第34話 疑惑のかばんさん
ハカセが長の権限でフレンズを招集してから2日が経ち、としょかんの周りにはすでに数十名ほどの人だかりができていました。
早々に集まったフレンズたちはかばんの周りに集まり、3dプリンターから出力される料理をおいしそうに食べています。
じゃんぐるちほーの橋がどうのこうの、アルパカのカフェがどうのこうの、久しぶりにかばんに再会したフレンズたちは皆喜び、いろいろな話に花を咲かせているようです。
かばんが他のフレンズたちの対応をしている間、少し離れたところでハカセがかばんの様子を隠れるように見ています。
そんなハカセを不審を持ったのか、助手は印刷されたカマニクンを片手にハカセに近寄り、どうしたのか、何かあったのか、と尋ねます。
するとハカセは、難しい顔をしながら独り言名のようにつぶやきました。
「やはりおかしいですね。かばんは様子がおかしいのです」
「そうですかハカセ?いつも通りのかばんではないですか?」
集まったフレンズたちと楽しそうに会話をしているかばんを見て、不思議そうな顔をする助手ですが、ハカセはかぶりを振って答えます。
「いいえ助手。よく聞くのです。かばんはこの前、セルリアンが悪いやつだと思うか?とか聞いてきたのです」
「ほーう。ハカセはなんと答えたのですか」
助手は興味なさげに返しますが、ハカセはすぐさま答えます。
「もちろん、悪いやつに決まっていると答えたのです」
「そうですね。私もそう思うのです」
助手が同意するのを見て、ハカセは続けます。
「ですよね。そしたらかばんはなんと答えたと思いますか?」
「......分かりません。なんと答えたのですか?」
「では、セルリアンと仲良くできると思うか、と聞いてきたのです」
助手は少し驚いた顔をしました。
「......仲良く?セルリアンとですか?」
「ええ。確かにそう言っていました。もちろん私は仲良くなどできるはずがないと答えたのです」
「それで、かばんはなんと?」
「何も答えなかったのです。ため息をついてサーバルのところへ行ってしまったのです」
「......そうですか」
助手は沈黙します。
ハカセは少し間をおくと、続けて話をします。
「話はこれだけではないのです。かばんはこの質問を、他のフレンズにもしているようなのです」
「というと?」
「かばんは、我々とセルリアンと仲良くさせようとしているのではないかと睨んでいるのです」
それを聞いた助手は頭に疑問符を浮かべます。
「はい?なんのためにですか?」
「セルリアンは、我々のサンドスターを一方的に奪い取る存在なのです。フレンズとセルリアンは相容れない。仲良くした先に待っているのはセルリアンによる搾取のみです」
「......確かにそうなのです。じゃあ、仲良くさせようとしているということは......?」
「あのかばんは、セルリアンの仲間なのではないかと思うのです」
助手の顔がこわばります。
「信じられないと言った顔ですね。助手。『えすえふ』の序盤を覚えていますか?」
「......ええ。宇宙人は友好的な振りをして人間に近づいてくるのです」
「今のかばんはそれなのかもしれません」
助手は再びかばんを見ました。
相変わらず他のフレンズと楽しそうに話をしています。
ハカセは語り掛けるように続けます。
「かばんもセルリアンにサーバルを奪われそうになったことがあったのです。あのような経験をしたうえで、セルリアンの肩を持つなど考えられない。少なくとも、『仲良く』なんて言葉が出るはずがないのです」
「......その通りなのです」
「とにかく。今後のかばんの動きを注視するですよ。皆を集めて何をするのか、できれば始まる前に把握するのです」
「分かりました。ハカセ。何かあったらすぐに手を打てるよう、根回しをしておきます」
「いえ、根回しは私がするのです。この島の長なのでそういったことは私に任せるのです。助手はあの宇宙船の中に何があるのかを調べてきてほしいのです」
「えっ」
助手は硬直しましたが、ハカセは構わず進めます。
「皆が寝静まったころ、かばんは毎晩あの宇宙船の中に入っているのです。あの中に絶対秘密があるのです。かばんに気づかれないように尾行するですよ」
ハカセの無茶ぶりに、助手は渋ります。
「そんな危ないことを......かばんはセルリアン側かもしれないのですよね」
「だから助手に頼んでいるのです。これは助手にしかできないことなのです」
「......分かりました。」
ハカセに押されて助手はしぶしぶ承諾しました。
その日の夜。
ハカセの言った通り、かばんは皆に気づかれないようにこっそりととしょかんを抜け出し、スポットライトのような光に吸収されながら宇宙船に吸い込まれていきました。
それを見た助手は少し驚きましたが、かばんに気づかれないくらいの小さな羽音でかばんに続いて宇宙船に潜り込みました。
~~~
「助手!助手!どこですか?」
次の日、ハカセは朝早くからとしょかん付近の森を歩いていました。
どうやら助手を探しているようです。
しばらく探し回っているうちに、ハカセの耳が一つの音声を捉えます。
「うう......」
「うめき声......助手の声なのです!」
ハカセが声のする方へ向かった結果、木の根元で倒れている助手を見つけました。
ハカセはすぐさま駆け寄ります。
「助手!ここにいたのですか!大丈夫ですか!?」
「ハカセ......?あれ?ここは?」
ハカセに揺さぶられ、助手は閉じていた目を開きます。
「目を覚ましたのですね。とりあえず安心しました」
ハカセがホっとした表情を見せますが、助手は周囲を見渡して、驚いた顔になります。
「ハカセ!今、どれくらいの時間が経っているのですか?!」
「??......もうお昼どきなのです」
ハカセの言う通り、すでに日は高く昇っていました。
助手は混乱した様子で立ち上がり、頭を抱えています。
「助手、あの宇宙船の中で何があったのですか?話すのです」
「わからないのです。さっき確かに宇宙船の中に入ったのです。入ったと思ったら、すでに昼になっていて、ここにいたのです。」
「何を言ってるですか?」
「そのままの意味なのです!」
助手が叫ぶと同時に二人の頭にかばんの声が響きます。
二人はとっさに耳をふさぎますが、声は響いてきます。
「皆さん!本日はお集りいただきありがとうございました!」
それはまるでぺぱぷのライブのように大きな音声でした。
いえ、ぺぱぷのライブと言うよりは、頭の中に直接語りかけられているような、いままで感じたことのないような感覚を生じさせるものでした。
ハカセと助手は少し狼狽しましたが、すぐに落ち着きを取り戻して言います。
「まずいのです!かばんが何かを始めるつもりなのです!」
「はい。ハカセ!行くのです!」
二人は慌ててとしょかんに向かいます。
その間にも、かばんの演説は進みます。
「いままで皆さんは、セルリアンを怖いものだと思っていたかもしれません。でも、ぼくはこの旅の中でセルリアンと友達になることができました!」
迫りくる木々をかわして、大急ぎでとしょかんまで飛んでいきます。
しかし二人がとしょかんにたどり着くころには、すでにかばんの演説はクライマックスを迎えていました。
「これが、ぼくのともだちです!」
ハカセと助手が森を抜けると、宇宙船から鉄格子がゆっくり降りてくるのが確認できました。
目を凝らして見ると、そこには、銀色の膜のような毛皮で身を包んだ、黒灰色のセルリアンがいたのでした。
『えすえふ』 はいいろわんこ @8116dog
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