カラスなぜ飛ぶの。カラスの勝手でしょ

 トボトボと折れてしまった翼を抱えて山から町へ降りていく。

 さっきの配信動画をまた見てみると、あきれるコメントがまた増えていた。少しでも励ましのコメントでも増えていればなと思ったがそんなに甘くなかった。


 僕のYoutubeチャンネルである『鳥人間チャンネル』は僕が空を飛ぶまでの様子や翼の作成過程の動画を投稿しているところで、登録者数三十人と数だけ見るととても少ない。

 みんなや大物Youtuberを目指している人はこのチャンネル登録者数を非常に気にして争っている。でも僕が配信を始めたのは、みんなに僕が空を飛ぶところを見てほしいからだ。一人でも僕が空を飛んだ姿を見てほしい。空に興味を持ってほしい、そんな思いで僕は『鳥人間チャンネル』を立ち上げた。


 それにもしも空を飛べたら、そこから配信される生の空の景色の美しさをみんなに知ってほしい。最初に見た飛行機からの映像を見た時の気持ちよさそうな空の広さ、綿あめとは全然違う本物の雲の質感、雲の割れ目から見える海と小さな白い波。僕は何度も繰り返してその動画を見返した。


 でも現実は、いつも失敗ばかり。これまで四回チャレンジして、四回とも僕の身長を超えることはなく失敗した。そのたびに傷が増えてお母さんに「また傷を増やして!」と怒られる。返ってくるコメントは僕が期待したものとは違うものばかり。


 それが鳥人間YouTubeのKANAの実情だ。

 人ってなんで翼がないんだろう。


 ふと空を見ると、山にいた時はまだ太陽が照っていたのに、町に戻ったときには空には重そうな雲がかかって余計に気分が暗くなる。すると「ククァ」と短いカラスの鳴き声が聞こえた。


「なんだよ丸刈り、またバカにしに来たのかよ」


 塀に留まって僕を見つめるこのカラスは『丸刈り』。子供のカラスのようで体が他のカラスたちより小さく、頭もまるで高校野球の選手みたいな刈り上げた頭をしているから名付けた。

 でも子供でもカラスはカラスで、僕がそらをとぶ挑戦をした後決まって僕に近寄って見つめてくる。きっと馬鹿にしているんだ。


「なんだよ。また折れたのかよって言いたいの? うるさいなあ、自分には翼があるから僕の苦労なんて知らないんだ。そんなにバカにするならアホーとでも言えよ」

「クァ」


 まるでわかっていないかのように首をかしげる丸刈りに石でも投げつけてやりたい。でもこいつには味方がいる。


 空を見上げると、電柱やケーブルがあるところを横に広がった黒い塊がぐるぐると僕の頭上で旋回している。いや正確には丸刈りの上で旋回している。あの黒い塊は丸刈りの親ガラスだ。子供が危険な目にあわないように上から見守り、何かあったら急降下しておそってくる。この前小学生が別の子供ガラスにいたずらをしたら、親ガラスが怒って空からおそった。その小学生たちは一方的に親ガラスたちにやられて、顔中突かれた跡やひっかき傷だらけになったそうだ。


 だから僕はこいつに手が出せず、丸刈りはゆうゆうと僕をバカにできるんだ。


 丸刈りから少しでも早く離れようと足を早める。しかし丸刈りは塀の上からバサバサと降りて僕の真横に降り立ち、ぴょこぴょこと僕を追いかける。まったく、今日は足もすりむいているんだから早く走れないというのに。

 ズキズキ太ももの裏がまた痛くなったので、歩みを緩めた。これで丸刈りと同じ速度になってしまった。丸刈りが僕の足に追いつくと、持っていた翼の残がいをコツコツとくちばしでつっついた。


「お前にはやらないよ。巣の材料にしたいのだろうけど、ちゃんと分別してゴミ捨て場に捨てないと近所のおばちゃんたちにに怒られるんだから。お前も親もゴミ捨て場を荒らして、近所のおばさんたちに追いかけまわされているからわかっているだろ」

「クカァ」


 なんのこと? と言いたげに丸刈りは首をかしげた。

 最初から翼を持っている自由気ままなカラスに何を言っても意味ないか。すると携帯が鳴った。


『何時に帰るの? またケガでもしているのなら早く帰ってきなさい』


 お母さんからのメッセージだ。どこに行くのか何も言ってないはずなのに、もう僕がケガしていること前提で書いている。まるで予知能力者のようだけど、非常におせっかいだ。


「このまま帰ってもお母さんにお小言言われるだけだし、いっそ図書館で鳥のことでも調べてみようかな。落ちた羽を百本集めても飛べないと思うけど」


 ゴミ捨て場の前で壊れた翼を捨てると、進路を家から図書館の方に変えた。すると丸刈りが僕の後ろをついていくようにピョンピョンついてきた。


「ついてくるなって」

「クァクァ」


 パッパッと手を振って丸刈りを追い払うがまったく意味がない。走って逃げ出そうとしてもケガした場所の足が痛くて速く走れないから、追い払おうにも追い払えない。まったくカラスなんて大っ嫌いだ。

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