召喚術士編 第0話 ケモナーの聖地
「行ってきまーす!」僕は勢いよく家の玄関から飛び出した。今は夏休み、日差しが強く走っているとどんどん額から汗が滲み出てくる。でもそんなのを気にすることなく走り続けた。久しぶりに友達と遊ぶことができるからだ、夏休みが始まる前に約束をして今日がその遊びに行く日。
数分は知るとその友達の家に着いた。持ってきていたタオルで汗を拭いてから玄関のインターホンを押した。家の中から足音が聞こえてくると静かに玄関が開いた。
「やっほー!いらっしゃーい」遥が笑顔で出迎えてくれた。そしてその友達に抱きかかえられた白猫のハクも歓迎するようににゃあ、と鳴いた。相変わらずハクは可愛らしい。こっちも思わず顔が緩んだ。
友達の家に上がると他にも雄介と明日香の二人が遊びに来ていて二人でテレビゲームをやっていた。
「おい!今わざと体ぶつけてきただろ!ふざけんなよ!」
「は?変な言いがかりやめてくれない?」
相変わらずこの二人は喧嘩ばかりだ、高校でも何かあるごとに喧嘩していてもはや名物とまで言われているほどだ。
「勝った回数が多いほうに負けたほうは買ったほうにジュースおごるっていうのを祐樹が来る前からやっててね……もうかれこれ1時間くらいやってるよ。」
「そんなに前からやってたんだ……ちなみに勝敗はどうなってるの?」
「ん~っとね……確か雄介が4回勝って明日香が9回勝ってたかな」
「いや雄介負けすぎでしょ……普通もうやめない?」
「負けてもずっと次こそは勝つ!とか言って全然やめないんだよねぇ」
二人で話していると突然大声が聞こえた。どうやらまた雄介が負けたようだ。
「くっそぉ!お前強すぎんだろ?前したときは弱かったくせに!」
「ふっふーん、むしろあんたが弱くなったんじゃないの?じゃ、ジュースおごってよね~♪」
「へいへい……わかったよ」
雄介……お金大丈夫なのかな、苦笑しながら心の中でそう思っていた。
「んじゃ行ってくるわ、何買ってきてほしいんだよ」
「ん~……じゃあコーラでお願い」
「うい、了解」
雄介がコンビニに出かけてる間に僕たちは罰ゲームなしでゲームを楽しんでいた。僕自身家ではあまりゲームはやっておらず操作がおぼつかなかったがそれでも楽しめた。
十分くらいして雄介が帰ってくると雄介も混ざって四人でプレイしていた。当然三人でやっているときよりも騒がしくなり罵声や笑い声が混ざり合う空間になって時間も忘れて熱中していた。
「おーい!祐樹ー!起きろー!もう6時だぞ!」
「おふっ……!?」
突然の大声とともにお腹に痛みが走り目が覚める、目の前には遥が馬乗りになっていた。
「もー、いくら騒ぎ疲れたからと言って寝すぎだよ、もうみんな帰っちゃったよ?」
体を起き上がらせてみると既にあの二人は帰ってしまった後で外の日光も茜色になっていた。
「いくらなんでも……飛び乗ってくるのはどうかと思うけど……痛いし」
「だって頬たたいたりしてみても起きなかったから最終手段として」
それで嘔吐でもしたりしたらどうするのさ、と心の中で突っ込む。
「じゃあ僕も帰るね。また遊びに来るよー」
「うん、今度は今日みたいに寝すぎないようにね」
にやにやしながら遥が言う、さすがに今日みたいなことはしないよ。と苦笑しながら返す。
「久しぶりに遊んだけど……ほんと楽しかったなぁ。」
僕はイヤホンをつけてお気に入りの曲を聞きながら綺麗な夕焼けの中、帰り道を歩いていた。あまり複数人で大騒ぎすることは慣れていなかったからいつもより疲れていた。さっきまで寝ていたがまだ疲れは完全に取れていない、帰ったらすぐにでも寝よう。
「ただいまー」玄関のドアを開けて言った、けれども返事がなかった。いつもならすぐにお帰りという返事が返ってくるはずなのに。おかしいなと思いながら靴を脱いで荷物を置きに自分の部屋に行こうとするとリビングに繋がってるドアがバンッと勢いよく開いた。何事かと振り返るとほぼ同時に僕の後ろにいた男は持っていた拳銃を発砲した。発砲された弾丸は僕の頭に命中し後頭部から血を吹き出しながら頭から後ろに倒れた。少し男の足音が聞こえてきたがすぐに聞こえなくなり意識もなくなった。
―目が覚めたら真っ暗な空間にいた。見渡しても目の前にある扉以外は何もない。
「寝なおそうとしないでくださいよ、七瀬祐樹さん。」
夢かと思って目を閉じて寝なおそうとすると突然誰かの声が聞こえてきた。慌てて起き上がってみると目の前に見覚えのない人がいた―いや、人の形をした霧だ。
「え……誰?しかもここどこ……?夢じゃないの?」急な展開で混乱しながら質問を投げかける。
「夢ではありません、ここは私が作り出した空間です。死んでしまったあなたの魂をこの空間に連れていたのですよ。」
僕はぽかーんと口を開けたまま相手を見つめていた。相手が何を話してるのか全く理解ができなかったからだ。空間を作り出した?死んだ?この人何言ってるんだろう?
