第11話 死ぬ気になれば何でもできるの嘘

 よく「死ぬ気になれればなんだってできるじゃないか。なんで死ぬなんて馬鹿な真似をするんだ?」なんていうふざけたことを言い出す輩がいますが、こういう人間が人を追い込んでいることに気づいてもいないでしょう。

 無理やり好意的に見れば「死にたい」と思った事なんてかけらたりとも無い人間の想像力の限界なんでしょう。


 精神的に追い込まれると「生きる事」よりも「死ぬ事」の方が楽になってきて、さらに追い込まれると「死ぬこと」が「1番簡単」になるんです。

「死ぬのは嫌だ。でも生きるために会社に行って仕事するのはもっともっともっともっととんでもなく嫌だ」となってしまうんです。




 例えば、団地の最上階まで行って「ほんのちょっと」手すりを乗り越える「だけでいい」

 あるいはロープを用意して「ほんのちょっと」首を吊る「だけでいい」

 もしくは駅で快速電車が来た時に「ほんのちょっと」ホームから足を踏み外す「だけでいい」

 他にも塩素系洗剤と酸性洗剤を「ほんのちょっと」混ぜる「だけでいい」


「たったそれだけ」で人は死ぬ。死んでしまう。そして「死ねば生きているうえで山積みの問題は全部片付く」のだからこれほど嬉しいことは無いのです。


 現代の日本では拳銃を入手する手段は日常生活ではほぼありませんが、もしアメリカみたいに簡単に入手できるのなら「弾丸を1発込めて「ほんのちょっと」人差し指を動かすだけで確実に楽になれる」から自殺者はとんでもない数に増えると思います。


「死にたいと思ったことなんて人生で1度もない」という人からすれば「死ぬのが1番簡単な解決策」なんて不可解の極みなんでしょうが、実際に死を選ぶ人のいくらかにとっては「ほんのちょっとした」労力で死ねる、そして死ねば問題が全部解決するのなら、それは「ベストアンサー」になってしまうんです。

 例えるなら「興味も無いし課金する気も無いけど宣伝で目に付くからちょっとこのソシャゲやってみっか」っていう位の手軽さ、もしくは「あー唐揚げ食べたいなー」という位の気楽さで「死」を選んでしまいます。


 他の例を出すと、ダイエットするなら食事制限や運動をせずにサプリ3粒飲む方を選びますよね? それと一緒です。

「痩せたいのに何で運動しないんだ!?」と言われても「サプリ3粒飲む方が楽だもん」ってなるわけです。

 それと一緒で「死ぬ気になれば何でもできるのに何で死ぬんだ!?」って言われても「だって死ぬのが一番簡単で楽なんだもん」って答えるだけです。




 ここまで言っても「死にたいなんてかけらたりとも思わない」人や「死ぬことが生きることよりはるかにハードルが高い」人にはおそらく理解できないでしょう。

 ただ、うつで困ってる人というのは本当に「死へのハードルが相対的に低くなっていていつ死んでもおかしくない」というのだけは覚えておいてください。

 これはもう本当に学校のテスト勉強みたいに「丸暗記」するだけでもいいです。完全に理解して納得できなくてもいいと思います。


「理解する」と「同意する」と「許容・尊重する」は全て別物であって、この場合は「理解も同意も出来ないけど尊重はする」というのがベストアンサーなのでしょうが、残念ながら人間というのは「理解→同意→尊重」という順番をきっちりと守ってもらわないと無理難題過ぎてできない。というのもかなりの数いるでしょう。


 そんな人にこんな一方的な願いを言うのも酷かもしれませんが、彼らあるいは彼女らは死を意識するほど「心底疲れ切っている」というのだけはどうしても覚えていただきたいなと思っております。




【次回予告】


「10グラムの重りで人は死ぬ」これは本当の事です。毎日毎日10グラムを足し続ければ、人は確実に死にます。


第12話 「10グラムの重りで人は死ぬ」

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