第20話 神の手の一服

天才外科医の俺が闇医者に堕ちたのには理由がある。まあ色んな理由があるわけだが一言で言うと「面倒」だったからだ。


デカい大学病院であらゆる手術を経験すること5年、ドレッドノート級に天才だった俺は解き方を知らないパズルもとい手術でも何となくやり方が分かるようになった。あらゆる道は通じてんだ。シンプルな話だ。血が出たら止める、悪いところは切る、足りないところは持ってくる……というふうにやることやれば人は生きられる。


その頃からだ。

手術以外の仕事は面倒になった。

報告、連絡、相談。そういうのがどんどん億劫になって雑になって、ついには無くなった。


とある激ムズのパズルがやってきた時だ。10分以内にそのパズルを解かないと死ぬって言うようなレベルのやつだった。俺は1分残して解き切った。あれは美しい時間だった。感動的な手際と発想の冴え、人の開きから見える赤々した中身と、入るべき場所にきちんと詰め込まれた内蔵パーツたち。そこで俺は残った1分で煙草を吹かしてしまったんだ。我ながら馬鹿げているとは思ったが、いやもう、おかしくなってたんだろうな。手術室で煙草って、どうやって持ち込んだんだっていうか何吸ってんだとかそりゃもう騒ぎになった。そんで首になった。それからコネの縁があって闇医者になった。


外科手術ってのは最後の砦だ。薬とかでどうにもなんなかったら開いて直す。治すっていう字は相応しいとは思わない。直す、機械的に、正しい状態にする行為こそが体を開けてやる手術だ。そもそも俺には向いてなかったんだ。勤務って体制がもう無理。俺は起きてる間ずっとパズルを解いている。まぶたが勝手に落ちてくると止まる。そしてまたパズルを解き始める。一応そこそこ休みもある。腕時計を集めるのが趣味だ。何百万もするブレゲのムーンフェイズをバラして組み上げるってのは手先が器用になって仕事にも繋がる。ま、すでにめっちゃ器用だがな。


ちゃっちゃちゃっちゃほい!

チャカチャカちゃっかホイ!

いっちょ上がり! ほら、また1人救った。

そんで神の手が胸ポケットに伸びる。そうそうこれこれ、務め人を辞めて闇医者やって1番良かったのは、対外的に言えば……命を救った後の一服は超美味いってところだな。

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