第3話 戦いの終わりに
市庁舎の部屋で書類に目を通していたアルフォンスは、ノックもなく入って来たミーナに気が付いて顔を上げた。
「どこに行っていたんだ。…姿が見えなくて、やられたかと思ったよ。」
「冗談でしょ。」
頬の返り血を拭うと、見慣れた一文字の傷が見えた。相変わらずクールな様子のミーナにアルフォンスは手を叩いた。
「よくやった。君たちのお陰で竜は退治され、ネルケは救われた。これでザフィーア王国の竜狩人は、大陸中に名が知れるだろう。」
「それを組織した王太子の名前も有名になるでしょうね。…偶然、竜が襲って来て、私たちがここに来ていて良かったわね。」
「何が言いたい?」
ミーナは木箱を机に置いた。銃弾でボロボロになっていたそれに中身はない。
「野生の竜は、無作為に人間を襲う。…でも、今回は違うんじゃない?」
「どういうことだ?」
「ここには子どもの竜が入っていた。襲って来た竜はきっと親だったのよ。…アーベル商会はこれを運べと言われていたみたい。どこかの高貴な方からの注文で。」
アルフォンスは、厳しい目で木箱を見つめた。
「竜の取引は犯罪だ。もしそれが本当なら、とんでも無いことだ。…調べる必要があるな。」
「ねぇ、あんた薄々感づいてたんじゃない?」
「まさか。」
アルフォンスは少し肩をすくめると、用事は済んだとばかりに書類に目を移した。ミーナは、思わず胸ぐらを掴む。
「ふざけないで。どれだけの犠牲があったと思っているの。」
しかし、アルフォンスは少しも動じないで見つめ返す。
「驚きだな。君は正義の味方になりたくて竜狩人になったのか?」
「…」
「大金が手に入るからだろう?」
ミーナは無言で手を放して踵を返した。去り際にアルフォンスが引き止める。
「そういえば、明け方に別の竜を見たという住人がいる。何か知らないか?」
「いいえ。何も。」
素っ気なく返すと、扉を閉めた。廊下に出るとイルハンが心配そうにこちらを見ていた。それを安心させるように軽く頷く。
「お姉ちゃん!」
市庁舎を出ると、エルマーが待っていた。ミーナが近づいて目線を合わせると、エルマーは力いっぱい抱きついた。耳元で小さく呟く。
「母様を助けてくれてありがとう。ティアマト様。」
ミーナはそれに小さく首を振る。その後ろにいるヘーレネに微笑むと、立ち上がってイルハンと馬車に乗り込んだ。
そして、まだ混乱の残るネルケの街を後にしたのだった。
竜の鳴き声が聞こえるか ようけいじょう @yukigahuttayo
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