第三章

「はい、できました!よく似合ってますよ、アカリ」

「ありがとう、彩姫」

お祭りの日、私は彩姫に浴衣を着付けしてもらっていた。

「アカリ、準備できたか?入るぞー!!」

「ドラコもいるよー!!」

どうぞーと返事をすると同じく浴衣を着たヒイロとドラコが入ってきた。

「お、馬子にも衣装」

「言うと思いました、ヒイロも素敵です」

わははと笑うヒイロに笑顔で返す。

涼森さんとの会話はずいぶん緊張しなくなった。

そのぶん真下くんとはここ数日ろくに話していない。

「ドラコはアカリすごくかわいいとおもう!」

「ありがとう、ドラコ」

私の肩にすりすりと寄り添うドラコの頭をよしよしと撫でてやる。

「彩姫、ヒカリが走り回って浴衣を着崩してるからでかけるまえになおしてやって」

「まぁ!ヒカリったら、行って参りますわ」

「ドラコもヒカリがまた走り回らないように見張っておいて」

「ドラコりょうかい!アカリ、かわいいぞ、またあとでな!」

彩姫とドラコが出ていくと涼森さんがふうと息を吐く。

「改めて、よく似合ってるよ、朱里さん」

「ありがとうございます、涼森さんも浴衣お似合いです。ファンのみんなにも見せてあげたい」

「ファンイベントで浴衣着たりもしたなぁ」

「真下くんも去年のイベントで着てましたよ」

あのときは事前に浴衣の告知があったから私も浴衣を着て参加したなぁなんて思い出してふふ、と笑う。

「修二と、気まずそうだね」

急にズバリと斬り込まれてグッと詰まる。

「ちょっと・・・いろいろありまして」

苦笑いするとヒイロとは違う優しい表情で笑ってくれた。

「何か遠慮してるの?」

「涼森さん、なんでもお見通しですね・・・」

「修二とも朱里さんとも毎日一緒にいるんだよ、わかるさ」

遠慮しているというわけではない。

自分でもよくわからなくなっていた。

真下くんのことは元々もちろん好きだ、そのことは真下くん自身も知っていることで。

でも今の想いは、今までのものとはおそらく違うものだろう。

だが、違うものだとわかったところで・・・

「遠慮とかではなくて・・・元々違う世界に住んでいるのですから」

「うん、朱里」

「・・・はい」

「もう一度言うね、僕は毎日修二とあなたと過ごしてるんだ」

「はい」

「毎日一緒に過ごしている仲間に違う世界に住んでる、って思われるのは悲しいよ」

「・・・ごめんなさい!そういう意味では!」

「はは、ごめん。意地悪な言い方したね。でもそういうことなんだよ。修二はファンとしての朱里じゃない、同じ世界にいる朱里を見てる。でも朱里が同じ世界の自分を見てくれているのかいないのか、不安なんだよ」

