26-七月二十三日(土)

「──めて見ましたけど、やはりうちの大吉が一番ですわね!」

「あははー、だってだいきっちゃん本物だもん。負けるはずないよ」

 東尋坊あんこと狸小路綾花が会話している。

 状況を把握する。

 現在地は狸小路三丁目にあるゲームセンターの前。小林大吉のアルバイト先である執事喫茶からの帰り道であると記憶が示している。

「でも、夏休みはミナトもアルバイトをするのでしょう? ライバル出現ですわ!」

「ねーミナト、いつからバイト?」

「ああ、明日からだよ」

「明日! ね、たぬち! 明日もいこっか!」

「うう……あんまりお金が……いえ、でもミナトの執事姿ですもの、一度くらい……」

「たぬちお金ないの?」

「え、ええ……恥ずかしながら……」

「なら今日じゃなくて、明日行けばよかったねー……」

「──はッ!」

 携帯電話で現在時刻を確認する。午後三時二十一分。

 ここから学校まで、徒歩で三十分前後。あと一時間は余裕がある。

 九丹島ミナトは右手に持っていたシナモンチョコクレープを齧り、咀嚼した。



 左手を支点にし、レール式の鉄製門扉を跳び越える。夏休みの初日だけあって、どの部も活動していない。

 校舎を大回りし、グラウンドへと向かう。

 現在時刻、午後四時五十七分。

 四百メートルトラックの中心に、西日を受けた佐藤うずらの姿があった。

 観察する。佐藤うずらはサイズの大きい長袖の上着を着込んでいる。その両手には同型のクロスボウ。足元にも幾つかクロスボウが置かれている。

 視線が交錯する。

 互いに言うことはない。

 佐藤うずらが左手を上げる。

 リミッター解除。

 主観時間が限りなく引き延ばされる。

 発射音。

 射線上に九丹島ミナトの肉体はない。

 しかし、左へと大きく避ける。

 クロスボウを地面に置いている以上、佐藤うずらはその場から動かない。

 現在位置から佐藤うずらまで、左に弧を描く動線を設定する。

 動線の長さ、約十メートル。

 曲線であるため、五歩を必要とする。

 一歩目。

 佐藤うずらが左手のクロスボウを放り捨て、しゃがむ。

 同時に右手のクロスボウを、狙いもつけず引き絞る。

 発射音。

 当たらない。

 二歩目。

 佐藤うずらが両手でクロスボウを掴み、同時に構える。

 三歩目。

 二連続の発射音。

 左手のクロスボウは見当違いの方向へ。

 右手のクロスボウは、射線の先に九丹島ミナトの腹部がある。

 射出された矢を左手で掴み取り、そのまま投げ捨てる。

 四歩目。

 佐藤うずらが両手のクロスボウを放り捨てる。

 佐藤うずらの頭部を蹴るため、右脚を振り上げる。

 佐藤うずらの左袖から、手のひらに筒状の物体が落ちる。

 佐藤うずらが右手で筒状の物体のピンを抜く。

 スタングレネードと判断する。

 五歩目。

 佐藤うずらがスタングレネードをこちらへ放る。

 佐藤うずらを蹴るために振り上げた足を、スタングレネードへと叩きつける。

 スタングレネードが空き缶のように吹き飛ぶ。

 左脚を軸にした回転により佐藤うずらが視界から消える。

 左脚の筋力を最大値の約六十パーセントまで引き上げ、跳躍する。

