第2話 学校

「あ、熱い…」

季節は初夏、降り注ぐ太陽からの熱に耐えながら学校への道を歩く。

初夏なのになぜこんなに暑いのだ。

ついこの前まで凍える寒さだったというのに、最近の地球の気温はどうなっているのか。

学校へと近づくとだんだん見慣れた制服の生徒達が目に入るようになってきた。

校門の前では風紀委員が元気に挨拶をしている。

僕は適当に挨拶を返し校門を通り抜ける。

下駄箱に着き、靴を履き替え教室へ向かう。

教室に到着すると、エアコンの涼しい風が体の熱を逃がしていく。

実はこの感覚が結構気に入っていたりする。

席に着くなり僕は机に突っ伏した。

昨日見た不思議な夢のせいですごく寝不足なのだ。

夢を見ると眠りが浅い事はよく聞くが本当にそうらしい。

まぁ昨日は遅くまでゲームをしていたからというのもあるが……


「だーいち!」

その時後ろから突然のチョップと共に声がした。痛い。

「おい健吾!いきなりなにすんだ!」

朝から一撃を浴びせてきたこの無礼な相手は健吾けんご、幼稚園の頃から仲の良い所謂幼馴染というやつだ。

「いや、お前が登校して早々寝ようとしてたから目を覚ますために一発入れようかと」

「寝かしてくれよ!」

「やなこった。んでどうして眠いわけ?大方夜遅くまでゲームしてたとかだろ」

「いや、昨日見た夢のせいで寝不足なんだ」

そう言うと健吾は笑った。

「夢って!俺も夢くらい見るけどそれで寝不足ってどういうことよ」

「僕も不思議でさ、いつもとこう、違ったんだよ」

「違うって何が?」

「何って…」

「わかった!エッチな夢でも」

そう言った瞬間健吾の頭を勢いよく殴る音が聞こえ彼は頭を押さえてうずくまった。

「朝からなんて事言ってるのよバカ健吾!おはよう大地」

「あ、ああ……おはよう遥」

彼女ははるか、彼女とも幼稚園の頃からの仲であり幼馴染だ、ちなみに健吾とは付き合っている。

「ってーな!なにすんだよバルカ!」

「それはこっちの台詞でしょ!朝っぱらから変なこと言うんじゃないわよ!てか人を兵器みたいに言うんじゃない!」

「エッチって言っただけだろ!健全な男子高校生だったらおはよう感覚で言う言葉だぞ!おはようエッチ!ってな!お前の力は兵器並だ痛あ!」

口の減らない健吾にまたもや鉄拳制裁を下す遥。

この光景もいつも見ている風景だ。

まぁでも、そろそろ止めなければ。

「二人とも、痴話喧嘩はそれくらいに」


「「痴話喧嘩じゃない(わよ)!」」

息ぴったりの返事が返ってきた。

仲が良くてよろしい。

「じゃあ僕はホームルームまでの時間寝させてもらうよ……」

「待ちなさい」

今度は遥に止められた。

「さっきの会話を聞いていたんだけど面白い夢を見たんですって?ホームルームまで暇だから教えてよ」

「やっぱり遥も興味あるんじゃん、エッチな夢♪」

「バッ……違うわよ!ぶん殴るわよ!?」

顔を真っ赤にした遥に拳を構えられ、健吾は両手を上げ降参のポーズを取っていた。

ちなみに遥は陸上部、健吾はテニス部である。

2人共それなりに運動神経はいい方だが遥の方が力は数倍強い。

ちなみに僕は帰宅部である。

特にこれと言ってやりたい事も無く熱が入らないので帰ってゲームして寝るくらいの生活をしている。

「んで、どんな夢を見たのよ?」

痴話喧嘩が終わったらしく改めて遥が訊ねてきたので夢の内容の一部始終を2人に話した。

「へぇ、夢の中でねぇ、所謂RPGの世界か、あれでも大地ってRPGは」

「健吾!!」

言葉の続きは遥に殴……止められ聞く事はなかった。

何が言いたかったのだろうか。

「ごめんね、話の腰を折っちゃって。んでそのアイラ?って子、可愛かった?」

「うん、可愛かったよ。多分年は僕達と同い年くらいかな」

「そして大地はその子に惚れちゃったと?」

「そ、そんなことあるわけ!まだ1回しか会ってないのに!」

「怪しいなあ、顔真っ赤だぞ?」

そう言われてみるとなんだか顔が熱い。

本当に僕は彼女……アイラに惚れてしまったのか?