俳優としての真下修二を見ているのか。

アオイとしての真下修二を見ているのか。

そんなの関係なくて、私が好きなのは今近くにいる真下くんだってことだ。

そう伝えてもいいのだろうか、迷惑ではないのだろうか。

「修二ここ最近落ち込んでるからさ、ちゃんと二人で向き合って話してごらん」

そう言うと涼森さんは久しぶりに私の頭をポンポンと撫でて部屋を後にした。


お祭りは盛大に盛り上がっており、町はいつもの倍以上の人出になっていた。

店先で出来立ての食べ物を並べたり、歩き疲れた人を招く茶屋があったり、子供向けのおもちゃやアクセサリーのような飾り物までいろんなものがある。

「アカリ、ドラコわたあめ食べたいよ、わたあめ」

「いいよ、彩姫にりんご飴のおみやげもかって帰ろうね」

「コラ、ドラコ!アカリをひっぱりすぎだぞ」

「よし、俺が一緒に観に行ってやろう!」

先頭を歩くヒイロがワカバに注意されたドラコと走っていってしまい、隣を歩くワカバと目をあわせて笑ってしまった。

後ろにヒカリとスミが並んでねりあめを食べている姿はとてもほほえましいが、一番後ろを歩くアオイはやっぱり元気がない気がする。

気になってちらっとアオイの方を向くと一瞬目があったと同時にすっとヒカリとスミの陰になってしまった。

きまずい・・・明らかに避けられている気がする。

「本当に俺の好きになる子はみんな・・・」

「アカリ―!わたあめ買ってもらった!ヒイロいいやつだー!」

「ヒイロ様にもっと感謝してもいいんだぞー!」

隣を歩くワカバがちいさくつぶやいたと思ったがにぎやかな二人が戻ってきてかき消されて私の耳に届かなかった。

「ごめん、ワカバなにか言った?」

「ううん、なーんも言ってないよ」

それより、とワカバが私の頭に手を伸ばして髪飾りに触れる。

「今日、約束守って髪飾り付けてきてくれて嬉しい」

お祭りの日に先日買ってもらった髪飾りを付けてきてほしいとワカバから頼まれていた。

絶対だよ、と何度も念をおされ、彩姫にもこの髪飾りにあうような浴衣をえらんでもらったのだ。

「ううん、本当に綺麗だから気にいってるよ。ありがとうね」

うしろを歩いていたヒカリとスミがドラコとヒイロに合流してわたあめを一口もらっている。

そのすきをみてヒイロがスミのねりあめをかじってヒカリに怒られていた。

そんな平和な光景の背後でも静かにアオイがじっとこちらを見ているだけのアオイが気になって仕方なかった。

「アオイのことが気になる?」

隣にいるワカバに小さな声で聞かれてなんと答えてよいかわからずただ少しだけ困ったように微笑むしかできなかったが、ワカバはそれになぜかにっこり笑って「女の子の笑顔は守らなくちゃね」と答えた。

「ヒカリ、スミ!集合!」

ワカバがヒカリとスミを呼び寄せて何やらひそひそと話しこみ、ヒカリとスミはワカバに元気に「わかった!」と返事をしてねりあめを急いで食べ終え屑籠にいれると私の両サイドにきて私の手をぎゅっとつかんだ。

「人通り多いからアカリのこと僕たちが守ってあげる!」

「手、離さないように」

「わあ、ありがとう。じゃあ二人についていくね」

謎に正義感にあふれたかわいい二人に手を引かれて歩き始める。

「じゃあ、ドラコも・・・」

「お前はこっちだ」

ヒカリとスミに混ざって私にとびかかろうとしたドラコをワカバが捕まえた。

「ヒイロ!こないだのガキどもが待ってるから会いにいこうぜ!」

「そうだった!俺はあいつらのヒーローだからな、会いに行ってやらないといけないな!」

「そういうわけでドラコも一緒に行こうぜ、ヒイロがまたお菓子買ってくれるってからよ」

「ほんとか!ヒイロ、ドラコあっちで売っていたやきたてのおせんべが食べたい!」

「いいだろう、俺はやさしいからなー!」

そう言ってヒイロとワカバとドラコは横道を入って子供たちの遊ぶ広場があるという方へ行ってしまった。

にぎやかな二人と一匹の姿であったが、ヒイロとがワカバにこっそり「お人好し」と言ってワカバが苦笑していたことに誰も気付かなかった。

残された私は後ろのアオイのことを気にしつつも、ヒカリとスミにぐいぐいと手を引かれて雑踏を進んでいった。


修二自身もあの日以来朱里と気まずいことをどうにかしたいとはずっと思っていた。

自分の気持ちはもはやはっきりしているのだからそう伝えればいいだけなのはわかっていたがそう簡単にもいかない。

お祭りがチャンスだとは思っていたが浴衣姿の朱里に似合っていると伝えようとする前に髪飾りが目に入ってしまった。

ワカバが朱里のことを好きなのはわかっていた。

だから彼女がワカバにもらった髪飾りを付けているのがぶっちゃけ気にくわない。

気にくわないがつけるなと言える立場でもない。

ワカバは俺がモヤモヤしていることもわかったうえで朱里にあの髪飾りを付けさせてずっと隣をキープしているのだ。

隣に割り込もうにもあの髪飾りがちらちら目に入ってそのたびに苛立つ自分が本当に情けなかった。

元の世界だったらこういうことって高校生くらいの時にあったよなあと苦笑する。

他の男に好きな子にちょっかいをかけられてうまく声をかけられないなんてどこのガキだよ。

俳優という仕事をしている以上応援してくれている子はたくさんいて、大好きですって何回いってもらったかわからない。

もちろんすごく嬉しくて励みになった。

俺だってそう言ってくれるファンの子たちの支えになって、俺を励みにしてほしいとがむしゃらに仕事に励んでいた。

朱里もいつも手紙に書いてくれていた。

俺が頑張っていることが自分の幸せだって、まっすぐ仕事に向き合う俺のことが好きだって。

いつもさりげなく俺の好きなものを差し入れに入れてくれて、目立つタイプではないけれど前からずっと応援してくれてありがとうって思っていたよ。

でも、今でも俺のことそう思ってくれてんのかなって、舞台に立っていない俺のことどう思ってるんだよって不安になる。

こういう自分の恋愛みたいなこと正直よく思い出せない。

高校時代の彼女とどうやってつきあってどうやって接していたんだよ・・・。

そのうえワカバの密命でヒカリとスミががっちりガードしてやがるしなんなんだよ、くそ・・・絶対ワカバの差し金だ。

三人で楽しそうに歩く姿に嫉妬する自分が嫌になる。

涼さんだったらどうしたかな、ってどうしても思ってしまう。

涼森裕一は以前から俺の憧れだ。

ファンだって俺の何十倍もいるだろう。

今回の共演が決まってめちゃくちゃ嬉しくて、稽古場の時からいろんな話をしてもらった。

舞台への想いも、ファンへの想いも、本当に尊敬できるところしかなくてこんな男になりたいと思った。

こっちの世界へ来た時も涼さんがいてくれるから大丈夫だって安心感めっちゃあったし。

あんな余裕のあるかっこいい男にあと二年で絶対なれねえよ・・・。


真下くんと二人で向き合ってごらんと涼森さんに言われたものの、お祭りの間中全然ふたりっきりになれるチャンスがなくて正直諦めかけていた。

気まずさを払拭するためにもポケットに秘密兵器も持ってきたのになあ・・・。

まあ、みんなでわいわいしているのも楽しいし、こんな時間も貴重だものね。

もうすぐ南の森の龍を訪ねなければいけないともなればみんなに少しでも楽しい時間を過ごしてほしい。

「アカリ、昨日のどら焼きおいしかったよね」

「うん、もちもちでおいしかったね」

「もちもち大好き!」

「かりかりもおいしいよ、かりんとうおいしいよ」

「うん、もちもちもかりかりも好き!」

「あ!あのお菓子みたことない!食べたい!」

ヒカリとスミは本当にお菓子が大好きだ、楽しそうに屋台をみながらあっちへこっちへとひっぱる。

そうだ。

