ラストソングは泣かずに歌う!
●星佳
「私ね、ギター練習したんだ。これからは、あなたなしでもやっていけるように、自分なりに前に進む準備を、しているつもりなの」
伴奏を拙く演奏する。
●星佳
「人は忘れる……ことが、できるはずなのに、なぜできないんだろう……」
星佳、泣きじゃくり、手が止まる。
そのとき、背後から、星佳を抱くようにして両腕だけが現れ、代わりにギターを弾き始める。(一見すると、星佳がギターを弾いているようにも見える。)
――照明は手元に強く当たっている。
歌っている最中、倫太郎のハミングが聞こえる。
*
曲(○○)が終わり、ギターを弾いていた倫太郎の腕が星佳を抱きしめる。
拍手が響き渡る。
星佳、立ち上がり一礼。
一礼が終わり、照明が全体を映し出すと、もうそこに倫太郎の姿はいない。
星佳、開いたままのどこでもドアを見つめて、
●星佳
「これからは、そこからでいい、すぐ後ろじゃなくていいから、見ていて」
○倫太郎
「ずっと見守っているから、一人じゃないから、ラストソングは泣かないで」
(ドアの中から声だけがし、少し開いていたドアの隙間がぱたんと閉まる。)
●○二人
「じゃあね」(声を合わせて)
一曲(○○)。星佳、笑顔で、一人で歌う。
――暗転。
●星佳
「あ!」
――明転。
○星佳
「CDの置き場所、聞くの忘れた」
星佳、ふっと笑う。
――暗転。
暗闇の中、誰もいなくなった舞台のスクリーンに、月が映っているのが見える。
月夜、ラストソングは泣かずに歌えるだろうか 小鳥 薊 @k_azami
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