12-4.end
遂に目玉が真上にまで迫った小学校にたどり着いた。いよいよ時は来たという所か。
しかし、グラウンドがなにやら騒がしい。見れば、子供達が空を指さして騒いでいるのだ。
眺めていると、誠が焦った表情でこちらに駆け寄ってきた。
「ああ、駆人君。無事に天子様と会えたか」
「おかげさまで。……、これは?」
「外に出ると聞かなくてな……。親や俺達も止めたんだが」
なるほど。確かに危ない。だが、嵐から避難しようとしているのならともかく、その嵐をどうにかしようとしている駆人にとっては、むしろ好都合。
駆人は、天子、空子、ぽん吉、栞、そして誠と真紀奈を呼んで、作戦を話した。この作戦を決行するには子供達の協力が不可欠だ。なるべく早く、親達がよっぽど力づくで子供達を引っ張るまでに事を済ませねばならない。
いよいよ作戦決行だ。天子の持ってきた荷車をグラウンドの真ん中までもっていき、ブルーシートを剥がす。そこから出て来たのは、山積みになったレモンだ。
子供達の考えた奴の弱点その一。『レモンを目にかけると痛い』。
「いや。そりゃなんとなく分かるが」
レモンの一つを手に取ったぽん吉が、訝し気にそれを眺めた。
「本当に効くのか? 第一、いくら雲ほど高くないと言っても、どうやってあの目にぶつけるんだ」
「効くと、倒せると思い込むことが肝要です。それに、届かせるのはそれほぞ難しくないはずです。奴の放つ竜巻の上昇気流に乗せれば、勝手に奴の所までレモンを運んでくれるでしょう」
荷車を見つけた子供達が寄って来た。奴に向けて投げつけてもいいと言うと、我先にとレモンを奪い合い、こちらへ向けて伸びてくる竜巻に向かって放り始めた。
「まるで運動会じゃな」
天子が呟く。確かにワイワイと騒ぎながら鮮やかな色のレモンを投げる姿は運動会の玉入れのそれに近い。
竜巻に巻き上げられたレモンが遂に奴の目玉に直撃した。奴の黒目部分がグルグルと動き、風の唸りが強くなる。まるで苦しんでいるように。
「ほ、本当に効いているのか。こんな子供の考えた弱点が」
誠が半分感嘆、半分呆れたような声で言った。
「だから、いいんですよ。本当にそこにいると信じることが、本当に倒せると信じることが、都市伝説の弱点を作っているんです」
そのまま流れるように第二の弱点を叩きこむ。その名も『目を回す』。
それこそ運動会で使うような長い棒を横倒しにし、そこに子供達と駆人達が一列に並んだ。そして、端を掴んだ天子を中心に、時計回りに回す。
「本当にこんなので目を回すんですか~!?」
動きの速くなる外側を担当した駆人達。体をほとんど浮かせた真紀奈が半分悲鳴のような声をあげた。
「それもありますが、嵐という事は奴は『低気圧』! 低気圧の風は反時計回りに回っていますから、時計回りに回れば打ち消せるはずです!」
「そんな馬鹿な~」
低気圧云々はともかく、目を回した奴の黒目の動きが更に激しくなる。竜巻も伸ばしては来るものの、地上に届くころには随分と弱弱しく、木を騒めかせるほどになっていた。
とうとう、奴の最期の時だ。
回る子供達の中心を担って、目を回している天子の所に駆け寄る。
「天子様。奴にとどめを」
「むむむ~。……、ハッ! そうじゃな。お主ら、力を貸せい!」
天子の号令に、栞達も集まった。
手を開いて伸ばした天子の右腕に、皆が手を添える。
「狐火ーム!」
声を合わせて珍妙な技名を叫ぶ。天子の右手から、白い光線が上空に浮かぶ目玉に一直線に伸び、見事命中。
目玉はほんの少しの抵抗を見せるも、弱点を突かれたことによってその体には既に体力はない。さながら断末魔の叫びに聞こえる大きな風の唸りをあげると、爆散。その身は光の粒子となって空に散って行った。
「倒した……、のか?」
全員が呆然と空を眺めている中、駆人がやっとこさ口を開いた。
「そ、そうじゃ! 倒したんじゃ! 我々の勝利じゃ!」
あちらこちらから歓声が上がる。
奴のいなくなった空は晴れ渡り、風も収まった。
子供達の歓声と、急に収まった風に気付いた大人達も体育館から出てきて、不思議そうにいきなり晴れた空を見上げていた。
あの戦いから数日後。天子と駆人は神社の近所の瓦礫の撤去作業を手伝っていた。
あれ以来都市伝説の出現もなく、平和な日々が続いていた。
「ひーこら。腰が痛い」
「年なんですから気を付けてくださいよ」
「なんじゃと」
天子の調べでは、あの大目玉はこの町に出現していた都市伝説の親玉で、それをやっつけたことでこれ以上の都市伝説の出現はないそうだ。
「そうなれば今度こそわしらはお役御免じゃ」
「……」
「ま、寂しいのは分かるがな。お主は天子様好き好き小僧じゃからな」
「……、はい」
「調子が狂うのう。ま、近いうちに遊びに来る。その時はよろしくな」
「はい!」
駆人の夏休みが終わるころ、天子は神社と共にこの町からいなくなった。
駆人達の通う高校の最初の登校日。最初という事でいつもより早く終わり、駆人は家路についていた。
夏休みの前と同じように歩いて帰るが、違うのは登下校を栞と共にしていること。
「それにしても、とんでもない夏休みだったよね」
栞は懐かしむように空を見上げながら話す。
「命の危険も何度か感じたし」
「うん。何もないと退屈だけど、あんなスリルはもう御免かな」
「そんなこと言って寂しいんじゃないの? ずっとあそこにいたもんね」
「まあ、確かにそうかな。とは言ってももう過ぎたこと、あの場所も……」
駆人が指さす、あの神社があった場所には、夏休みの間とは違って、主に塗られた鳥居が……。
あった。
「ある!?」
二人はそろえて驚きの声をあげた。
それを聞きつけたのか、神社の中から天子が大慌てで飛び出してきた。
「おお! カルトよ聞いてくれ! また都市伝説が出たんじゃよ~!」
今にも泣きだしそうな顔の天子が抱き着いてきた。
「シオリもいるのか! ちょうどいい! 中で話を聞いてくれ!」
天子に引きずられる駆人と栞は、顔を見合わせて笑いあった。
オカルトアワーから始まった怪奇譚は、やはりタダでは終わらないらしい……。
オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~ ユーカン @u-kan
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