 無理な体勢からの跳躍、距離は約二メートル。

 空中で半回転し、佐藤うずらの方向を向いて両足で着地する。

 佐藤うずらが立ち上がり、前傾姿勢を取っている。

 佐藤うずらの右袖から、ナイフが落ちる。

 佐藤うずらはそれを掴み、突進する。

 もう距離がない。

 半歩分体幹をずらす。

 佐藤うずらの肩が当たり、体勢が崩れる。

 佐藤うずらの背中が見える。

 佐藤うずらが肩越しにナイフの先をこちらへ向ける。

 気づく。

 スペツナズ・ナイフ。

 強力なスプリングで刀身の射出が可能。

 射出。

 射線上に胸部。

 身をよじる。

 避けられない。

 痛覚遮断。

 リミッター設定。

 主観時間が元に戻る。

 佐藤うずらがこちらを振り向く。

「びよよーん。うずらの勝ちみたいですね!」

 佐藤うずらの右手には、刀身を射出したスペツナズ・ナイフの柄がある。

「ちなみにスタングレネードは真っ赤な偽物、見た目だけ、ですよ。蹴った感じ、軽かったですよね? キューブさんなら、投げれば絶対反応してくれると思ったんです」

 ナイフの刀身が刺さったのは左肩である。貫通せず、刺さったままなのは、骨に当たったからだと考えられる。骨折も併発しているだろう。

 血液がじわりと染み出し、Tシャツを濡らす。

「ああ、いい作戦だった。うずらは将来有望だね」

 九月二日から七月二十三日まで、計四十六回の時間遡行を繰り返し、佐藤うずらはタイム・タイムに適応していると判断した。

 佐藤露草のように苦痛を感じてはいない。

 佐藤うずらの記憶を消すことが、すなわち佐藤うずらを助けることにはならない。

 勝負を反故にし、タイム・タイムを奪取するプランを破棄する。

 佐藤うずらがポシェットからタイム・タイムを取り出した。

「はい、キューブさん。受け取ってください」

「ああ」

 五分ほど遡行し、怪我をなかったことにしろ、という意図だと解釈する。

 タイム・タイムに手を伸ばす。

「──つッ」

 右腕を上げた途端、左肩に痛みが走った。

「キューブさん? 痛むのですか?」

「ああ、いや。痛覚を遮断してる──から──」

 じく。

 じく。

 じく。

 じく。

 痛む。

 痛い。

 痛い!

 痛いッ!

 演算回路が混乱をきたす。

 痛覚は遮断している。

 触覚、圧覚、温覚も同時に遮断する。

 左肩から先の神経信号ごと、すべて遮断する。

 左腕から一切の力が抜け、だらりと垂れ下がる。

「いたい」

「キューブ……さん?」

「いたいよ、うずら」

「なんで──どうして、涙を流すのです?」

 右手の人差し指で頬を拭う。

 濡れている。

 九丹島ミナトは泣いている。


 泣いている。




「みなと、へ。ねがいごと……です……ッ! もっと、自分を──たいせつにして、ね?」




 幻聴。

 幻覚。

 東尋坊あんことの約束を履行する必要はない。

 その約束は既になかったことになった。

 制約も既に解除されている。


 なら、どうして左肩は痛む?


 スペツナズ・ナイフの刀身は、何に刺さった?


 九丹島ミナトは、何故、涙を流す?


