第16話 自分の基準で他人のつらさを測るな

「それがどうした! オレの方がもっと辛いんだぞ!」


 自分の辛さを誰かに告げたら、こんなセリフが帰ってくるかもしれません。

 特にSNSに投稿したらこんな返事がやってきて「苦痛自慢大会」や「我慢自慢大会」が始まるでしょう(なのでSNSに悩みを出すのは基本悪手です)。


 ただ、この手のセリフは苦痛や苦労を数値化して客観的に見る手段が現代科学においては存在しないため、

 基本言った本人のうさ晴らし程度にしかならずに、救うべき当事者は余計に疲弊ひへいするだけというぺんぺん草も生えないほどの不毛な事です。




 個人的な感覚としては辛さというのは「絶対的」ではなく「相対的」なもので、

 仮に辛さを客観的な数値化できたとしても人によって辛さはいかようにも変化するものだと思います。


 例えば「思春期の悩み」なんて大人からすれば大した事無いささいな悩みでほほえましいものですが、当事者にとってはけた外れに大きく重くのしかかる問題です。

 人によってはそれこそどうしようもなくなって自殺してしまうほどには。

 実際2018年度にはおよそ600人もの若い人達が自らの手で人生を閉じた、というデータだってあります。


 大人から見れば大したことない事でも子供から見れば万里の長城みたいに高く大きい絶壁な事だってごく普通にありえます。

 もしそうでなければこんなにも多くの若い人が命を散らす、それも自分の手で人生を終えることなんてありません。




 親から見たら「うんうん、それも青春だねぇ」っていう一言で片づける問題でも、当事者からしたら「命にかかわる重大な事」だったりするわけなんですよ。

 例えば「友達に嫌われる」って事は「世界中の人間全員から嫌われる」のと一緒なんですよ。

 他にも大人から見たら「未成年を食い物にする連中」は、思春期の子供にとってはその人達は学校の悩みを吐き出しても親と違ってバカにしないし、

 むしろ真剣に話を聞いてくれる「SNSに生息する悪いお兄さんお姉さん」の声が魅力的に聞こえて来るんだよね。

 悪い大人に子供が引っ掛からないようにするためには「子供の悩みだから」とバカにしないで真剣に聞く姿勢は取った方がいい。




 それに、言われた側の意見としては「お前のつらさと俺のつらさには何の関係も無い」と突っ返すくらいの事はやってもいいかと思いますし、突っ返されてもそれを怒ることなんて出来ないと思います。

 なにせ苦痛や苦労の数値化は現代科学ではできないし、仮にできたとしても辛さは「相対的」なのでそこを深堀しても何の意味も無いでしょう。

 100人中99人が「くだらない」と一蹴する事でも本人が自殺を考えるほど悩んでいるのなら耳を傾ける価値はあると思います。


 何せ当事者からしたら問題は「けたたましいまでに」大きくて、冷静に俯瞰ふかんする……つまりは高い所から見下ろすように問題を見ることはできないんですよ。

 実際会社でパワハラに遭った時は完全に冷静に考える事が出来なくて、常時パニックを起こしていてとてもじゃないけど冷静に落ち着くことはできませんでした。

「『オチツク』とか『レイセイ』って何?」っていう状態でした。




 例えば「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない」っていうのは「どんなに辛くても必ず乗り越えられるから」っていう「励まし」なんだろうけど、

 言われたメンヘラからしたら「この試練は到底乗り越えられる気がしない。乗り越えるのを諦めて死んでしまったらそれこそ人間失格になるのではないか」と思って余計にふさぎ込んでしまうものです。

 この「ふさぎ込む人」は実際にいたそうですが、俺はこの人の気持ちが「うなづきすぎて首がもげるほど」よく分かります。


 これを見てマトモな人間は「別にそういう意味で言ってるわけじゃないのに何でそういう受け止め方をするの?」と頭には巨大なハテナマークが浮かでしょうし、そんな事を言う相手を責めたくなるでしょう。

 人の善意に向かってそんな言い方は無いんじゃないか! ってね。

 それだ。それこそ「メンヘラは根本的な部分で、根源的な部分で、常人には『理解しがたい程』ズレている」っていう所だ。


 他にも「明けない夜はない」とか「止まない雨はない」とか言う偽善者のセリフはメンヘラにはビックリするほど通じない。

「いつ止むんだよいつ明けるんだよ西暦何年何月何日何時間何分何秒地球が何回回った時なんだ言ってみろよ何の根拠も無しに上から目線でほざくんじゃねえよテメェなんか死んじまえよクソが大嫌いだ!!」

 ってなるのが相場だ。




 これも「どんな悩みも『いつかは』解決するよ」っていう「励まし」なんだろうけど、メンヘラはその『いつか』を年単位で、

 それこそ10年20年単位、人によっては『30年以上』待ち続けてもその『いつか』が一向に来ないのを怒っているわけでして。

 俺も10年以上メンヘラをやってるため、そんな事言われたらキンテキの1発でもかましたくなる。


 メンヘラっていうのは「家にこもりっきりじゃふさぎ込んじゃうだろ? 外に出て遊べば元気になれるから」って言われても

「そもそも足が無いから「外で遊ぶ」にはどうすればいいのか分からないし、そもそも「外で遊ぶ」の意味が分からないし、その概念もつかめない」って返す生き物なんだ。もう「根本的な」部分で分かり合えないでしょ?




 特に日本は「困難な状況をただひたすら耐える」事を美徳とする悪しき習慣があるのでそれに巻き込まれても何の生産性もありやしません。

「我慢してる俺偉い自慢」は本当にマウンティングの道具にしかならずに誰も救わないし、救えない不毛な議論です。

 下品な言葉で言えば「わがままなオ〇ニー」にすぎません。非常にみっともない行為なので、これを見てからでもいいです。辞めましょう。

 そんなの「困ってる人を救う僕ちゃん私ちゃんって凄い!」っていう打算であって、ソレ目的でメンヘラを救おうとは思わないで欲しい。

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