飛行機には気球で
その日の僕の部屋は本が散乱していた。昨日の僕の願いを実現するための方法を探すために必死にラウムを資料を用いて試していた。
「だから何度言っても現代の飛行機の高さまで飛ぶのはできないの」
「でも上昇気流を使えばなんとかなるんじゃ」
「上昇気流が何度も起こる保証はないの。しかも今の飛行機って高度一万メートルも飛べるじゃない。一万メートルって富士山が三つ積み上げてやっとの高さよ。休める枝も建物も何もない。カナタの腕だとせいぜいがんばって二千メートル。それ以上は羽ばたき飛行をもってしても無理」
「でもこの本には標高八千メートルもあるエベレストを飛んだ鳥がいるって」
「鳥だってそこまで飛ぶことなんてほとんどないの。八千メートルなんて敵もいなければエサだってない空間なんだから。そんなとこ、迷子か物好きしか行かないわよ。鳥からして飛行機と同じ高さを飛ぶなんて非現実的なの」
「じゃあ飛行機と同じ高度まで途中まで運んでいくのは?」
「そんなものどこにあるのよ。本当にカナタは頑固なんだから、無理なものは無理。いくらなんでも飛行機と同じ高度までは無理なの」
両腕でバッテンをつくってまでダメ押しするラウム。
むぅ。願いを叶える悪魔のくせに。なんとかして飛行機と同じ高度まで飛べる方法はないかと考える。けど本で見たもの以上のことは頭に浮かばない。
「カナタお父さんそろそろ出かけるから」
階下でお父さんの声が聞こえた。下に降りると
「お父さん。今日からまた仕事?」
「うん。また空を飛ぶんだ。次帰ったときはまたカナタに空の映像でもお土産に持って帰ってくるよ」
ぽんぽんと頭を軽く叩いてくれるお父さん。そうだ、お父さんに飛行機がどれくらいの高度で飛ぶのか聞いてみよう。たしかお父さんの飛行機は国内線だから違うかもしれない。
「ねえ、お父さんの飛行機って最初はどのくらいの高さから飛んでいくの」
「どのくらいというとその日の状況や飛行ルートにもよるけど、お父さんの場合はだいたい一番高いところで二万四千フィートじゃあわからないか、七千メートルから九千メートルを目指すんだ」
「でもすぐにそこまで飛ぶわけじゃないでしょ」
「もちろん。お客さんを運ぶ仕事だし、なにより飛行機がもたないから段階を経てだよ。最初は千五百メートル、次に三千とね」
がんばっても千五百メートルか。しかもそれは飛行機が空港にいるほんの数分だけ。やっぱりラウムの言う通り難しいのかな。自力で飛ぶことができなくても途中まで何かに乗れば。う~んでもどこにそんなものあるんだろう。
「そうだ。カナタこのイベントに参加してみたらどうだ。ちょっと電車で行かないといけないけど空を肌で感じられるよ」
お父さんがポケットから四つ折りにたたまれた紙を渡される。そこには気球の絵が描かれていて、『全国気球大会』という文字が大きく書かれていた。
気球!
「お父さん。これって僕も乗れるの!?」
「そうだよ。さっきの高度の話だとだいたい千メートル以上は乗せてもらえると思うよ」
千メートル! それなら自力でも十分飛行機と同じ高さまで飛べる範囲だ。
「お父さんありがとう。お仕事がんばってね」
最高の情報を手に入れて胸を弾ませながら扉を開き、僕のベッドでごろんと本を読んでいるラウムにさっきのチラシを見せた。
「気球大会?」
「そう。これで高度千メートルぐらいまで気球で飛んで、残りを自力で飛ぶそれなら高度三千は行けると思う。飛行機もそのくらいの高度をほんの少しだけ来るだろうし」
これでラウムも納得できると思っていた。だけどラウムの表情は予想していたものと違い険しいものだった。
「なんでそんな危ないことをしたいの。飛行機と同じ高度まで飛ぶってことわかってる? 鳥が飛行機のそばを飛んでいたら巻き込まれたって事故だってあるのよ。海まで飛んでいく願いなら今のまま練習していけばいつか達成できるじゃない」
じっとにらむラウムの目に僕は立ちすくんでしまう。危ないことに挑むことがどんな代償を負うのかラウムが一番
「ラウムが。ラウムが悪魔の世界に帰る前に空の景色を見せたいんだ。ラウムだっていつこっちの世界に来られるかわからないでしょ。次は十年後、いや百年以上も待たないといけないかもしれないじゃないか。飛行機と同じ世界の空をラウムに見てもらいたいから。だからラウムといっしょに空を飛んでほしい」
自分の口で、目の前の悪魔と叶えたい願いを告げた。するとラウムは目を伏せてふぅっとため息をつく。
「本当にカナタもほかの契約者たちと同じだよ。わかったよカナタの願いだしね。ただし飛行機から十分距離は取るように」
「やった。ありがとうラウム」
ラウムからの許可が下りると、すぐにYouTubeのチャンネルを開いて次回の配信内容を書き込んだ。
『KANAの次のチャレンジ! 今度は鳥よりも高く、飛行機と同じ高度まで飛びます!』
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