お父さんを助けよう

 カラスたちに導かれて飛行機に飛び乗ると中で待っていたラウムが目をうるませていた。


「カナタ、無事なの」

「ラウムただいま」


 やっと再会できるとラウムが近づきその手で、僕のほほをがしっとつかみ上に引っ張り上げられた。


「ただいまじゃない! ちゃんとつかまっておきなさいよ! 途中で手を離すだけじゃない、アクフォも途中で落として私の所に戻ってきた。イヤホンも通じない、死んだのかと思ったのよ。このまま飛行機を放置するわけにもいかないからどうすればいいか全然わからないくて待たされた私の気持ち考えた!」

「痛い痛い、ごめんだって。僕も丸刈りたちが来てくれなかったら本当にどうなっていたか」


 突然ガクンと飛行機が揺れた。

 そうだお父さん! ラウムの手を離し、操縦席に駆け込む。グラシャにあやつられていたお父さんは前に鴨地があやつられていた時と同じく、椅子にぐったりともたれかかって眠っていた。けど操縦桿そうじゅうかんを握ってなくフルスロットル状態で飛行機の速度は最大になっている。


「これどうやって速度を落とせるの」

「この操縦桿を引けば落ちるよ」


 車のハンドルを半分切った様な形をした操縦桿を手に持つ。手がガチガチ震えてきた。何度も写真や動画で動かし方とか見たことはあるけど本物を触るなんてこと一度もない。でもこのままの速度だと燃料がきてしまう。それでもやらなきゃ。

 ゆっくりゆっくり、速度を落としすぎて墜落しないようスロットルを下げていく。だんだんと飛行機の速度が落ちていく。


「飛行機の速度遅くなったわ。よくやったわカナタってすごくヘロヘロだけど」

「ほ、本物を触るなんて初めてだから緊張して」


 操縦桿を持ちながらへたりこむと「お疲れ様」とラウムが頭をなでた。

 も、もう子供みたいに。


「うぅん」

「お父さんが起きた」

「じゃあ退散しましょう。こんなところにカナタがいたら驚くでしょ」

「そうだね。まさか僕が自力で上がったなんて知って眠っちゃたら本末転倒ものだよ」


 お父さんに気づかれないように操縦桿を渡して飛行機から降りた。

 少し飛行機から離れた所まで下がると、飛行機はゆっくりと下降を始め離れていった。どうやら無事に操縦できたみたい。これで安心と思った時、あることを思い出した。


「そういえばグラシャは」

「私が操縦席から叩きだして伸びていたけど、そういえばいつの間にかいなくなっていたわ」


 辺りを見回すが、グラシャの姿はどこにもない。空の中では隠れる場所なんてないはず。もしかしてお父さんの飛行機をまた狙うつもりじゃ、飛行機の後を追いかけようとした時だった。急に背中が重くなったと思ったらぶちりぶちりと羽がむしり取られる嫌な音と痛覚が襲った。


「さんざんボコボコにしてこうなったら無理やり海に落としてやる」

「うわぁ! 離れろ、羽がなくなる」

「離れなさいグラシャ。あんただけ叩き落すわよ」


 グラシャを背中から引きずり降ろそうと振り回したり、ラウムが体をつかもうと一心不乱になる。しかしグラシャはまるでひっつき虫のようにがっしりと服にしがみついていて、なかなか振りほどけない。


「離せよ」

「嫌だね。悪魔は嫌がることをするものだからな」

「やっぱりあんたサイテー!」

「最低でけっこうだ」


 めいめいにグラシャの手を離そうとやっきになっているうちに、ぐわしっと背中の翼をつかまれて動けなくなってしまった。揚力を失いグラシャもろとも落ちかけた時、ラウムが腕をつかみ持ち上げた。


「うわぁうわぁ! 落ちる落ちる!!」

「動かないで!絶対に落としてなるものか」


 励ましながら持ち上げてくれるラウムだけど、僕一人を持ち上げるだけで限界のようでだんだんと高度が落ちていく。おまけに腕が引っ張られているから痛い。

 その隙を見てグラシャがラウムの足にかみついた。


「じゃまをするな。いっしょに落ちてゆけ!!」

「くそっ」


 かみつかれたラウムの足からじわっと血が出て、僕の頬に落ちてくる。

 早くグラシャを離さないと、でも翼を動かせない以上どうすれば。

 万事休すと思われたその時。


「カァカァ!!」

「クァー! クァー!」

「な、なんだ。またカラス!?」


 僕を助けてくれたカラスたちが一斉にグラシャを攻撃し始めた。次々とカラスのくちばしがグラシャの体や顔を絶え間なく突き、ラウムの足から、僕の背中から追い出してくれた。

 追い出した後もカラスたちは追撃を緩めず、群がり徹底的に追い詰めていく。


「またまたカラスに。覚えていろ」


 悪役の捨て台詞の手本のような言葉を吐き捨てて、どろんとグラシャは消えてしまった。


 よかった。これで空を飛び続けることが……ってああっ!?


「どうしたのカナタ急に大声出して」

「まずい。もうすぐ夜だ」

「夜だとまずいの?」

「今晩は新月で、夜になると真っ暗で空も何も見えなくるなるんだ。どうしよう、今どの辺りなんだろう」

「えっと、ちょっと待ってここから海までは」


 アクフォを取り出してラウムが今の場所を調べようとすると、丸刈りがコツコツと痛くない程度に僕の背中をこづいた。


「クァクァ」

「何んだよ。助けてくれてありがとうだけど、今急がないと」

「海まで行きたいなら案内するって」

「本当!?」


 「クァ」と丸刈りが返事をするとカラスたちはすぐに方向を変えて飛んでいく。その後を追いかけようと翼を羽ばたかせる寸前ラウムが呼び止め、アクフォを投げ渡した。


「ほら、カナタ配信再開だよ」

「うん」


 アクフォを再び借りて、YouTubeの配信ボタンを押す。


『みんなお待たせ! KANAチャンネル復活です。ちょっとトラブルが起きまして昼間に終わる予定の時間を大幅に過ぎましたが、これからカラスたちの力を借りて海と空の世界を撮影に行きます。最後まで応援よろしく!』


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