第5話 見回り(随伴) 前編
翌日、奈美の症状は回復していた。学校に行くのも支障が無くなったようだ。
「じゃあ、行ってきまーす」
「あぁ、奈美、ちょっと待って」
「ん? なに?」
奈美は七恵の方を見て、気の抜けたような返事をする。
「今日の夕方、見回りに奈美を連れていきたいから、今日はまっすぐ帰ってきてほしいんだけど……」
「え、今日? んー、いいよ」
「ありがとう。夕方五時辺りから行くから、それに間に合うようにね」
「はぁい」
奈美は玄関の扉を開けて、学校に向かう。
帰ってくるのはけっこう早かった。午後四時には家に帰ってきたのだ。
「ただいまー」
「おかえりなさい。割と早かったわね」
「うん、特になんもないし」
奈美は時間を持て余しているので、物置の刀を取り出し素振りを始める。最初に比べたらずいぶんと様になったようだ。
素振りを続けていると、家の前に人がやってくるのが見えた。
「こんにちはー」
「こ、こんにちは」
相手は奈美の方に気づくと、やや間延びした挨拶をした。対する奈美はというと、緊張したような感じだ。おそらくこの人が七恵の言っていた組合の人だろう。腕章をして腰に短剣のようなものを差しているのを、奈美は見逃さなかった。
組合の人がチャイムを鳴らすと、ほどなくして七恵が扉を開ける。
「あぁ、峰さん、どうしたの」
「えぇとね、座内さん、今日、座内さんが当番でしょ? 山内さんの家の近くにある公園で強めの反応が出たの。だから、今日はそこの公園を中心に見回りしてほしいんだけど、できるかしら?」
「あぁ、それなら大丈夫よ。あとね、ひとつだけ言っていい?」
「はいはい?」
七恵が奈美の方を向いて、峰さんの目線を促す。
「あそこにいるの、うちの娘なんだけど、娘も一緒に連れていきたいなぁって思ってるのよ」
「あ、あぁー! あの子が前言ってた娘さんなのね! この仕事してくれるの?」
「そうね、将来的には継がせたいから、社会見学みたいなものよ」
「そうなのぉー。 まぁ、連れて行ってもいいけど、ちゃんと守ってあげてね」
「そんなの百も承知よ」
七恵と峰さんが会話しているのを聞いて、奈美は素振りを続けようか迷った。なにしろ自分のことが話題に出ているのだ。なにか話さないと失礼だろうか、と変な考えまで出てしまう。親とその友人の会話に挟まるほど、気まずいものもないのだ。
「じゃあ、よろしく頼むわね」
「はいはい、峰さんも気を付けてね」
ようやく会話が終わったようで、峰さんの背中を見送る。そろそろ日が傾きかけてきて、町の色は郷愁を感じさせるものになっていた。
「じゃあ、早いけどそろそろ行く?」
「うん」
「その刀は置いていきなさいね、持っていこうとしたでしょ」
「うっ……」
なにか手伝えることは無いかと刀を持っていくつもりだったが、七恵の一言により刀は置いていくことにした。
時刻は午後四時三十七分。奈美はここで初めて、七恵の仕事ぶりを目の当たりにするのである。
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