第4話
「あ、何か余計な心配してる顔」
心配してることまではまあ分かるだろうけれど、心配の種類までそう簡単に見透かせるものだろうか。いや、この説明をしてきた時点で聞いた相手が何を心配しそうかはだいたいわかるか。
「まあ大丈夫だよ。傷つける気はないし、ここから外に出てもいいし。だいたい誰も信じないでしょこんな話」
「魔物を進化させて街を攻撃させようと目論む邪術士なら以前何回か狩ったし、その類とみなして動く同類はいそうだけど」
「……外、出たくないの?」
あ。反射的に答えてしまった。
「うわ、すごく慌てた顔してる……まあでも大丈夫だよ。力づくでどうこうする意思はないし、だいたいそんなことしようとしたらわたしを排除するぐらい簡単でしょ」
「相対しただけで戦闘力がちゃんと感じ取れるなんて認識は捨てたんだ」
片っ端から表情に出ているのはあまりよくないな、と思いながら返事をする。前に痛い目にあったので、強弱の感覚は信用しないことにしているのだ。そもそも、ある程度戦ったことがあるジャンルの相手なら読めてくるものもあるだろうけれど、魔女との戦いの経験は乏しいから、僕がもう少し感覚に頼るタイプであっても分からないと思う。
それにまあ……もし彼女だけなら何とかできても、ここには特大のイレギュラーがいるわけだし。
くい、と袖が引かれた。反射的に後ろに跳ぶ。びっくりしたような顔で見てきたのは件のイレギュラー、幼げな子供、つまるところは神様ということだ。移動にまったく気が付かなかった。存在をたったいま意識してたわけなのに気が付けないなんて、やっぱり排除なんて絶対無理じゃないか。さすがに挑む気もしない。
まあ、余計な心配らしいし、外に出す気もあるみたいだし、そもそも挑む必要自体がないんだろうけど。
ところで袖を引いてきた以上は何か用なんだろうか、とじっと見つめてみる。魔女に害を加えると思われてるなら袖を引いただけで済ませやしないだろうし、何が狙いかまったく想定できない。次の動作も。
そうすると、真面目そうな顔をしてじっと見返してきた。視線が合う。
いつまで続くんだろうかという見つめあいの末、急ににこりと微笑んで、足に飛びついてきた。
「気に入られたんじゃない?」
見つめあっている最中から面白がっている雰囲気を隠しもせず全力で放出していた魔女の、笑みを含んだ声。
あれ、これもしかしたら違う意味で外に出してもらえなくなるんじゃないか。
魔女と幼神と迷宮と 歩野仁喜 @Kei_hohzaki
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