十円




 ある女が店を訪れた。

「世界一美しい顔にしてちょうだい」

「いいでしょう。十円です」

 女は十円玉を店主に渡した。

「今後、顔に関する願いは受け付けられませんのでご注意ください」

「わかったわ」



 一週間後、美しい顔の女が店を訪れた。

「世界一のスタイルにしてちょうだい」

「いいでしょう。十円です」

 女は十円玉を店主に渡した。

「今後、スタイルに関する願いは受け付けられませんのでご注意ください」

「わかったわ」



 五日後、すらりとした美女が店を訪れた。

「世界一のお金持ちにしてちょうだい」

「いいでしょう。十円です」

 女は十円玉を店主に渡した。

「今後、お金に関する願いは受け付けられませんのでご注意ください」

「わかったわ」



 翌日、高級車から降りたすらりとした美女が店を訪れた。

「あなたがとんでもない力を持っているって、よくわかったわ。ぜひあなたを雇いたいけれど、どうかしら? 報酬はいくらでも払うから」

「……お断りします」

「どうして」

「そのうち気がつきますよ」



 そして自由に生きた女の肌は荒れ、体型は元に戻り、財布にはたった一枚の十円玉だけが残った。

 女は泣きながら店を訪れた。

「私はどうしたらいいの」

「顔・スタイル・お金に関する願いはもう受け付けられませんよ」

「それはわかっているわ。でも、最後の十円で何か……せめて元に戻すことはできないの?」

「できませんね。どなたか頼る方はいないのですか」

「家族や昔からの友人は、変わり果てた私を見て驚いたり呆れたりして去っていったわ。最近の友人はお金のつながりでしかなくて……もうあなたしか頼る人がいないの。その力でどうにかならないの」


「そうですね……」

 店主はしばし考えてから話し出した。

「実は、ここでとある調査をしているのですよ。簡単に願いが叶った人間の末路をね。あなたは美しさと富を三十円で手にいれ、随分と変わりました。しかし、永遠には続かないのですよ。失うものも多くあったようですね。さぁ、最後の十円であなたは何を願いますか」





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短編集 @Tsukinoyouni

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