第25話 お買い物
「わあ、すごい……!」
馬車から一歩踏み出れば、そこはきらきら輝く王都の高級ショッピングエリアである。
黒、白、ピンク等のカラフルな店がずらりと両脇に並び、そのどれもが賑やかに活気づいている。主に貴族の家族連れで、私と同じく入学準備をしに来たらしい子もちらほら。
商人を屋敷に呼んで買い揃える方法もあるらしいが、直接店に出向いてどんな家が同級生にいるのかついでに見ておくのがスタンダードらしい。これも貴族間のパイプ作りの一環か。
親と手を繋ぐその子たちにならって私もお母さまと手を繋ぎ、後ろにはギルバートを従えて、いざ入学準備!
「まずは小物からね。指定店は……あった、あのお店よ」
お母さまが指したのは黒を基調としたシックな店だった。磨き込まれたガラスのドアには
『王立ゼーレンヴァンデルング学園指定品取扱店』
と書かれた札が掛かっている。
「ここで何を買うの?」
「文房具と生活用品ですよ。生活用品の方はお母さまが見ておきますから、クロエは文房具を選んでいらっしゃいね」
入店。ドアを押し開けた瞬間、ふわっといい香りが漂う。
「クロエ」
呼ばれて見上げると、お母さまが少し屈んでこう言った。
「お母さまはお店の人と少し話すことがありますから、先に売り場に向かっていてほしいの。1人で行ける?」
「大丈夫よ、心配しないで行ってきて!」
私はにっこり笑って返事をする。
元々文房具が好きだったこともあり、私は異世界の文房具をゆっくり見て回る時間ができたことを喜んだ。
「そう? でもやっぱり……そうだわ、ギルバートさん、ちょっと」
「はっ、何でしょうか」
お母さまは繋いだ手をするりとほどくと、空いた私の手を彼の方へと差し出した。
……えっ、まさか。
「私が席を外している間、クロエのことを見ていてくれないかしら。クロエの召喚獣の貴方になら安心して任せられるわ」
「承りました」
にこにことする母にギルバートは事もなさげにあっさりと返事をし、固まる私の手を軽く握った。
アッ!!!
「あっ、まって、お母さままって……」
「お母さまはこの辺りにいますからね。それではまた後で。ギルバートさん、クロエをお願いします」
「お任せ下さい」
『お任せ下さい』じゃないんだよ!!
フリーズした私が何もいえないでいる間にお母さまの背中はみるみるうちに遠ざかり、人混みの中へと消えていってしまったのだった。
転生したら侯爵令嬢になっていたので、前世の推しに庇護されつつ騎士を目指します にゃら @nyarakugaki1
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