第6話 見回り(随伴) 後編

 家を出た奈美と七恵は、先ほど峰さんが言っていた公園に向かう。その道中で奈美が手持ち無沙汰なのを見て、七恵が話題を切り出す。


 「ねぇ、この仕事始めたら組合の方にもちょくちょく顔を出さないといけないんだけど」


 「うん」


 「周りの人がジジババしかいないからきっと奈美は可愛がられると思うわよ」


 「えー、同年代の人とかいないの?」


 「私の知る限りではいないわね」


 「えー……」


 ここで、奈美が七恵の得物について質問を始める。


 「ねぇ、腰のその刀なんだけど」


 「あぁ、これ? これね、脇差っていうのよ」


 「……その脇差ってさ、どうしてそれにしたの? 刀の方が使いやすそうなのに」


 「うーん、この年になるとなかなか重いものが持てなくてね……」


 「ふーん……」


 そうこうしているうちに例の公園にたどり着く。


 「ここね、反応があったのは」


 「そうらしいけど……」


 反応があった、それ以外の情報がない。それどころか、それらしき姿も見えない。


 「まぁ、待ってれば来るから」


 「そういうものなのかな……」


 公園のベンチに座ったりして、時間を潰している。すると突然、滑り台辺りの空間がぐにゃりと歪み始めた。


 「あ、来た」


 「え、どこ?」


 「ほら、あそこ」


 七恵が先に気づいていたようで、奈美に指さした方を見せた。歪んだ空間からは、四足ではあるが、顔が人面の奇怪な「獣」が出現した。


 「うぅわ……」


 その「獣」は、こちらを確認するやいなや、まっすぐに突進してくる。


 「え、ちょ……!」


 奈美が反応するよりはるか前に、七恵が動き出す。七恵は鞘から刀身を引き抜くと、逆手に持ち変える。そして、前に大きく踏み出し、突進してきた「獣」の眉間に勢いよく脇差を突き立てる。「獣」は苦悶の表情を浮かべているが、七恵は気にすることもなく、脇差を深々と突き刺す。


 「奈美、辛ければ見なくてもいいのよ」


 七恵は「獣」の方を向きながら、奈美に言葉を投げかける。辛ければ見なくてもいいと言われたが、これから仕事を受け継ぐのだ。眼前の事実を受け入れなければ仕事は務まらないだろう。奈美はしっかりと、「獣」の姿を目に焼き付ける。


 やがて、脇差を引き抜くと、「獣」は糸の切れた人形のように地面に伏した。


 「これが、見回りの仕事。まぁ、実際相手にするのは少ないんだけどね」


 「ふーん……」


 奈美は平静を装っていたが、声は若干震えていた。


 「今日は七時くらいまでかかるから、怖くなったら家に帰っていいからね」


 「……一人で?」


 「あぁ、守らなきゃいけないんだった」


 七恵は笑いながら会話している。だが、奈美にとっては目の前の「獣」がこちらの命を奪おうとしていたことに恐怖を覚えていた。もし力がなかったらどうなっていただろう。考えるだけで背筋が凍りつく思いだった。


 その後、午後七時まで何事もなく、無事に家に帰ることができた。

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食人鬼の作法 菅野圭 @kannokei

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