 とぷん。


 水面が遠ざかっていく。


 大小さまざまな不揃いの歯車が揺蕩う、赤い、赤い、歯車の海。


 そのなかに、真新しいピカピカの歯車を見つけた。


 手を伸ばす。


 手はなかった。


 九丹島ミナトはただの立方体に過ぎないから。


 それでも。


 それでも、触れたいと思ったのではなかったか。


 憧れたのではなかったか。


 父さんに。


 お爺ちゃんに。


 絵本の向こうの母さんに。


 初めての友達あんこに。


 人間に。


 なりたかった。


 なりたかったんだ。




 ──俺は。




 その瞬間、すべての歯車が立方体おれを包んだ。


 歯車が、四肢を、胴体を、頭部を構築する。


 そして、最初に触れようとした真新しい歯車を、右手で掴み取った。


 欠けていた歯車。


 心臓に──立方体キューブの上に、埋め込んだ。




 制約4「自分を大切にしなければならない」




《制約設定》




 すう、と。

 息を吸い込んだ。

 左肩がじくじくと痛む。

 またやってしまった。

 あんこ、怒るだろうなあ。

「あー……」

 しかも、これだけの傷となれば、数週間の入院は覚悟しなければならない。

 夏休みの予定はすべてパーだ。

 予定していたバイト先にも謝らなければならないし、海にだって行けない。

「やっちゃった……」

 しかし、今それを嘆いても仕方がない。

 目の前に差し出されていたタイム・タイムを受け取る。

「キューブさん? 大丈夫、ですか?」

「ああ、大丈夫だ。なんか、目にゴミが入ったとか、そんな感じで」

 あいまいに誤魔化す。

 嘘をつけないと、こういうときに苦労する。

「……? ま、いいです。じゃあ約束通り、うずらの言うことをひとつ聞いてください」

「構わない。でもその前に、こんなゲームはどうだ?」

「ゲーム──ですか?」

 うずらが小首をかしげる。

「うずらの頼みごとを当てることができれば、こちらの勝ち。外せばうずらの勝ち。勝ったほうは相手に、なんでもひとつ言うことを聞いてもらえる。うずらが勝てば、勝者の権利がもうひとつ、というわけだ」

「……ふうん、面白いですね。キューブさんにはこれからお世話になりますし、乗ってあげてもいいです。でも、当てるの不可能だと思いますよ? 世界でひとりだけ、キューブさんにだけは、絶対に」

 よし、通った。

 うずらは油断している。

 制約1は、キューブ時の約束にも有効だ。

 まず、これを引っ繰り返さなければならない。

「では、お答えください」

 うずらが、挑発するように両腕を開いた。

「ああ、そうだな。俺の推測が正しければ──」

 うずらの笑顔が違和感に歪む。

「──おれ?」

 だが、もう遅い。


「うずらの頼みごとは、自分の記憶を消してくれ──だ」


「……──っ」

 うずらが息を呑む。

「どうだ? 当たってるだろ」

「キューブさん──じゃ、ない……?」

「ああ。キューブには人の心がわからない。不合理を認められない。最適解を選ばなかったうずらの気持ちなんて、理解することはなかっただろうな」

 左肩の痛みに気が遠くなる。

 今の俺は、キューブと同じように、この肉体を完璧に操縦することができる。

 けれど、痛覚の遮断はしなかった。

「いつでもいい、助けを乞えばよかった。俺でも、キューブでも、とにかく九丹島ミナトに。九丹島ミナトは原則的に、助けを求められればそれを拒めない。お前にとっての最適解は、それだよ。こんな舞台を用意する必要はなかった。勝っても負けても目的を達成できるよう、小細工を弄する必要もなかった。ただ、目の前にあるロープを掴むだけで、お前は救われたんだ」

 うずらがスペツナズ・ナイフの柄を取り落とす。

「結局のところ、お前は信じることができなかった。俺だけではなく、あの自動的なキューブさえ、言葉で縛らなければ安心できなかったんだ」

「──って、……か」

 うずらがか細い声で呟く。

「信じるって、なんですか」

 うずらの声には、抑揚がなかった。

「助けを求めて、相手に依存し、自分はなにもしないことですか? 自分の未来を相手に丸投げすることですか? 思考を停止することですか?」

「──…………」

「信じられるわけがないじゃないですか。あなたにとってうずらが、どれだけの存在だと言うんです? 覚えていなかったじゃないですか。忘れていたじゃないですか。うずらは覚えていたのに。忘れたことなんてなかったのに。H大附属図書館で、必死になってあなたを助けたのは、うずらなのに。うずらが助けたことも知らず、のうのうと生きているあなたが憎らしかった。あなたを危険に晒して、それを助けて、うずらに気づいてほしかった。うずらのことを見てほしかった。けど、少々の危険くらいなら、あなたたちは跳ね除けてしまう。だから思った。殺したほうが早いなって。一度殺して、それをなかったことにして、うずらがヒントを出せばいいんだって」