「……大丈夫ですか?ぼーっとしてるようですけども」
「はいっ!?あ、大丈夫じゃないです……」慌てて返事をする。いきなりこんな変な事態に巻き込まれたら普通大丈夫なんて言える人はいないと思う。
「落ち着きましたか?」
「はい……少しは。」少しの間深呼吸したりして気分を落ち着かせていた。
「それで……もう一度言いますが、貴方は元々住んでいた世界で死んでしまったのです、それで魂だけになった貴方をここに連れてきました。ここまでは理解できますか?」
僕は小さく頷く、気分を落ち着かせている間にぼんやりとだが自分が死んだことを思い出していた。でも正直まだ自分が死んだという事を否定したいと思う自分もいる。
「話は変わるのですが……貴方に頼みたいことがあるのですが……よろしいですか?」
「へ?あ……はい、いいですよ?」急に改まってどうしたのだろうと疑問に思いながら返答する。
そして謎の人物、アルマから自分の住む世界を救ってほしいと頼まれた。まさかここまで壮大な頼みごとをされると思っておらずまたぽかんとした表情を浮かべる。
「まぁ急にこんな話をされてすぐにいいよって返事できるほうがおかしいと自分でも思っています……けれどもそれでも私の世界を救うためには貴方の力が必要なのです。」
「わかりました……そこまで言われたらさすがに断りづらいですよ……本当に困ってるみたいだし。」苦笑しながらそう答える、まだ色々完全に受け入れられていないことは多々ある。けれども時間がどうにかしてくれる、そう思うと多少気が楽になる、今までそれで解決しなかったこともあるがこればかりは自分でどう考えてもどうしようもないと思った。
「ありがとうございます、では少し準備をするのでじっとしておいてください。」
そういうとアルマは僕に近づいて呪文のようなものを呟いた、すると体が光り始めて魂だけだった自分に身体が戻った。少し体を動かしてみるが少しも違和感がない。完全に元に戻っている。
「これで準備は完了です……最後にもう一度聞いておきますけどここから先は私でも何が起きるかわかりません。とてつもなく恐ろしい目に合うかもしれません……それでも大丈夫ですか?」
「少し不安な気持ちはある……だって今までとは全く違う生活になるわけだし。けれどもこうしてまた生活できるってだけで嬉しいよ。それにさっきもいったけど困ってる人はほっとけないよ。」
元々いた世界でもう生活できないのは残念だけどその分この先にある世界で前みたいに自分らしく生きていればいいんじゃないかな。
そう告げるとアルマは静かに頷いた。
「ありがとうございます。それではまたいつかお会いしましょう。」それだけ言うとアルマはすーっと消えていった。僕は扉の近づいてそっと扉を開けた。
「わぁ……凄い……」扉の先には花畑が広がっていた、風に吹いて踊るように花たちが揺れているのを見るとなんとなく可愛らしいと思う。僕は花畑に足を踏み入れ寝転ぶ、空はすがすがしいほど青く素晴らしい景色だった。恐ろしいことが起こりそうな気配など微塵も感じられないくらいこの花畑は平和な雰囲気に包まれている感じだ。
しばらくして起き上がると目の前に小さい兎がいた、それを見た瞬間僕は目をキラキラして兎を見つめていた。僕は獣が人一倍好きな人、いわゆるケモナーと言う奴だ。家では暇なときはパソコンで猫や犬やらの癒し動画をずっと見ている。
周りを見ると同じ種類の兎が何匹も集まっていて僕を囲んで見上げていた。僕は自分が何のためにここに来たことを忘れて兎たちをひたすら愛でていた。
「はわぁ……ここが天国か……」緩んだ顔で兎を撫でながら呟いた。
すると突然兎たちは同じ方向を向いたと思うといきなりばらばらに駆けだした。視線を上げると少し離れた場所から狼が近づいてきているのが見えた。
学生三人が異常な力をもって異世界転生!? アーク @kgtt
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