「ヒカリ、スミ、私ね、とっておきのお菓子もってるよ。みんなで食べよ」

肩から掛けたカバンから私の秘密兵器を取り出した。

「これね、私がきた世界で人気のお菓子なんだよ。どうかな、二人に気に入ってもらえるかな??」

そう言って袋から取り出したお菓子をヒカリとスミの手に乗せてあげる。

「なにこれ、はじめてみた!」

「もちもち、むにむにしてる」

すぐに口に入れてもぐもぐと食べ始める二人。

「あまいー!むにむにー!」

「おいしいね、ヒカリ」

「おいしいー!」

嬉しそうな二人に勇気をもらって勢いよく振り向いてまっすぐ真下くんの方を向いた。

「はい、アオイ!」

お菓子を手に握って真下くんににむけて腕を伸ばす。

ちょっとびっくりして私の顔と手を見つつ手を出してくれた彼の手のうえにそっと置く。

元いた世界ではおなじみの他愛もないグミだ。

彼がこのお菓子を大好きでいつも稽古場で食べていたりカバンに入れているのを知っていた。

好きな人の好きなものを好きになる、ファンの心理である。

同じものを持っていたい、同じものを好きになりたい。

観劇の日も仕事の日も彼の好きなこのお菓子は私のカバンには必ず入っていた。

こっちの世界にきたとき持ち物に入ったままだったこのお菓子を思い出して、仲直りのきっかけにしようと持ってきたのだ。

「好きでしょ?」

こんなささやかなものでも彼とおそろいにしたかった元の世界にいた自分のためにも勇気を出して、多少ひきつっていたかもしれないけど精一杯の笑顔で彼に握らせた。

精一杯の笑顔のつもりだったが、真下くんは下を向いて黙ってしまった。

「あ、あれ、このグミじゃなかったっけ??好きなの・・・」

間違えてたかな、たしかいくつか好きなグミはあったけどこれが一番のお気に入りだったはず。

「うん、好きだ」

グミを一粒口に入れて真下くんは私が今まで見たことがない嬉しいような切ないような表情で顔を上げた。


「ヒカリ、スミ、悪いけどアカリと二人にしてほしい」

ずっとぎゅーっと手を握っていたヒカリとスミだったがその言葉をきいてパッと手を離した。

「アオイ、言うの遅い!ワカバからアオイがふたりっきりになりたいって言ったら譲ってやれって言われてたのに!」

「言わない限りは絶対にアカリの手を離すなって言われてた」

にししと笑うヒカリとスミにアオイは「ありがとう」とだけ伝えた。


「ちゃんと話そう」

真下くんはそう言ってヒカリとスミが離した私の手を握って一本裏に入ったところにある小さな神社まで連れて来てくれた。

二人で境内の端に腰を下ろしたものの、何から話したらいいのかわからずとりあえず再びグミを取り出して彼に差し出した。

「よく覚えてたな、これが好きだって」

「そりゃ覚えてるよぉ、このグミの他にもミルクティーが好きだってことも裂けるチーズが好きなことも、犬より猫が好きってことも知ってるんだから」

「はは、ガチだな」

そう笑ってグミをぽいっと口に入れる。

「こうやって浴衣で並ぶのは実はファンイベントの時ぶり」

「あー、そういや去年着たなぁ!」

「真下くん、浴衣なのに足広げて座るからマネージャーさんに怒られてた」

「あったなぁ、あの時のチェキ撮影で朱里が前の舞台のことすごい褒めてくれたよな」

「えええ、覚えてるの!?恥ずかしい・・・」

「いや、すげー嬉しかった。手紙とかでもさ、いつも舞台楽しみにしてくれてたもんな」

「うん、私にとって真下くんの舞台はずっと心の支えだったんだもん」

「俺にとっても・・・そう言ってくれるみんなが心の支えなんだよ」

「ファンのみんなに聞かせてあげたいなぁ、いまの言葉」

「でも今は違う。みんなじゃない、朱里は・・・みんなのうちの一人じゃない」

どさくさで考えないようにしていたが神社に連れてきてくれた時からずっと握りっぱなしだった手を真下くんがギュッと握ってくれた。

「あ、妖精龍絵巻の舞台のときも客降りでこうして手を握ってくれたね、嬉しかったなぁ。私あんな特別なファンサもらったのはじめてだったから・・・」

ファンとしての顔が崩れてしまいそうになって必死で舞台の話に戻す。

真下くんのファンとして出会ってここにいて、ファンとしてではない朱里が彼の手を握ってはいけない気がしていた。

「あ、あとね。私癒しの気の力が強くなったから真下くんに元気あげる」

握っている手は力を使うためだ、元気のない彼を癒すためだと自分に言い聞かせる。

勘違いしちゃダメだ、彼は真下修二なのだ、舞台の上でキラキラ輝く俳優だ。

ただのOLが気安く手を握っていい相手ではない。

気を込める手に集中しようとすると、その上から真下くんの手で抑えられた。

「いらない、俺元気だし。それに、癒しの力はワカバの力だ、なんかやだ・・・」