「健吾、その辺にしておきなさい。相手は夢の中のキャラクターなんでしょ?そんな子に惚れたってもう会うことはないかもしれないじゃない」

「わかんないぞ?漫画やアニメだとそういう子が転校生でやってきたりするもんじゃん?」

「確かにそうだけど……っと、もう先生が来る時間ね、それじゃ大地まだ後で。席戻るわよ健吾!」

「だぁー!引っ張るなってー!」

遥に引っ張られながら健吾も去っていった。

健吾と遥は席が前後なのでとても近い。

そして程なくして担任の先生が教室へ入ってきた。

結局寝る時間もなく朝のホームルームが始まった。

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「はぁー来なかったな転校生」

当然そんな運命的な事はあるはずもなくホームルームが終わり

1限の移動教室に3人で向かいながら来なかった転校生という非日常な存在に思いを馳せている。

「当たり前でしょ。こんな半端な時期に来るわけないじゃない」

「それもそうか、はぁ~」

「ため息つくと幸せが逃げてくぞ」

「あんたは私という彼女がいながら他のヒロインの登場に期待するとはどういう事かな……?」

「痛い痛いギブギブやめて絞めないで!」

死にかけの健吾を見ながら訪れなかった転校生へ思いを馳せる。

もしあの子がうちの学校の同じクラスに転校してきて、一緒に学園生活を送れたら、きっと楽しかっただろうな。

すぐにクラスの人気者になっただろうし、なんならファンクラブだってできるかもしれない。

そう考えているうちに1限の教室へ到着した。

「んじゃ、また後でな」

「担当の古田先生は居眠りには厳しいから寝るんじゃないわよ」

「わかってるって……ふぁぁぁ……」

返事をしながら大きな欠伸が出た。

それを見た遥はため息をついて健吾と一緒に席に着いた。


授業が始まると僕はすぐに眠りに落ちた。

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「大地ー、おーい大地ー起きろー」

「ん……なんだよ健吾、気持ちよく寝てたのに」

「なんだよじゃねーよ。もう授業終わったから、教室戻るぞ」

「あれ……?そんなに長く寝てたのか」

「授業始まるなり爆睡だったわよ。先生も呆れてたわ」

「そうだったのか……でもどうして起こされなかったんだ?古田先生、居眠りには厳しかったはずだけど」

「それはな~」

「私が先生に言ったの。ノートを後で写させておくから今日は眠らせてあげてって」

「学年1位の遥が言うならって先生も渋々納得したんだよ。偉大なる遥様に感謝するんだな」

「なんであんたが偉そうなのよ……まぁこの借りはアイスで許してあげるわ」

「ありがとう遥、多分今日の授業全部寝ると思うから頼むよ」

「そんな事を堂々と宣言されても……わかったわ、今日だけよ。それと、アイス1箱ね」

「恩に着るよ」

宣言通り、今日の授業はずっと眠りっぱなしだった。

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放課後になり、僕は遥のノートを急いで写していた。

5限分もあるので結構な量だ。

遥は、今日の復習がしたいから帰るまでに届けてくれればいいとのことだったので今日中に返さなければならないのだ。

外からは運動部の掛け声や吹奏楽部の楽器の演奏が聞こえてくる。

それらを作業用のBGMにしながら順調にノートを写していった。

無事写し終えた後は、ノートを返すため遥の所属している陸上部へと向かう。

その途中、きょろきょろしながら歩いている女の子を見かけた。

リボンの色から見るに1年生だろうか。

「えっと……ここは……理科室……?」

「ここは調理室だよ」

「わっ!何ですか誰ですか!」

驚かせてしまったらしい。

10m程の距離を取りこちらを怯えた目で見ている。

「ここを一歩でも動くと叫ぶですよ……!」

「ま、待って!僕は怪しい者じゃ……」

「信じられないです。証拠を見せるですよ!」

「うーん……あ、これならどうかな」

そう言ってポケットから生徒手帳を取り出し彼女に渡した。

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「ご、ごめんなさいでした!この学校には今日転向してきたばっかで……」

