第24話 赤と黒の伝説を履いて

 とあるスニーカーがある。

 とあるスポーツ選手が流行らせたスニーカーだ。

 そいつの見た目は赤と黒。デザインはシンプルで王道。

 奇抜な形じゃないが、つまりそれは洗練されているってことだ。


 ファッションっていうのは自分が満足するための表現だ。

 だからこのスニーカーを見てダサいって言う奴が居ることも知っている。俺の周りには一人もいないが、世界中探したら必ず一人くらいはいるはずだ。だから逆に、わざわざ探さないといけないわけだ。それくらい強烈にこのスニーカーは「かっこいい」物として認知されているわけだ。


 憧れだった。

 俺の好きな漫画の主人公が履いていたスニーカーだ。

 その時に、このスニーカーのことを知った。

「へー、かっこいいじゃん」って、そう思ったような気がする。

 大学生になってバイトを始めて、服だの靴だのに気を付けだして、それから思い出したように、あのスニーカーを買おうと思った。


 プレミア価格の20万オーバー。

 嘘だろ。高すぎだろ。スニーカーだろ? 馬鹿らしくなって、すぐ買える白いスニーカーを買った。その白いスニーカーもかっこ良かった。白スニーカーは何にでも合わせやすい。ハイカットのゴツイこいつは、スポーツ系の服好きなら誰でも知っている有名スニーカーで、「お、いいじゃん」って友達に褒められた。でも、そう、赤と黒の影が、脳裏にちらついていたのも覚えている。


 社会人になった俺は、しばらくファッションへの熱が冷めていた。

 まあ、そういうもんじゃない? と思う。

 平日はスーツだし、土日くらいしか私服なんて着ないし、でも、相変わらずあのスニーカーは欲しかった。


 とある日、俺がよく見ているアプリに一つの告知があった。

 スニーカーの先行販売アプリから、赤と黒のあいつがまた販売されるって情報がやってきた。何度も何度も夢見たスニーカー。スマホの画面に映る俺の憧れは、やっぱり今見てもかっこよかった。


 当然、抽選に応募する。

 当たるかな。いや、当たってくれ。

 倍率どれくらいだ? 千人に一人とかでもおかしくないレベルのはずだ。


 抽選完了、ドキドキしてきた。

 スマホに通知、メールを開く。

 当選? 落選?

 画面に手を伏せて心の準備……。

 よし、見るぞ。いくぞ、当たっててくれよ!

 俺に伝説を履かせてくれ。


 画面を見て、俺は思わず唸ったのだった。

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