今、どこにいますか?


「今、どこにいますか?」

 回線の繋がっていない使われなくなった黒電話に話しかけるのが私の遊びだった。

 相手のいない電話の先で私は自分の中で声を聞いた。

「今、どこにいますか?」

『今、お家にいます』

「今、どこにいますか?」

『今、日本にいます』

「今、どこにいますか?」

『今、地球にいます』

「今、どこにいますか?」

『今、宇宙にいます』

 毎回、大雑把で突拍子の無い場所を答えていた。

 今は持ち合わせていない子どもの想像力がうらやましい。

 そのとき電話がかかってきた。

『今、どこにいますか?』

 子どもの声だ。

 間違い電話かな?

「今、お家にいます」

 思わず答えてしまった。

 その後、何もなく電話はツー、ツーと音を立てて切れてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『私』シリーズ  シイカ @shiita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