エピローグ

ぼんやりと戻っていく意識の中、最初に見えたのは真っ白な天井だった。

消毒液のにおいでここが病院だと察した。

腕を伸ばそうとして激痛が走る、どうやら全身傷だらけのようだ。


「朱里!目を覚ましたのね、わかる?」

「心配したんだぞ、大丈夫か!?」

「お母さん、お父さん・・・」

まず最初に視界に入ってきた母と父の顔に、元の世界に戻ってきたことを実感した。

「無茶するんじゃない」と見たこともない泣きそうな顔の両親をみてごめんなさいと涙ぐむ。

「まったく皆さんをどれだけ心配させれば気が済むの、あんたって子は」

皆さんという言葉に引っ張られ痛む首をきしませて両親の後ろに立つ人物が目に入る。


「やっぱり朱里さんが目を覚ますのが最後なんだなあ」

ふふと笑いながらひらひらと振る手のひらには何か所か絆創膏と手首に包帯がみえるが元気そうだ。

「お父さん、お母さん・・・俺、朱里さんとお付き合いさせてもらっています真下修二と申します。申し訳ありません、彼女のケガは俺のせいです・・・俺が責任を取ります!」

左腕に包帯を巻いてはいるがそれ以外は大きなケガはなさそうに見える。

「よかった・・・二人とも大きなケガなさそう・・・」

「朱里が守ってくれたから・・・こんなにケガさせて、ごめん」

「僕はほぼ二人のところに間に合わなかったっぽいので傷はほとんどないけどね」

いつも通り静かに微笑む涼森さんと顔いっぱいに申し訳なさをにじませる真下くん。

二人が無事であれば正直私は自分のことなんてどうでもよい。

その手前でお父さんが「お父さんってどういうことだー!」と叫んでお母さんが「あらあら、こんなにいい男をやったわね!朱里!」と喜んでいる。

枕元にはいつ持ってきてくれたのかしら?と両親がしきりに首を傾げていたどら焼きとかりんとうと花の髪飾り、青い髪飾りの入った袋が置かれていたそうだ。


そして約一年が経過したとある晴れた日。

大きな劇場でのカーテンコール、超満員の観客はスタンディングオベーションでキャストを迎えた。

昨年、初日に劇場の崩落事故により幻の公演となってしまった「舞台版妖精龍絵巻」の再演の千秋楽だった。

運よく初演の初日を観れた観客は再演を観て「前回をかなり上回る素晴らしさだ」と一同に評していた。

中でも主演である涼森裕一、そして真下修二の評価はこの作品でまた一段あがったと言われていた。

二人は演出や脚本家とも相当話し合いを行い、一部初演とは演出が変更になった。

その中でも一番の変更点はラスト、悪鬼龍との対決はレイを倒す、という流れではなく、レイを仲間に迎えるエンディングとなった。

私は千秋楽チケットが本当になかなか取れなくて、一般発売で粘って粘ってキャンセル流れしてきた見切れの座席をようやく確保することができた。

見切れの座席は一回席後方上手側の端っこ、でも通路側だ。

客降りの時には涼森さんと真下くんが来てくれて他の子に混ざってちゃっかりハイタッチしてもらった。

今日は私の宝物でもある青いガラス玉と花の飾りのついた髪飾りもつけてきた。

満員のスタンディングオベーションの中、座長の涼森さんが最後の挨拶を行う。

「初演ではわずか一公演で中止となってしまったこの公演を再び上演できることを本当に嬉しく思います。たくさんの方のたくさんの想いを乗せてここにいるキャスト、スタッフ一同演じさせていただきました。この作品は僕にとって一生忘れない作品となりました。ご観劇いただきました全ての皆さまと、この妖精龍絵巻に関わるすべてに感謝を申し上げます!」

大歓声と大きな拍手はいつまでも鳴りやむことはなかった。


私の大切で大好きな妖精龍絵巻はこうして大団円を迎えた。


そうだ、今日はどら焼きとかりんとうを買って帰ろう。

遠い世界で暮らす仲間を想って大切な人と一緒に食べよう。

いつかまたあの世界へ戻ることができたらいいな、私は精一杯惜しみない拍手を送った。

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2.5次元舞台を見ていたはずなのに気が付いたら推しとともに原作乙女ゲームの世界に転移しちゃったOLの話 @iwaue_pengin

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