 うずらが、俺を、まっすぐに見つめている。

 その瞳はどこか、タイム・タイムの使用者権限を失う前の露草に似ていた。

「永久寺さんを殺したとき、なにも感じませんでした。あなたを初めて殺したとき、なにも感じないことに驚きました。ブログのファンをけしかけて、あなたは何度も死にました。あんこさんも狸小路さんも死にました。それでも、なにも感じませんでした。ただ、ぼんやりと思ったのです。うずらはもう、あなたに助けてはもらえないんだって」

 うずらが、震える唇を無理に動かし、口角を上げた。

 西日に照らされた瞳が赤く光る。

「うずらがタイム・タイムに順応していると思いましたか? 手足のように操っていると思いましたか? そう思ってくれたなら、うずらの勝ちです。ほんとはおねえちゃんと同じですから。もう耐えられない──じゃ、ないです。とっくに耐えられませんでした。ここのネジ、飛んでます。壊れてます。狂いました。ずれました。世界が遠いです。あなたが遠いです。涙、流れません。気づいてました? 図書室で嘘泣きしたとき、涙が出なくて焦ってたんです。うずらはもう、自分の記憶を消すためだけに動く、人形です」

 人形。

 うずらは、自分のことを、そう表現した。

 でも、人形はそんな顔をしない。

 そんな辛そうに、必死で、笑顔を浮かべたりはしないよ。

「でも、タイム・タイムには、ある問題がありました。自分で自分の記憶を消すことができないんです。記憶を消すためには二名以上の使用者が必要です。それはつまり、必ず一人はタイム・タイムの使用者でなければならない、ということ。決して逃れられないということ。逃れる方法があるとすれば、また新しく使用者を登録し、その人に消してもらうか──自殺するか、です」

「うずら。だからお前は、キューブを呼び出した。タイム・タイムは人間には重すぎる。だから、人間ではない──心のないキューブに、タイム・タイムを託そうとした」

「そうです。それが……すべてです」

 タイム・タイムを、垂れてきた血で汚れた左手に持ち替える。


「う──ずらは、優しいな……」

 そして、右手でうずらの頭を撫でた。

「──え?」

 うずらが軽く驚き、両手で俺の腕に触れた。

「だって、そうだろう? うずらの記憶は消えるんだから、タイム・タイムの使用者が誰になろうと関係ない。誰が苦しんでも、誰が壊れても、誰が狂ったとしても、知ったことではないはずだ。だが、うずらは探した。苦しみながら。壊れながら。狂いながら。探して──そして、探し当てた。誰も傷つかない方法を。最善の方法を。だから──」

