思う。


 そのあと、ゲイグループとは離れて、待ち合わせした友人とAちゃんを含む、十人くらいであるお店に入りました。デカいテーブルにズラっと並ぶ女達(なお全員レズorバイ)。

 私、初対面の時の空気感って好きなんですよね。みんな大体、自分の中の鉄板ネタを話してくれるじゃないですか。これ言っときゃ大体ウケるみたいな。

 でもこの時はちょっと違いましたね。3分の1くらいはそんな感じでしたけど、そうじゃない人達も多かったです。まぁ引っ込み思案の人もいますしね。バンドマンのそれで慣れてる私が少しズレてる気もするので、それ自体は全然普通のこととして受け入れられました。

 だけど……ちょっとびっくりしちゃったんですが、ある二人組がペアでその場に居たんですね。で、一人はこそこそと隣に座ってる友達に話をして、その子に発言させてたんです。通訳みたいな感じで。日本人じゃないのか? と思ったんですが、周りの話を聞いている感じを見ると、日本語は理解してるんですよね。っていうか99%普通に日本人なんですよね。

 まぁ無理にその子と関わらなくても、その場には他にもたくさんいるので。みんながドリンクバーのおかわり行くくらいのタイミングで、それまで友達に発言させていた女は「つまんな。帰るから」と言って立ち上がりました。ちなみに私はこのとき、「うわ! すごい! 漫画とかでたまに見かけるクソ女だ!」とテンション爆上げになりました。

 確かにね。通訳挟んで会話する感じが面倒だったのか、誰も進んで話し掛けなかったんですね。私もそうです。自己紹介的な流れのときにみんなが「あっ……」ってなって、そのあと優しい勇者が話し掛けても全く同じ調子で、それっきりです。でも、それらを乗り越えてたくさん話し掛けてほしかったみたいですね。それをするメリットを提示しろよ。

 初めて聞かせた声が「帰る」って面白いですよね。私は「いや普通に喋れるんかよ(笑)」って言いそうになりましたが黙ってました。女は通訳させてた友達に、付いてこいという視線を送ります。普通に考えて「あぁこの子も帰るんだろうな」って思うじゃないですか。でも、その子、帰らなかったんですよね。「ふぅん、バイバイ」って言って。

 私はちょうど飲み物を取って帰ってきたところで、そいつらの後ろに立っていたので無音で笑ってしまいました。ハシゴの外し方エグいんよ。え? 蜘蛛の糸?

 ヤバ子が帰ったあと、友人ポジだった子はみんなに謝ってましたね。「私が迷惑なだけならいいんだけど、今日のはさすがに我慢できなかった。カチンときたし、残って謝らなきゃいけないと思った」みたいなことを言ってました。色んな人がいて、色んな人間関係があるんだなぁと思いましたね。私だったら、こんなことになる前に絶対に縁切ってるので。


 その後は終始和やかでした。気付いたら朝だったっていう。

 新宿2丁目で「あ、もう始発動いてるじゃん」って言ったの、多分あの時が初めてですね。それまでは「始発早くこい」と念じているばかりだったので(地獄)。

 その日知り合った子とも、細々と何年か交友が続いたりしましたよ。最近は全然ですけど。まぁお互い忙しいので。


 ちなみに、シュゥ(ン)とは連絡先も交換していません。それっきりです。もしこれを読んだ人の中に心当たりがあるゲイがいたら、シュンなのかシュウなのか教えろ。


 それでは。

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お前らは知らないかもしれないけどレズも怪我したら血が出るんだ nns @cid3115

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