「いいよいいよ。初めての場所は怖いよね。驚かせてごめん」

転校生、いたんだな。健吾が知ったらどう思うだろうか。

噂になったりするだろうから遅かれ早かれ彼の耳にも届くだろうけど。

「謝らないでくださいです!悪いのは私で……ってこれキリないですね」

「そうだね」

そう言って2人でしばらく笑い合った後

「そういえば、名前はなんて言うの?」

「わたしは近衛このえ千華ちかと言うです。1年生です」

「僕は東大地だよ」

「じゃあ大地先輩!早速お願いがあるですが、いいですか?」

お互いの自己紹介を終えた後、近衛さんが懇願するような顔でそう聞いてきた。

「いいよ。僕にできることであれば」

「校内を案内してほしいです!」

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僕と近衛さんは学校の探検を始めた。

なんでも彼女は一昨日この辺に引っ越してきたそうで校内はおろか、この街の事もあまり知らないらしい。

僕らの通う学校は普通の学校なのでそこまで専門的な教室はない、が知っていないと迷う可能性は高い。

まずは保健室へ向かう、その後は生徒会室、視聴覚室、放送室、体育館、武道場、図書室、理科室、音楽室、美術室を案内した。

職員室は登校初日に訪れたので知っていたのでそこは除外して行った。

全ての教室を案内し終える頃にはすっかり夕方になっていた。

……夕方?

そこで僕は重要な事を思い出した。

「突然立ち止まってどうしたですか?大地先輩」

「ノート、返してない……」

そう、遥にノートを返しに行く途中だったのだ。

事情を言えばわかってくれるだろうか?

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「……で、その子を案内してて忘れていたと」

「申し訳ありません」

もうすっかり部活が終わって帰る準備をし終えていた遥の元へ行くと案の定遥は待っていた。

下駄箱の前で仁王立ちをして。

大方下駄箱を見てまだ靴があったのでここで待っていたのだろう。

「はぁ、もういいから頭あげなさい」

「許してくれるのか?」

「当たり前じゃない、困ってる子を助けてたんでしょ?そんな理由で私がいつまでも怒ってたら私が悪者みたいじゃない」

「違うの?」

「何か言った?」

「な、なにも言ってません!」

「わかればよろしい。それじゃ、私は帰るわ。今日の復習もこれでできるし。あんたはその子を家まで送ってあげなさいよね」

そう言って、遥は手をひらひらさせながら校門の方へと歩いて行った。

「近衛さんもそれでいい?」

「わたしはそれで大丈夫ですよ」

「それじゃ行こうか」

「はいです」

そう言って僕らも校門の方へと歩みを進めた。

近衛さんの家は僕の家からは反対の位置にあるようで、知らない道が続いた。

彼女は小さい頃にこの街にいたらしく、最近父親の仕事の都合でこの街に戻ってきたらしい。

他愛ない話をしているうちに、彼女の家の近くまでやってきた。

「この辺で大丈夫です。今日はありがとうございました!また学校であったらよろしくです!」

「うん、また学校で」

そう言って別れた後、僕も自宅へと帰っていった。

帰ると母親が夕飯を作って待っており、それらを食べ、1日にやる事を殆ど終わらせた後は、いつものようにゲーム……と言いたいがすこぶる眠いので早めに寝ようと思い布団へと入る。

またあの世界に行けるといいなと淡い期待を持ちながら眠りについた。

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Dream Meets アルミのみかん @iceorange

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