第23話 美化フィルター
人は常にフィルターをかけたまま生きている。僕もそうだ。
例えば、リンゴと聞けば赤いリンゴを思い浮かべる人が多いと思う。この場合はフィルターというよりイメージの方がしっくりくるか。多くの事柄の、こうあるべき、というイメージだ。
わざわざフィルターと表現したのには理由がある。
「子供」と聞いたら何を連想するだろうか。
無邪気、元気、可愛い……つまり子供っぽいものを想像すると思う。当然だ。ポジティブイメージの抜き出しだが、世間が求める子供のイメージというのは純真無垢、汚れなき真っ白の天使のようなもの、守るべきもの、真っ先に保護する対象……ってな感じだろう。
この子供フィルターが最近、僕の中で覆されつつある。娘が4歳になり、つまり4年を共に過ごしたわけだが、フィルターの厚みは時間が経つごとに薄くなるばかりだ。
子供は案外、人見知りする。
その子の性格にもよるだろうが、うちの子は意外と引っ込み思案だ。会社の後輩が家に遊びにきた時うちの子を相手してくれたが、初対面から30分は無言のまま様子見していた。後輩が話しかけても一人遊びして無視するのだ。
しばらくして慣れてきたのかと思ったら、急にニコニコして一緒に遊びだす。うちの娘のお気に入りは「魚釣りゲーム」
新聞紙で作った釣竿を机の上から投げ出し、そこに人が食いついたら吊り上げるというシンプルな遊び。後輩の子供好きも手伝ってか、娘は大喜びしていた。
娘いわく、マグロは釣れるけど、くじらは釣れないらしい。
大きすぎて一人じゃ難しいのだそうだ。
マグロも大概無理だと思うが、この前テレビでやっていた大間のマグロ一本釣りに影響されたんだろうか。段ボールで作った輪っかをしきりに後輩へ投げつける。何をしているのか聞くと「電気ショック」なのだと。意外とリアリティを持って釣りをしている。
この「魚釣りゲーム」に終わりはない。
いつまでもいつまでもきゃあきゃあはしゃいで竿をブンブン振り回す。
子供って一度気に入ると延々とそれをやり続けるのだ。
後輩が粘り強い奴で助かった。合計30匹くらい釣り上げられていたんじゃないだろうか。
子供は不思議な生き物だ。
僕がこれくらいの頃は、どんなふうに過ごしていただろうか。
僕が子供の時も、父や母はフィルターを感じていたのか。
子供は元気で無邪気で、しつこくて、意外と臆病で、妙なものに惹かれ、思っているよりずっと現実的だったりする。大人はフィルターを通して世界を見るが、子供はまだフィルターが出来ていない。いい物も悪い物も、構わず吸い込んでしまうだろう。
……そして気付いたら、いつの間にかフィルターが出来ていて、子供を卒業しているんだろうな。
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