帰還。私を待っていたもの。
2121年10月8日。
私はこの日、21年ぶりに地球へ帰還した。
20歳で夢を追い求め、故郷の地球を離れ広大な
見た目はたいして変わっていないが地球での私は41歳ということになっている。
私の両親は私が20歳のときに事故で亡くなった。
そのとき、私は何かから解放された気がした。
そして、宇宙へ行くことを決意した。
両親が亡くなり、全ての手続きを済ませてからすぐに出発した。
宇宙には感動がたくさんあった。
技術が進んでも進んでも追いつけないほどのスピードで宇宙も成長していく、それでも人間は宇宙に食らいついていく。
その姿を肌で体感した。
宇宙に骨を沈めても良かった。
しかし、私は地球への帰還を選んだ。
ある日、私は夢を見た。
宇宙に漂う私は光を見つけ、その神々しい輝きに惹かれ泳ぐようにその光に向かった。
その光にたどり着いたとき、光は私の身体に入り込んでいった。
そこで目が覚めたとき、地球へ帰らねばと思った。
理由などはない。
ただ、私の意志が勝手にそうさせるのだ。
まるで、私の中に誰かがいて、私の身体を操縦しているかのように動かすのだ。
地球への帰還は緊張した。
人工ではない、地面。
ヘルメットを被らなくても息ができる。
自分は本当にここに住んでいたのかとさえ疑いたくなる。
見る物全てが新鮮に感じられた。
懐かしいと感じるものは何ひとつない。
地球は素晴らしい。
SF小説などでは地球は最も遅れた文明だといったことを書かれるが、私が見てきた惑星はどれも地球より文明が遅れていた。
惑星によってはいまだに電気もなく、それこそ石器時代のような惑星もあった。
姿は地球人とまったく同じだったがまるでタイムスリップしたかのような感覚であった。
私のいない間に地球はどこまで進化したのか。
私はそれが楽しみでならなかった。
他の宇宙旅人は常に地球と交信を怠らなかったらしく、私に地球進行状況を教えてくれる人もいた。
劇的に変わった様子はないという。
しかし、私はこの目で恐ろしいものを見ることになるとはこのときは思いもしなかったのである。
私は生まれ故郷を目指してタクシーに乗った。
「お客さん、宇宙帰りかい?」
「はい。まだ身体が地球の重力に馴染まなくて落ち着きません」
「はは。そうかい。最近は宇宙へ行くお客さんが多くて、宇宙帰宅民を乗せるのはこっちも久しぶりだよ」
「そうなんですか」
「みんな地球に嫌気が指したのかねー」
「そんなにたくさんの方が宇宙へ行ってるんですか?」
「ああ。最近は宇宙へ行くお客さんばかり乗せているよ」
「へー。私がまた宇宙へ行くときもよろしくお願いしますね」
「あっはっは。こちらこそよろしくおねがいしますね」
私はタクシーの運転手にお礼を言い、自分の家を目指した。
街も何一つ変わっていない。
お店も家も私の記憶と寸分違わず同じだ。
街を見て周ったので家に着いたのが夕方になっていた。
家はすでに電気が着いていた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「おー早かったじゃないか」
「うん、今日は早く帰ろうと思って」
「もっと遅くなると思ってたわ」
「だって、明日は……」
「アナタが宇宙へ旅立つ日ですものね」
「宇宙へ行ってたくさんのことを学んで来いよ」
「はは。それが楽しみで今日眠れるか心配だよ」
「今日はアナタのためにごちそうよ!」
「さっきからいい匂いがしててお腹空いちゃったよ」
私はなぜこの異変に気付かなかったのか自分でも不思議だった。
私は家族との食事が終わり、自分の部屋へ行った。
「明日は宇宙か。次、ここに帰ってくるのはいつになるかな……」
そういえば、私はなぜ宇宙へ行くことを決めたのだっただろうか。
元々、興味はあったが踏ん切りがずっとつかなかった。
きっかけは何だったのか。
何か本でも読んだのだろうか。
そう思い、私は本棚から適当に本を取り出した。
本がバタバタと崩れ落ちた。
「ごほっごほっ……なんだこの埃は……」
私は部屋の周りを見回した。
部屋には蜘蛛の巣が張り、埃の山でとてもではないが長時間、人がいられる場所ではなかった。
「なんだこれは……」
確かに自分の部屋だ。
だが、人間が今まで住んでいた形跡がない。
まるで何年も放置されていたような。
「そういえば、私はさっき、どこから帰ってきたのだろう」
私は不安に駆られ、ゆっくりと両親の元に行った。
そこで私を待っていたものは……。
「どうしたの? まだ眠れないの?」
「はは。よっぽど緊張しているんだな」
それは両親の姿をしていなかった。
人間の姿すらしていなかった。
目がくぼみ、身体は濃い紫、木の根っこのような触手を器用に手足として動かし、まるで木のゾンビだ。
「あ、あ、あ……」
私は家を飛び出した。
思い出した。
私の両親は20年前に亡くなっている。
そして私は宇宙から帰ってきたばかり。
家を見ると廃墟そのものだった。
私は思わず吐いた。
自分が先程、食べさせられた物はなんだったのか。
思えば思うほど吐き気がこみあげてくる。
そもそも、私の両親は私にあそこまで優しくしてもらったことがない。
そう、私は両親から愛情を貰ったことがない。
だから、両親が亡くなったとき全てを捨てて宇宙へ行ったのではないか。
いつから私はおかしくなってしまったのだ。
「もう、突然、家を飛び出してどうしたの?」
「具合でも悪いのか?」
そこには私の両親がいた。
それは私が求めた家族の姿だった。
家を飛び出しても心配する。
私を殴らない、怒鳴らない。
私は両親の手を取ると家へ戻った。
「明日は宇宙へ行くんだから早く寝なさい」
「うん」
「宇宙でたくさんのことを学ぶんだぞ」
「うん」
「明日は宇宙へ行くんだから早く寝なさい」
「うん」
「宇宙でたくさんのことを学ぶんだぞ」
「うん」
私は優しい両親がいて幸せです。
「帰還。私を待っていた者。了」
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