18-八月三十一日(水)

 状況を把握する。

 九丹島家の居間である。九丹島ミナトはソファに横になっている。

 口内に異物。

 右手に持っていた茶色い半円形の物体から、九丹島ミナトが好ましいと設定した煎餅だと理解する。

 咀嚼し、飲み込む。

 足を下ろし、立ち上がる。

「んー? どしたのミナトちゃん、トイレ?」

 同様の姿勢でテレビを観賞している九丹島大和が質問する。

「【ちょっとコンビニに行ってこようかと思ってさ】」

 九丹島大和がこちらを振り向く。

「えっ! ミナトちゃんの好きな番組だよ? 見ないの?」

「ハハ。【なんか、どうしてもセブンのサンドイッチが食べたくなって】。僕にだって急に小腹がすくことくらい──」

「僕? あ、キューブに切り替わったんだ。久々だねえ。そうならそうと早く言ってよ」

 九丹島大和の表情が弛緩する。

「ああ、ごめん父さん」

「うわ! 父さんなんて呼ばれたの何年ぶりかね。うわーなんかぞわぞわする」

「ハハ。じゃあ、オヤジ」

「そっちのが落ち着いてしまうあたり、ミナトちゃんはスレてしまったんだねえ」

 九丹島大和は、そう言って、湯呑みに口をつけた。

「なんで切り替わったのかは知らないけどさ、危ないことだけは勘弁してよね。ミナトちゃんが怪我するたびに、こっちはヒヤヒヤなんだから」

「ハハ、大丈夫だよ。もう制約はないんだ。今の僕を傷つけられる状況なんてそうはないし、そもそも危険な真似をするつもりもない。うまくやるよ」

「いやーどうかなー。だってミナトちゃん、どうせすぐ元に戻るよ。賭けてもいいぜ」

「どうして?」

「カンタンな話だよ。だってミナトちゃんは、人間が好きだもの」

「ハハ、そうかな」

「人間が好きで、人間に憧れて、人間のふりをした。最初はうそっこかもしれない。演技かもしれない。でも、そうやって振る舞ううちに、だんだんそうなっていくもんさ。ピノッキオみたいにね。だからせいぜい、ハナを隠しなさいな」

「そういうものかな」

「そ。まー父親としては、人間だろうが機械だろうがどっちだっていいんだけど。ミナトちゃんがそこそこ健康で、怪我もせず、女の子たちとうはうはやってれば──いやそれはちょっと腹立つな。ミナトちゃんこれでいてモテやがるからな!」

「まあ、そこそこね」

「持てる者の余裕ですもの! ……ま、言いたいのはそのくらいかな。やりたいようにやりなよ。僕はテレビ見てるから」

「ああ。行ってきます」

「いってらっしゃー」

 九丹島大和がテレビ鑑賞に戻る。

 九丹島ミナトは玄関へと向かった。




▼ Continued...

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