私は私、貴方も私

文屋旅人

私は私、貴方も私

 ある日起きたら自分が増えていた。

 いや、増えていたのはいい。よくはないが、まぁ人間だから増えることもあるだろう。

 問題は、増えた私のどちらが私か、そこである。

「ふむ、私は君と全く同じ記憶を持っているね」

「すり合わせた結果、そうだね」

 二時間ほど、互いに知っていることを語り合って、ほぼ確実に全く同じ記憶を持っていると確信してしまった。

「おかーさん、おとーさん。どっちが私だと思う?」

「んー? どっちもあんたでしょう? 見た目一緒じゃないの」

「はっはっは、子供が増えたなめでたいことだ」

 とりあえず両親に頼ってみたが、ダメだ。どっちも見た目が一緒だし、母親と父親に対する反応すら一緒だから結局二人とも私になった。

 両親はなんとも大雑把だな、と思いながらふっと考えてみる。

「昨日までいた私と今ここにいる私は記憶を引き継いでいるから同じだね、即ち貴方が偽物だ」

「それは私の方もそうなんだよ。だから、私からしたらあなたの方が偽物にしか思えない」

 まずい……答えが出ない。

 どうしようかと思い、とりあえず近所にいる大学教授のところに行ってみた。

 とりあえず頭のいい人に聞いてみよう、権威主義的だがそれがいいと思った。

「かくかくしかじか、ということなのです」

「踏む、理解した。即ち君たちは今どちらが本物かということで悩んでいるんだね」

 優し気な大学教授はそう語りかけました。

「はい、そうです」

 すると、大学教授はにっこりとして言いました。

「ならば、右の君が本物であるというテーゼと左の君が本物であるというアンチテーゼを合一化させるのです」

 なんかいきなり横文字が躍り出てきた。

「弁証法的に考えるのです。どちらかが本物、というテーゼ二つを合一化させて高みに上る、即ち……」

 教授はドングリのような眼で、私たちをじーっと見つめた後、吐き出すように言いました。



「どちらも本物であるとして、妥協しなさい」


 結局、私二人はともに今までの私と同一になり、みんなからα、βで区別されることになった。

 何というか、よくわからないがけむに巻かれたような気分だ。



          了

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私は私、貴方も私 文屋旅人 @Tabito-Funnya

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