 すこしだけ膝を曲げ、うずらと目の高さを合わせた。

「よくやった、うずら。本当に、よくやったよ」

 そう言って、すこし乱暴に頭を撫でた。

 うずらは息を呑み、

「──……あ、は……」

 すこしだけ、身震いをした。

 そして、行き場のない感情が溢れ出したように、

「くたじま、さん」

 一滴だけ、涙をこぼした。

 涙と、その言葉を。


「たすけて……」


 原則一「人を助けること」


「ああ。最初からそのつもりだ」


 タイム・タイムを見つめる。

 中身の見えない、ねじれた砂時計。

 常に誰かを捕らえて離さない、悪魔の道具。

 その利便性のために、壊すこともままならない。

 悪魔の囁きは、どんな愛よりも甘いのだから。

「だけど、うずら。俺たちは償わなければならない」

「……つぐなう?」

「あんこに。

 お嬢に。

 八尺に。

 大吉に。

 露草に。

 星羅に。

 クソオヤジに。

 エロジジイに。

 桜田に。

 トンデモ教師に。

 都築に。

 多田野に。

 入鹿に。

 笹島に。

 空手部員たちに。

 田淵医師に。

 痩せぎすに。

 ジュンジに。

 ボウイチに。

 すべての人に。

 俺たちは、世界を殺したんだから」

 うずらが戸惑うような表情を浮かべる。

「でも、それは」

「すべて、なかったことになった。これからまた、同じように過ごせばいい。だが──」

 俺は、自分の胸を掴んだ。

「生まれた赤ん坊が双子なら、片方を殺しても許されるのか?」

「それ、は……」

「俺はッ!」

 思いきり、歯を食いしばる。

 胸に指が食い込む。

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 だけど、それ以上に──

「──俺は、つらい。俺は苦しい。あの日々を消してしまったことが。あんこと約束をしたことも、お嬢が宝石を売る決心をしたことも、大吉と一緒にバイトをしたことも、八尺にオタク向けショップに連れて行かれたことも、露草が好きだと言ってくれたことも、星羅と妙な出会いをしたことも、すべて。すべて消えた。すべて失われた。最初からなかったことになった。それが、たまらなく、痛いよ」

「──…………」

「だから、許さない。

 俺はお前を許さない。

 俺は俺自身を許さない。

 俺は、タイム・タイムを許さない」

「──ッ! くたじまさん!?」

 うずらが俺の意図に気づく。

 地面は土だ。適さない。

 ここから三十メートルほど離れた地点に武道場の壁がある。

 コンクリート製だ。適する。

 一塁からホームベースほどの距離だ。

 問題はないだろう。

「うずら、勝者の権利だ」

 リミッター解除。

 タイム・タイムを右手に持ち替えて、思いきり振りかぶる。

「お前の頼みごとと相殺だ」

 ぎり、と。

 肉体が限界を訴えたところで止まる。

「お前の!」

 全身の筋力を最大値の九十パーセントまで引き上げる。

「記憶は──」

 そして俺は、

 タイム・タイムを、


「──消させないッ!」


 ぶん投げた。




 なまぬるい風が吹く。

「……──くたじまさん」

 グラウンドに座り込み、しばらく放心していたうずらが、口を開いた。

 視線の先には、赤い液体がぶちまけられた武道場の壁がある。

 タイム・タイムは、これ以上ないほどに破壊された。

「くたじまさんは、大馬鹿者ですね」

「ああ、知ってる」

 よく言われる。

「でも俺は、賢い機械より、愚かな人間でありたい」

 うずらがこちらを振り向く。

「助けてくれるんじゃ、なかったんですか?」

 その瞳に感情はなく、ただ俺の行為への疑問だけが浮かんでいた。

「ああ、助ける」

 俺はうずらに右手を差し出した。

「これから助ける。ずっと、助け続ける。……実のところ、キューブでなくなった俺ひとりでは、重すぎてとても背負いきれそうになかったんだ」

 俺は、ひとりではなにもできないから。

 ひとりではなにもできない、人間だから。

「──でも、俺たちは共犯者だ。ひとりでは背負いきれないものでも、ふたりなら背負えそうだと思わないか?」

 俺は、にやりと笑みを浮かべてみせた。

「──…………」

 うずらの手のひらが、俺の右手に重ねられる。

 引き起こそうと力を篭めて──


 びき。


「うッ!」

 全身の筋肉が引き攣り、バタリとその場に倒れ込んだ。

「──くたじまさんっ!?」

「う、うずら……、救急車たのむ……」

「は、はいっ!」

 うずらがポケットから携帯電話を取り出した。

 タイム・タイムを投擲する際、リミッターを解除して、筋力を限界ぎりぎりまで引き上げたのが悪かったらしい。たぶん百五十キロくらい出たし。

 とは言え、タイム・タイムがどの程度の耐久力を持っているのか、あの時点ではわからなかったからな。

 全身の筋肉痛と引き換えならば、そう悪くはあるまい。

 あと五パーセント引き上げていれば、筋断裂もありえたな……。

 制約4に抵触しなくて、本当によかった。

 新しく手に入れた制約と技能だ。

 いずれも習熟が必要と言える。

「は、あの、はい! 神徳中学のグラウンドで──」

 うずらが慌てながら救急車を呼ぶ姿を見て、俺は口元をほころばせた。

 大丈夫。

 きっと、

 俺も、

 お前も、

 大丈夫だよ。


 目を閉じる。


 そのまま、吸い込まれるように、俺の意識は沈んでいった。

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