第18話 又聞きの戦争

 母の父は、つまり祖父は兵役の経験者だった。

 祖父は俺が生まれる前に肺癌で亡くなった。俺は祖父によく似ているらしい。祖父の命日と俺の誕生日が同じなのもあり親近感があった。


 これは母が祖父から聞いた戦争の話を、改めて俺が聞いた話だ。

又聞きなので情報量はうんと落ちているだろう。

 色々なことを聞いたが、祖父が死んだふりで生き残った話が一番好きだった。


 特にオチのあるエピソードではないが

「死体が転がってるところに紛れたんやってさ」と、ただそれだけ語る母の口振りが、生の戦争を聞けた気がして好きだった。


 祖父の話し方は偉そうでもなく、恥じるでもなく、心の程は読めなかったと母は言っていた。


 死んだふりして生き残ったなんて、言わば戦犯なわけだが、きっと多くの人が同じことをしていたのだろうと思う。礎となった英霊達の傍ら、そうやって命を繋いだ者もいる。それについてとやかくは言わない。ただ、祖父のエピソードが好きだというだけの話だ。


 戦争から帰ってきた祖父はガリガリに痩せて幽霊のようだったらしい。戦争が終わり自由になり、着の身着のままで帰ってきた祖父の臭いは酷かった、と祖母から聞いた話を母が俺に話した。


 大した話じゃないが、これで終わりだ。細々したことはたくさんあるが、とても断片的で話せる程のこともない。


 賛否両論だろうが、俺としてもちろん祖父の味方だ。祖父が生きていなければ俺は生まれていないわけで、祖父と話したこともないのに、何故だか祖父のことが好きだ。


 装飾もなにもない、たぶんほとんど抜け落ちている。又聞きの戦争の話だ。


 

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