『必見・神ってるスマホ術』本編

 俺はショータ、高校一年だ。今日は先輩達が全国大会に出場したから、応援しに来たぞ!

 先輩達が出るのはスマホ術の全国大会だけど、今年初めて開催されるみたいで、情報がなかった!スマホ術ってどんなんだろう、気になる!

 会場に着いた。凄い熱気だ。スタジアムは満席だし、そんなに人気だったのかスマホ術!なになに大会パンフレットによると集団競技みたいだな。一から五人でチームを組み、32チームでトーナメントをするのか、楽しみだなー。

 ワアアアァァァァァァ!一回戦が始まった。先輩達は赤チームだ。楕円形のフィールドの端と端から登場して、走り出した!皆両手に何かを持ち、身体中にも何かを付けてる。なんだろ、黒い板みたいな……スマホ!?あっ投げた!お互いスマホを投げあって相手のスマホを撃ち落としてる!フィールドの中央でぶつかって、殴り合いを始めた!頭突き、正拳突き、蹴りあげ、ウオォォォ!ピーーーーー!笛が鳴り響く。審判らしき人が出てきて赤い旗を上げた。試合終了だ、でもどうして?

 俺は隣の席の知らないおじいさんに聞いた。どうやらルール違反をしたらしい。最後の蹴りあげで相手に当たった場所にスマホが着いていなかったのが反則だったそうだ。スマホを介しての攻撃しか認められていないらしい。

 次の先輩達の試合まで数時間あるから、スタジアムの中を探検しよう。売店は携帯ショップだらけだ。でもよく見ると、カスタムスマホを売ってる!有名なスマホ家の使うカスタムスマホをファン用に売ってるらしい。中にはサイン付きもある。でも高いなぁ、10万円はちょっとなぁ。

 そうこうしている内に二回戦が始まった。先輩達は五人なのに対して相手は三人だ!一回戦と同じように撃ち合いが始まったけど、なぜが人数の多い先輩達が押されてる。なぜ?隣のおじいさんが教えてくれた。三人組の方はカスタムスマホを使っているらしい。よくよく見たらスマホが二つ合わさってブーメランや手裏剣みたいになってる。

 一人、二人と倒れ伏していく先輩達。すわピンチか!?と思っていると、真ん中の先輩がスマホをポンポンポンと空に向かって投げあげ、それをスマホで破壊、中から飛び出た電子回路が三人組に降り注いだ。

 おじいさんが言う。あれは市販のスマホではない、恐らく自分達でカスタムしたスマホだろう。高校生にして壊れる前提のスマホ技を修得しているとは、恐るべき奴らよ。

 立ち上がった土煙が収まった時、そこにはダウンした三人組がいた。先輩達は勝ったのだ!その時後ろの席の知らないおじさんが言った。三回戦は剣聖か、残念だけど彼らじゃ勝てないだろう……。俺は剣聖が誰だか知らなかった。

 直ぐに三回戦が始まった。さっきダウンしなかった先輩達が走り出したが、たった一人の対戦相手は動かなかった。剣聖を知らない俺に隣のおじいさんが教えてくれた。剣聖とはスマホを投げない者を指すらしい。遠距離から一方的に投げてくる奴と戦えるということはそれだけ強いということ。強い奴しか剣聖にはなれないのだ。

 先輩達はフィールドの中央で止まり、スマホを一斉に投げ出した。遠距離からの集中攻撃で仕留めるつもりだ。しかし後ろのおじさんが言った。馬鹿め、剣聖が遠距離攻撃が出来ないなどと誰が言った。直後、先輩達の投げた最初のスマホが剣聖に届こうという時、剣聖は緩やかにスマホを取り出し、腕を高速で回しだした。ブレて見える剣聖の手とその中に握られたスマホは先輩達の投げたスマホを尽く上にはじき飛ばした。それらは綺麗な放物線を描いて先輩達の元へと帰っていった。

 先輩達の弾幕が止み、代わりに土煙が先輩達を隠した。剣聖が緩やかに近づく。俺は完全に倒されたと思っていた。しかし、緩やかに歩く剣聖の胸元へ土煙の中からスマホが飛び出した。それは剣聖によって弾かれたが、つづけて飛んできたスマホが剣聖を強打、剣聖はゆっくりと倒れた。土煙が晴れた後、先輩達は全員立っていた。

 後ろのおじさんが言う。馬鹿な、と。最初の集中砲火は復活のための時間稼ぎだったというのか……!?隣のおじいさんが言った。二投目のスマホが当たった訳を知りたいか?それはだな、一投目のスマホがカスタムスマホだったからだ。飛んでいる間、カシャ、カシャカシャと特殊なリズムでシャッター音を鳴らし続けるスマホを投げることで剣聖の意識をリズム化し、そのリズムの間隙を縫って二投目を放ったんだ。これは上級門下生レベルでないと出来ないはずだが……。

