第16話 跳ぶか眠るか

 寝る前、よく妄想をする。

 色んなことを頭の中で描くが、最近はごく短いアクションが多い。


 僕の目の前には崖がある。崖の向こう岸にも崖がある。

 谷底は真っ暗で底が見えないほど深い。


 僕は何かに追われている。

 とんでもない強敵に、それも大群で、猛烈な速さで。


 僕はスピードには自信があった、ジャンプも大の得意だ。

 だったらどうする? 決まってる。飛び越える。

 

 そう決めたら心臓が跳ね上がる。緊張と、期待、武者震い。

 飛べるか、飛べないか、この谷底は生死のボーダーライン。


 一度だけ止まる、後ろを見る。猶予はない。走り出す!

 一歩、一歩! そのまた次の一歩で崖が近づく、死が迫る。


 目の前の谷底が大口開けた鬼に見える。身がすくむ。でも飛ぶ。

 筋肉が爆発するような踏み込み、利き足で完璧に踏み切った。


 一分の隙も無く、完璧なパフォーマンス。

 これで飛べなきゃ嘘だっていうような大ジャンプ。


 顔に風が、肩が風を突っ切る。手が足が全身が、風を引き裂き宙をいく。

 矢のように俺の体がいく。ぐんぐん迫る向こう岸、もう、すぐそこ。


 あぁ……。その辺で……。

 そうそう、眠くなってきて、昨日もそうだった。

 飛べるんだっけ……?

 そうして眠りに落ちていく。

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