「やだって・・・そんな子供みたいな」

真下くんが急に子供のような拗ねたような表情で見上げてくる。

「俺、全然子供だよ。二十八歳なのに、全然子供だし、朱里が言ってくれるみたいに全然かっこよくない」

「子供みたいなところがあるのも知ってるしそういうところもかわいくて好きだよ」

思わず好きだと言ってしまって恥ずかしくなってまた口をつぐんで下を向く。

「それでも俺は朱里にはかっこいいって言われたい。かっこいいって言われたいけど・・・」

もう一度手を上からギュッと握られる。

「朱里、ちゃんとこっち見て」

握られた手に緊張して目を逸らそうとしたのを見透かされた。

顔を上げるとまっすぐな瞳とぶつかった。

まっすぐで、信念があって、絶対に投げ出さない、やり遂げる、そんな強い力を持った私の大好きな人だ。

大好きな、人だ・・・。

「朱里、いまの俺は俳優じゃない。アオイでもない。ただのちっぽけな男だよ。余裕もないし、大人でもない。ぶっちゃけカッコ悪いところばっかりだ、それでも」

真下くんが一度呼吸を整えるのが伝わる。

心臓が爆発しそうだ。

「朱里のことが好きだよ。ファンの一人じゃない、巫女としてじゃない、今目の前にいる朱里が好きだよ」

ごまかしも何もない、まっすぐな言葉だった。

「私も・・・私も好きです・・・」

彼のまっすぐな言葉をごまかすこともできないし、そうでなくても湧き上がる感情を抑えることは出来なかった。

「真下くんのことが好きです」

うまく言葉で伝えられない、何を伝えればいいかわからない。

ただ、手をぎゅっと握り返した。

「うまく言えなくて・・・ごめんなさい・・・」

「朱里はイベントの時もいつもそうだったもんな、伝えられなくてごめんなさいって言いながら俺に一生懸命気持ちを伝えようとしてくれてた」

そう言って握った手を引っ張っられると真下くんの腕に中におさまってしまい、思わず身を引こうとするとそのままぎゅっと包まれた。

「これからは俺が朱里を幸せにする」

「今までもいっぱい幸せもらってます・・・」

「そういうんじゃなくて・・・みんなと同じじゃないやつだよ」

「そんなにもらえません・・・」

「もらってくれないと困る」

彼の腕の温もりと言葉の優しさに思わず涙がぶわあと浮かんでくる。

「朱里は泣き虫だもんな、いつもカーテンコールのとき泣きべそかいてる」

「・・・!見えてるの!?」

「意外と見えてる」

恥ずかしさと嬉しさとごちゃまぜの泣き顔を彼の胸に預けてうつむくと、ぎゅっとしてくれた腕で背中を撫でてくれた。

「これからは、嬉し泣きだけな」

「うん」

「この世界でも俺が守るし、向こうの世界にも絶対帰ろう、涼さんとみんなで」

「うん!」

「その前に、今すぐその髪飾りをはずせ。俺が新しいの買ってやるから」

少しばつが悪そうにそういう真下くんの気持ちがくすぐったかった。


真下くんに手を引かれて神社から大通りに入るとすぐ、ヒイロとワカバとドラコも戻ってきていてにぎやかな集団はすぐに見つかった。

「堂々と手をつないで帰ってきてんじゃねーよ」

戻ってすぐにワカバがアオイのお腹を軽く殴った。

「悪い、いや悪くねーけど・・・その・・・ありがとう」

「おせーよ、ばーか」

アオイとアカリが大通りを歩いてくれたおかげでこれからはアオイのファンが俺のところにきちゃうなーとワカバは笑ってくれた。

「とりあえずあの花の髪飾りははずさせた、新しいやつを俺が買うから店の場所教えろ」

アオイがワカバに言うと「はあ!?ふざけんな!」と二人で言い合いをしながらも一行はチトセちゃんの雑貨屋に向かって歩き始めた。

ふと隣をみるとヒイロが立って苦笑していた。

「修二さ、いつのまにかもうアオイじゃなくなってんだよな」

言われてみれば・・・。

「ワカバも、うん、みんなも俺と修二が前のヒイロとアオイじゃないって実はずっと気づいていたんだ。それでも受け入れてくれて、仲間だって思ってくれてる」

「うん・・・」

「さて、まずは朱里さんを無事に幸せにできたところで今度はこの町を平和にしなきゃなって思うしね」

「本当にお騒がせしました・・・」

イタズラっぽく笑う涼森さんに頭が下がる思いだ。


夕刻を過ぎて提灯に灯がともると一段と人通りが増える時間帯になっていた。

すれ違う人とも気を付けないと肩がぶつかってしまう。

「ねえねえ」

ふと気が付くと浴衣の袖口をひっぱる子供の姿があった。

「ん、どうしたの?迷子」

そう尋ねるとその子供はにいっと笑って口の端から牙を見せた。


「こっちの世界はどうだい?新しい巫女様」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る