第7話 倍率20倍を突破できる自殺エリート

https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2018/12/wha_pro_sui_mea_05.pdf


 古いデータになりますが、2016年に日本財団が実施した「自殺意識調査」によると、過去1年以内に自殺未遂を経験した人は推計53万5000人に上り、

 実際の自殺者数の20倍近くに達していたそうです。


 つまりは自殺完遂者、つまりは「本当に自殺してしまった人」の『20倍以上』自殺未遂者がいるんだけど、

 それは「身体が最後の最後まで死に抵抗するから」なんですよ。

 ちなみに東京大学に受かる倍率が「3倍」程度なので「倍率20倍」がどれだけ狭き門か分かると思います。




 なぜ「死にたい死にたいって言ってるやつに限って死なない」なんていう意見が出てくるのか?

 それは端的に表現するとしたら「脳がいくら死にたくても身体は何としても、それこそ『死に物狂いで』生きていたいから」だからだと思います。


 いくら脳みそがどれだけ「死にたい死にたい」って思っていても、頭の10倍以上の重量がある首から下の身体は

「生きたい、何としても、ありとあらゆる手段を用いて『何が何でも!』生き抜きたい」と『強烈なまでに』なんていう生易しい言葉では到底表現しきれないほど思っていて、それこそ最後の最後のギリギリまで一切の狂いなく生き抜きたい。と思っているからです。

 それこそ「ドガッッッッシャアアアアンズドッッッッッッギャアアアアア!!!!!」って位に生きたいわけなんですよ(分かるわけないか)。




「自分はゴミクズのカスでこの世に存在する値打ちはない」でも生きたい!

「生きているだけで周りの人間に多大な迷惑をかける」でも生きたい!!

「お前の生は地球環境の悪化の原因だ」と言われても生きたい!!!

「お前が死ねば日本経済は劇的に良くなって世界経済も急回復する」と言われても、何としても生きたい!!!!


 身体はそうやって「何をしてでも、他人にどう言われようが、

 何としてでも最後の一瞬まで生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生きて、生 き ぬ き た い !」って思ってるんですよ。

 それこそ可能なら「1兆年」でも「2兆年」でも生きたいわけでして。


 ……さすがに「1兆年」や「2兆年」は言い過ぎかもしれませんが、身体は死の直前であろうが生命維持活動は最後まで続けるのであって

「ここまで生きたからもういいや」と生命維持活動が自動的に終わることはありません。身体は最後の最後まで生きたいんですよ。




 この思いはあまりにも強烈すぎて「狂おしいほど」なんていう次元にはとてもじゃないが収まらない、

 それこそ神羅万象世界のすべてを敵に回してでも自分だけは何としても生き抜きたい。最後の最後のギリギリまで何としても生き抜きたい。

 そのためなら人類が考えられうる限りの最も重い苦行でさえ、嬉々として受け入れよう! と思うくらいにまで『生 き 抜 き た い !!』からなんです。


 だから死にたい死にたいと言ってる人間が死なないのにはきちんとした理由があるんですよね。脳はいくら死にたいと言っていても身体は「生きたい」とどうしても言っているんですから。

 その証拠に刃物を自分の首筋に当ててみてくださいな。たとえ頭ではいくら死にたくても「ここで刃物を動かしたら死ぬ」って思ってたら出来ないでしょ?

 それが「身体は生きたい」と思っている証拠ですよ。




 それと、メンタルをこじらせる人の中には「私が死ぬのを応援してください」「私が死ぬように祈ってください」って言ったりするけど、

 それも「自分の力だけでは絶対に死ねないのを知っているから」外部から応援されないと、とてもじゃないけど死ねないよ。っていう意味があるんですよ。




 リストカットしてもそのまま血が止まらずに死ぬ人はまずいません。

 手首を切るのに無意識に手加減しますし、仮に切っても即座に血小板が傷口をふさぎ免疫機能が傷口から侵入した雑菌に対して抵抗する。

 その「命の鼓動」に真っ向からぶつかると『全ての人間は』負けます。勝てる人は誰もいません。


 酒を飲んでその「命の鼓動」に手かせ足かせを無理やりはめさせる、とか偶然に偶然が『恐怖を感じる程』積み重なって「とんでもない位運よく」死んじゃった。

 なんていう「『命の鼓動』を上回る程の『恐怖を感じる程のとてつもないラッキーの多重債務』」でもないと死ねないんですよ。

 それ位身体ってのは「生きる」事を最優先するんですよ。




 なのでこんなこと言うとまた問題になるだろうけど自殺完遂者、要は本当に自殺して死んでしまった人の事、なんだけどある意味「すごい」なとは思う。

 あまりにも強烈な、本能に直結する身体の声をねじ伏せてでも死ぬ。っていうのはよほど鋼の意志でもない限りできないことだと思う。


 昭和の文豪、三島由紀夫は割腹自殺、要はサムライのハラキリをして死んだが、刃物を自分の腹に刺してずらして斬るなんてとてもじゃないけど真似できないよ。

 俺だったら踏ん切りがつかなくて怖くて辞めちゃう。だって怖いもん。

 彼こそ模範的な(と言っていいのかは別だが)「自殺のエリート」であって「自殺の達人」だと思います。

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