 続いて四回戦、これに勝てば決勝進出だと思うと自然と前かがみになった。ダウンした先輩達も復活し、万全の態勢だと思ったのだが、先輩達の格好がおかしかった。全身くまなくスマホで覆っている。疑問は対戦相手を見てさらに膨らんだ。二人組の相手はもっと重装備の上、スマホが四枚ずつ板になったのを重ねた書類の山ならぬスマホの山とでも呼ぶべき物の上に立っていたのだ。

 試合が始まった。先輩達は開始早々散開した。なぜ?と思っていると、さっきまで先輩達がいた場所に敵が降って来た。ズウウゥゥーンとスタジアムが揺れる。隣のおじいさんが言う。あ、あれはロケットパック!両足合わせて八枚のスマホを同時に自壊させることで地面に衝撃を加え、反発力で数十メートルを飛ぶという、男の浪漫武器……!

 しかし浪漫武器も対策を練っていた先輩達の敵ではなかったようで、二人組はバラバラになってフィールドを駆け巡る先輩達に攻撃を加えようと飛び跳ね続けたが、足の下のスマホを全て使い果たしてしまった。しかし謎だ。軽装備ならもっと回避しやすかったはずなのに……。

 隣のおじいさんもそれは思っていたようで、しきりに首を傾げている。すると後ろの席のおじさんが言った。それはだな、特攻対策だ。あの重装備は遠距離攻撃では削れない。削るには至近距離から溜めた攻撃が必要だ。しかし至近距離だと軽装備でも被弾の可能性があるから、どうせだったらダメージを減らそうという作戦だろう。それに恐らく二人組は起死回生の一手を持っているはずだ。それを警戒していたのだろう。

 果たして、おじさんの言う通りになった。二人組の振り回した腕に先輩達が跳ね飛ばされたのだ。重装備だったのでダメージは少なく、直ぐに立ち上がったが、そこへ二人組が接近、自爆した。先輩達は吹き飛ばされたが、重装備だったのが幸いして立ち上がった。後ろの席のおじさんが言った。先の先まで読めてこそのスマホ家だ、少年……。

 決勝戦まで少し時間が空いたのでさっき携帯ショップで買った週刊・スマホマガジンを開いた。初心者コーナーにはスマホ術のパイオニアとなった人へのインタビューも載ってる!!先輩達は上級かそれ以上のコースに通っているのか……。俺がフムフムと読み進めていると後ろの席のおじさんが話しかけてきた。少年、断言しよう。次の試合は間合いの化かし合いになるはずだ。だから25ページの特集を読むべきだ。しかし俺はおじさんが話す時だけ顔の陰影を濃くしている方法の方が気になっていた。

 決勝が始まった。立ち上がりはゆっくりしていた。互いに五対五、牽制でスマホの投げ合い、スタジアムに響くシャッター音、その間隙を着くように下からバウンドスマホが鼻先を狙って飛ぶ!仕返しに高高度から降り注ぐ電子部品の雨!シャッター音は止まらない!ワアアァァァァ!会場は大盛り上がりだ!!

 隣のおじいさんが言う。そろそろ来るぞ、と。ハッとなった俺はフィールドを隅から隅まで注意深く眺めた。そして先輩の一人がフィールドの隅に何かを埋めているのを見つけた。あれって……。後ろの席のおじさんが言う。ここまでやるのか。彼らの将来が楽しみだ……。

 何かを埋めていた先輩が仲間の元へ戻り、スマホを宙にぶん投げた。すかさず先輩達は目を閉じ、上空でスマホは発光、同時にフィールドの外周から相手チームに向かって一斉にフラッシュが炊かれた。堪らず目を閉じる相手チーム、そこへ目を開けた先輩達から容赦のないスマホの雨が降らされた。しかし相手もさるもの、スマホを両目に装着、カメラ越しに視界を無理矢理確保し、反撃した。

 だが……。おじいさんは言う。一度傾いた天秤は決して元には戻らない……。そこからは泥試合だった。両チームとも一人ずつ倒れていき、最後に立っていたのは、先輩だった。ウオォォォーーー!!先輩達は優勝した!俺は今日初めて会ったおじいさんとおじさんに宣言した。俺、スマホ家になります!そんで全国大会で優勝します!

今、俺のスマホに捧げる青春が始まる……。

(完)

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スマホ家のススメ やまもン @niayamamonn

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