第33話 SSプリンター
「久しぶりだね。サーバルちゃん。まさかパークに帰ってきていたなんて思わなかったよ」
かばんはサーバルに寄っていこうとしますが、その前にサーバルはかばんに飛びついて抱擁します。
そして目に涙を浮かべつつかばんに言いました。
「かばんちゃん!今まで何してたの?私、ずっとずっと心配してたんだよ!」
「サーバルちゃん。ちょっと苦しい......」
「あ、ごめん!」
サーバルが腕を解くとかばんは話を始めました。
「あれからいろいろあったんだよ。あの空飛ぶ乗り物に乗って、いろいろなところを探検していたんだ」
「そうだったの!?......探検だったら、私も連れてってくれればよかったのに!」
「ごめんね。それはできない事情があったんだ」
「事情って、どんな?」
「うん。えっと、えっとね。船の中には......」
サーバルがキラキラした目をかばんに向けます。
かばんは今まであったことを、順を追ってゆっくりと説明しようとしましたが、サーバルはしびれを切らしたのか、かばんの言葉を遮って言います。
「でもよかった!ハカセたちが言うみたいに、宇宙人にさらわれたわけじゃなかったんだね!」
「え?」
「でも安心して!もしそんな子がいても、私がやっつけちゃうから!」
サーバルは自慢の爪をかばんに見せつけながら言いました。しかし、かばんは唇をかんで難しい顔をしはじめます。
これを見たサーバルはハッとして、かばんに謝罪します。
「あ、ごめんねかばんちゃん。帰ってきてくれたことがうれしくてつい!それで、船の中にはなにがあるの?」
「......」
「よければ私も乗せてくれないかなー?」
無邪気に言うサーバルですが、かばんは地面を見ながらぼつりと答えます。
「ごめん。サーバルちゃん。あの船、一人乗りなんだ」
「え、えぇー!?あんなに大きいのに?」
「そうなんだよ。あはははは......」
かばんは張り付いた笑みを浮かべます。これに対しサーバルは少しキョトンとしてから返します。
「そっかー。それなら仕方ないか―。あはははは」
そしてサーバルも笑いました。
どうやらかばんの明らかな嘘にまったく疑問を抱いていないようです。いやはやフレンズとは正直な生き物です。
かばんは少し息を吐いて落ち着くと、サーバルに向かって、確かめるように言います。
「サーバルちゃん。宇宙人の話、どこで知ったの?『えすえふ』を読んだの?」
「まさかー!私は読まないよ!ハカセが教えてくれたの!」
「そうなんだ」
これを聞いた後も、かばんは相変わらず難しい顔をしています。
サーバルとは目も合わせず、考えこんでいる様子です。
不審に思ったのかサーバルは心配そうな顔でかばんに尋ねます。
「かばんちゃん?大丈夫?なんか、変だよ?」
「うん?そうかなあ」
サーバルはかばんの顔をじっと見ながら言いました。
対してかばんは目をそらして、適当に返事を返します。
そうこうしているうちに、ハカセと助手がやってきました。
かばんは彼女らをみて、一瞬驚きを見せましたが、すぐに落ち着いた声で言います。
「ハカセ。お久しぶりです」
「かばん!?」
「どうしてここにいるのですか!?まさか『えすえふ』の......」
助手が最後まで言う前に、かばんは上空の宇宙船を指差しながら答えます。
「あの宇宙船を使って、ちょっと探検に出かけていたんです」
「なんと......それで、ヒトは見つかったのですか?」
「ヒトは見つかりませんでしたが、面白いものを見つけましたよ。ちょっととしょかんの前まで行きましょうか」
一行はとしょかんの前に移動します。
そこでかばんはかばんから端末を取り出しました。すかさずハカセから質問を受けます。
「なんですかそれは」
「えっと......あの宇宙船のリモコンです」
「りもこん?」
かばんは少し操作を行います。
するとかばんたちの目の前に、宇宙船からスポットライトのような光が照射されます。
サーバルたちはびっくりして一歩後ずさりしました。
「驚かなくても大丈夫です。上を見てください」
一行が上を見ると、大きな機械がゆっくりと降りてきていることが分かりました。やがてそれは一行の目の前に音を立てずに着地します。
それは図書館の本棚ほどの大きさを持つ箱とつながった、ディスプレイと、サーバルの身長の3倍はありそうな球体状の金属とによってできた、威圧感のある機械でした。
ハカセは口をパクパクさせながらかばんに尋ねます。
「かばん。これはなんですか?」
「これは、3d.....SS(サンドスター)プリンターです。この箱がインクリサイクルボックスで、これが操作用ディスプレイ、そして丸いのが印刷されるところです。ここを押すと開きます」
かばんがスイッチを押すと、球体は真っ二つに割れて中がむき出しになります。ハカセたちが覗き込むと、中が空洞であることが分かりました。
「さんどすたーぷりんたー??印刷?これがどうなるのですか?かばん、怪しいですよ」
ハカセたちはよくわからないようで、相変わらず警戒しています。
そこでかばんは、プリンターを球体に戻し、ディスプレイを操作しながら言いました。
「これはサンドスターの力を使って、色々なものを印刷できる画期的な機械なんです。例えば、こうやって」
かばんがそう言い終えるやいなや、SSプリンターは音をたてて動き始めました。
サーバルたちはびっくりしましたが、数十秒もしないうちにSSプリンターはその動きを止め、中身を外へ排出します。
かばんはそれを、ハカセと助手のところへ持っていきました。
「どうぞ、食べてみてください」
「食べ物なのですか?!」
パリパリの麺に、たくさんの具材が入ったとろとろの餡がかかった、いままで見たことも無いような料理です。
「これは、おどろおどろしい見た目なのです。」
「食べて大丈夫なのですか?」
「大丈夫です。これはサドラウンといって、カレーよりもおいしい料理なんです」
「そうなのですか。でも何となく怪しいのです」
ハカセは警戒していましたが、食欲をそそる香りに負けて、意を決して一口目を食べました。
一瞬にして表情が恍惚としたものに変わります。
「これはおいしいのです!」
これを見て助手も食べ始めます。
「確かにこれはやみつきなのです!」
かばんは安心した表情を見せて、今度はサーバルに問いかけます。
「サーバルちゃんも食べる?」
「うん!」
かばんはディスプレイを操作します。
たちまち新たなサドラウンがSSプリンターから排出されました。
かばんはそれをサーバルに差し出します。
「はい」
「ありがとう!......おいしい!!」
サーバルはあっという間に完食しました。
かばんが満足げに立っていると、後ろから声が聞こえます。
「かばん。おかわりをよこすのです」
「これだけじゃ足りないのです」
「あ、私も―!」
その後かばんは三匹にたくさんのおかわりをあげました。
~~~
「満腹満足なのです」
「ハカセに同意です」
ハカセは満足そうな笑みを浮かべて、椅子に座っています。
これを見たかばんは、ハカセに話しかけます。
「ハカセ、頼みたいことがあるんだけど、いいかな」
「なんでも言うのです」
「パークのみんなを呼んできてほしいんだ」
お腹がいっぱいで気が大きくなっているのか、ハカセはけだるそうに言いました。
「まあ、かばんの頼みならいいでしょう。この島の長の権限で集めてやるのです」
かばんはにやりと口角を上げました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます