第36話 銃は人を救う武器なんだゾっ
「ほっほっほ。さて、お嬢さん。あなたの戦いぶり、見ていましたよ」
この優しそうな婆さんがシルルの対戦相手である。
ステージに二人、対峙する。
「
皮肉めいた響きでバロバロ。対してシルルは。
「
ストレートに聞いた。バロバロは目を閉じ、うなずく。
「ええ、ええ。わしにはちゃんと見えていましたよ。あなた、血を流せば流すほど強くなるようねぇ。自身の生き血に酔いしれて戦うなんて、まるでドラキュラ」
「うふふ、お褒めいただいて光栄です」
いやいや、めっちゃ皮肉を言われてますけど。
僕と勇者様は観客席から見物。
「ねぇ、勇者様。あのバロバロって婆さん、前の試合はどんな勝ち方をしてたの?」
「ハイバラ、お前なぁ。貧乏
勇者様は何だかんだでシルルのことを気にかけている。僕はちょっと嬉しくなった。
「あの
うーむ。悪い予感がするんだよな。
再びステージに目を戻す。
すると。
「うふふ、いやですわ。おば様」
「なーにを恥ずかしがることがあるのさ。わしが若かった頃は、男をたぶらかしては酒代をいただいていたものだよぉ」
「わたくしは紛いなりにも聖職者ですわ。そんなこと……」
「できるさぁ。神は寛大さ。たとえ酒場に聖職がいたとしても、咎める野暮はしないよ」
和気あいあい。シルルは対戦相手の婆さんと楽しそうに談笑していた。
おいおい、何やってんだよ。
「あの阿呆、完全に警戒を解いてやがるな」
「だ、大丈夫かな。シルルさん」
悪い予感は的中した。
先ほどまで普通におしゃべりしていたシルルが膝をついたのだ。
どよどよ……。会場がどよめいた。
「え……。なんですか、これ」
一番困惑しているのはシルル本人だった。
膝の震えが止まらない。結局、ぺたりとお尻をついてしまう。
ポタポタ……。
「うそ……」
生暖かい水滴が垂れる。よく見ると、鼻血だ。
「なかなか時間がかかったねぇ。わしの毒は即効性が売りなのに」
――毒!?
僕と勇者様は辺りを見回した。
最前列の観客たちが苦悶の表情で白目を剥いている。中には鼻血を垂れ流している人もいる。
「おいおい、客もお構いなしってか」
「こ、これが
シルルは全身を痙攣させている。鼻、眼窩、口。あらゆる穴から出血が始まった。意識が残っているかすら危うい。
「おい、ハイバラっ。まずいぞ。あのババア、このまま貧乏
「くそ。そんなこと、絶対にさせないッ!」
かといって、どうする。
呪術師は毒を使う。ロンザの宿場街を救ったときに嫌と言うほど味わった。
呪術師バイロン。あれは強敵だった。
呪術の毒を受けたときの苦しさは尋常ではない。あれをまともに食らったら、反撃など不可能だ。
「貧乏
勇者様の考察はおそらく正しい。
くっそ。こうしている間にも、シルルの体は弱っていく。その様子を見て高笑いをする
ふと、僕は右手に金属の感触と重みを感じた。
「
僕はひらめいた。
そのひらめきを信じることにする。
――『
弾倉Ⅲ に 黒弾『
僕は銃口をステージ上のシルルに向けた。
誰も見ていない。毒におかされた前列の観客たちの介抱で、皆それどころではないのだ。
「フェアじゃないけど」
黒弾『
シルルの表情が柔らいだ。血が止まり、パチパチとまばたきをしている。
毒の痛みから解放されたのだ。
シルルはのそりと、立ち上がった。
「な、なんですって。立てるはずが……」
困惑する
シルルは
その表情はニコニコ。
「おば様。油断させておいて、こんなのひどいですわ。仕返しは、しっかりさせていただきますね」
「ひ、ひぃぃ……」
肉弾戦でのバロバロは無力だ。自らの小さな体を守るように、しわがれた腕を天に上げた。
「わ、わしの負けだよぅ。参った、まいったぁ……」
勝負あり。
二回戦勝者、
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