第28話 喫茶店の窓辺で

新宿のとある喫茶店に入った。

お客さんとの打ち合わせまで時間があり、暇を潰すためだ。


大通りに面したその喫茶店の窓辺の席に着く。テーブルには350円のアイスコーヒー。

新宿は国内一利用者の多い駅だ。制服の人、私服の人、スーツ人の私は、コーヒー片手に道行く人を見ていた。何ともなしにぼおっと見ていたが、目の付け所によっては中々面白い。


多くの人がただ普通に目の前を通り過ぎていく。大きなガラスを隔ててじっと見ているが、目が合うのは稀だ。行き交う人々にとって、用のない喫茶店の窓ガラスなんてものは、ほとんど壁に等しいことだろう。


私は壁の中に埋まって目だけ出して観察するような妄想を始める。面白さが一段増した。


ただ歩いている人も、これだけ数がいると様子は様々だ。ゆっくりとしたペースで歩く人は私服の人が多い。スーツの人は気持ちキビキビとして見えた。スマホ片手に歩く人。地図でも見ているのかな。あれ、少し変わった挙動の人がいる、と思ったら外国人の集団で、あのキョロキョロ具合は道を探しているらしい。


行動する人数でも違いが出てくる。上司と部活の二人連れの場合、年若い方はだいたい上司のほんの少しだけ後ろを歩いている傾向がある。ほんの少し、というのがミソだ。よく見なければ分からないくらいの差しかない。


おや、曇り空に晴れ間が差した。

思わず空を見上げる風流な人はごく僅かだ。私も中から観察していなければ目を向けることはしなかったハズだ。


ビル風が強く吹き付ける。

髪を押さえる人、吹きさらしのまま顔だけしかめる人、吹きやんでから手櫛を入れる人、これも様々だ。


こうして観察していると、人それぞれ違っていて、そしてちゃんと生きているんだなと思う。

満員電車に乗ってスマホを弄っていると、周りの人間は人の形をした障害物にしか見えなくなる。電車内の空感を圧迫するだけの物、通勤の行き帰りで増えたり減ったりする邪魔なオブジェクトだ。


腕時計をチラリ、そろそろ良い時間だ。

私も、行き交う人の1人になる時間だ。

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