あくまで自分の翼で飛びたい~悪魔から与えられた翼で実況配信する~

チクチクネズミ

第一章 悪魔との契約

鳥人間Youtuber KANA

 カメラの固定よし。周囲に人影なし。翼の固定よし。

 町から少し離れた盛切山の中腹で撮影の準備の確認がすべて済ませると、いつものあいさつコールを三脚で固定されたスマホのカメラに向けてする。


「どーも、おはこんばんちは。鳥人間チャレンジチャンネルへようこそ。KANAだよ。今日も人間のちからで空を飛んでみるから応援よろしく!」


 KANAというのがYouTubeでの僕のハンドルネーム。僕の夢は人間が鳥と同じように空を飛べるように自作の翼で空を飛ぶことだ。配信が無事始まるのを見届けて、視聴者に向けて腕にくくりつけた翼を見せる。


 この日のために夏休みを費やして作った自作の翼。材料は布と針金で細長い半円状の翼だ。腕にくくりつけているのも針金で、簡単に外れて翼が分離しないようにするためだ。腕の肉が締め付けられて痛いけど、前につけたヒモよりもがんじょうかつすぐに外れないようにするためにもこの程度我慢しなくちゃ。


 配信画面を見ると休み日の生放送ということもあり、今日はいつもより見に来てくれる人が多い。


『がんばれ少年』

『いや飛べねーって』

『むりむり』


 コメントには応援するものもあるけど、相変わらず否定するコメントが多い。もう見慣れたけどやっぱり傷つく。

 でも今度の翼は自信がある。今日こそ飛んでやると頬を叩いて気合を入れる。


「前にも話したように、人が空を飛ぶには飛行機と同じ要領で速度と空気抵抗を少なくすることで飛べる確率が高くなるんだ。速度の場合はこのスケボーに乗って斜面を降りながら十分な速度が出るまで勢いをつけます。そして空気抵抗は、翼と水平になるよう体を屈めます。ではさっそく、鳥人間チャレンジ!」


 この間本で読んだ内容を視聴者のために説明する。テレビでやっている実験と同じく、ちゃんと説明しないと視聴者には何をしているのかわからないから大事だ。

 崖から勢いよく降りるべく、コロコロとスケボーを後ろに押して三メートルほど距離を空ける。そして腕の翼を横に広げて、できるだけ水平になるように前かがみになりながら、スケボーを蹴る。


「でりゃりゃりゃりゃりゃー!!」


 足を蹴るごとに、スケボーの速度はドンドン増して、がけに向かって車輪が回転する。どんどん足場が見えなくなると、スケボーは勢いよくがけから飛んだ。

 そのままスケボーから足が離れて、風に乗って空に舞う……というカートゥーンアニメのようにはいかず、実際にはただ跳んだだけで浮かぶことはなくそのまま斜面に落ちて転がり落ちてしまった。


 ずるずると斜面を滑り落ちて、がけ下に積もっていた落ち葉の中に突っ込んでようやく止まった。僕の体を見てみると、体中砂と土だらけで腕に括りつけた翼はぐにゃりと折れ曲がっていた。


「また失敗か……」


 ぽつりとつぶやいて、力なく手を頭に乗せた。

 一ヶ月かけて図書館の航空力学の本を読み漁り、昨日でき上がったばかりの手作りの翼は飛行時間ゼロ秒という記録を更新しただけだった。更新できたのはひざや腕の擦り傷の数だけ。悔しい。


 落ちていったスケボーを拾いチクチクと擦りむいた足を引きずってがけの上に戻ると、まだ回っているカメラに向けて僕の無事と実験の失敗を伝える。


「ごめんなさい。また失敗しちゃいました。まだ改善の余地があると思いますので。次の五回目もあきらめずに挑戦しますから鳥人間チャレンジチャンネルへの登録と高評価よろしくお願いします」


 Youtuberとしての決まり文句を言って生放送を終えて配信終了のボタンを押す。そして配信に来てくれた視聴者たちのコメントらんを見てみると。


『あ~あ無理するから』

『またするのかよ』

『四回目の飛び降りチャレンジ成功』


 というまったく期待していないコメントが目についた。一応惜しいとか応援してくれるコメントもあるけど、悪いコメントはどうしても目についてしまう。


 でも事実、僕は四回も空を飛べていない。落ちてばっかり、視聴者の期待に応えられてない、きっと五回目も……

 現実に押しつぶされそうになりかけて落ち込んでいたところを、おでこをパチンと叩いた。諦めちゃだめだ。きっとできる。

 でも……


「ちくしょう! 人間は空は飛べないのかよ。もし空を飛べるのなら、死んだっていい!!」


 不満を思いっきり叫んだが、そんなことしても急に僕の背中に翼が生えるわけなく無情な僕の声が空っぽの空のかなたへ消えていくだけだった。

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